【ビジ法】
商法グループにおける頻出テーマ


TACビジネス実務法務検定試験®講座
専任講師 田畑 博史


商法グループにおける頻出テーマ

皆さん、こんにちは。前回は、民法グループにおける頻出テーマとして、請負契約を例に注意事項や問題点をお話ししました。今回は、民法の次に出題割合の高い商法グループの具体例を取り上げます。

X社は乳製品の製造販売を行っている株式会社です。X社の取締役Aは、消費期限切れの牛乳を使って自社の乳製品を製造販売することを指示したので、X社では、消費期限切れの牛乳を使った乳製品甲が製造され、それが市場に出回った結果、それを食した消費者Bが食中毒を起こしてしまいました。また、そのことが大きく報道された結果、X社の評判が大きく下がり、不買運動まで起こっているので、X社の株価も大きく下落しています。この場合、取締役Aはどのような責任を負わなければならないのかを検討します。


1.X社に対する責任

AはX社の取締役ですから、会社に損害が生じることのないようきめ細やかな注意を払って職務に取り組む義務を負っています(これを善管注意義務といいます)。また、Aには、法令違反等がないように職務を全うする義務もあります(これを忠実義務といいます)。そうであるにもかかわらず、消費期限の切れた牛乳を使って乳製品を製造販売することを指示することは、これらの義務に違反しています。したがって、AはX社に生じた損害を賠償しなければなりません(これを任務懈怠責任といいます)。今回のケースでは、X社は、被害を受けた消費者Bへの謝罪や賠償、不買運動による利益の減少等の損害を受けていますから、これをAは損賠賠償としてX社から請求されることになります。

2.消費者Bに対する責任

Aは、消費期限切れの牛乳を使うことを指示していますから、その結果、消費者に被害が出ることがわかっていたか、少なくとも、消費者に被害が出る可能性があることへの注意に欠けているといえますから、民法に基づいて、Bへの損賠賠償責任が生じます(これを不法行為責任といいます)。また、この不法行為責任とは別に、Aには、会社法の定める損賠賠償責任も発生します。今回のケースでは、Bの治療費や入院等で仕事を休む羽目になったのであれば、その分の賃金相当額、さらには、Bの精神的な苦痛を慰謝料として、賠償しなければなりません。このように、取締役は、会社やその内部の人間以外の「第三者」に対しても、重い責任を負うことになります。

3.株主に対する責任

X社や取締役Aにとって、消費者Bが「第三者」であれば、X社の株主もまた「第三者」といえます。したがって、Aは、Bに対するのと同様に、株主の株価下落についても責任を問われることになります。ここでも、民法上の不法行為責任、会社法上の責任が株主に対して生じます。
ここまで見てきたように、株式会社の取締役は、会社の損失だけでなく、株主を含む第三者の損失まで賠償すべき重い責任を負う立場にあります。そのこともあって、現実社会では、取締役に就任することを嫌がる人も多いのです。しかし、会社の経営を任せることのできる有能な人材は、世の中にいくらでもいるわけではありません。そこで、会社法は、あらかじめ取締役の責任を軽減することを決めた上で取締役に就任させることを認めています。また、15年くらい前に、株式会社の一種として、アメリカの制度に倣った各種委員会を設置する形態(これを指名委員会等設置会社といいます)が導入されたのですが、これを採用する場合、多くの取締役の存在が不可欠となり、なかなかこの形態に移行する株式会社が増えない状況でしたので、もう少し簡単に委員会を設置できる形態の株式会社の制度も近年導入されています。

以上が、取締役として負うべき責任の内容です。これらは3級でも基本理解が出題されますし、2級では踏み込んだ形で出題される重要テーマとなります。

では、次回は、次に出題頻度の高い知的財産グループを考えてみます。