【司法書士】
一般的な司法書士事務所とは?


 梅雨明け間近で,猛暑日が記録されるようになりました。司法書士本試験も終わり,結果はどうあれ,少し落ち着かれた方も多いのではないでしょうか。
 早速ですが,今回は,前回に続き,司法書士試験合格者の進路のうち司法書士事務所に補助者として就職する場合の当該司法書士事務所の仕事について,依頼元を分け,依頼を受ける仕事についてご紹介してまいります。今回は,もっとも数が多いと思われる司法書士事務所(以下,「一般的な司法書士事務所」という。)の仕事をご紹介します。

1 一般的な司法書士事務所とは?

 不動産登記と商業登記をそれぞれ受託するいわゆる登記業務中心の事務所が一般的な司法書士事務所といえるでしょう。不動産登記と商業登記の受託件数の割合は,5:5あるいは7:3などその事務所ごとによって異なります。特に,大都市圏では会社数が多いことから,商業登記の比率が多くなりますし,地方では,会社数が少ない反面,不動産開発に伴う不動産の所有権の移転など不動産登記の割合が多くなる傾向があるといえます。
 いずれにしても,登記業務を中心として行い,その他の業務(裁判業務等)は依頼があれば受託するか,専門の他の事務所を紹介することもあるのが特徴です。
 規模的にはあまり大きくなく,本職のみ,あるいは本職と補助者各1名(多くて数名)程度の事務所が多いです。

2 不動産登記に関する仕事と依頼元
(1) 個人の顧客
 個人の顧客からは,不動産の所有者の死亡に伴う相続による所有権移転登記や住宅ローンを完済したことに伴う抵当権抹消の登記,贈与による所有権移転登記,所有権保存登記の依頼が多いです。
 相続による所有権移転登記では,被相続人の出生(少なくとも10歳程度)から死亡までの戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む。以下,「戸籍謄本」という。)の取得が必要ですので,依頼があった場合には,戸籍の記載事項を読んで出生まで遡る戸籍謄本を取得しなければなりません。登記に使用する戸籍謄本については,司法書士の職務上請求書というものがあり,相続人からの委任状がなくても,相続人から依頼があれば,その用紙を使って戸籍謄本をとることができるようになっています。また,遺産分割に争いのない場合には,相続人の合意の内容を聞いた上で,遺産分割協議書を作成することもあります。その他,顧客が集めた相続書類を確認した上で,不足分を指摘し,本籍地が遠方の場合,郵送の方法で顧客の代わりに戸籍謄本をとる作業をします。その他,固定資産評価証明書から登録免許税を計算し,司法書士報酬と併せて登記の費用がいくらになるか,顧客に説明することになります。そして,書類が揃いしだい,相続を原因とする所有権移転の登記申請書を作成し,登記所に提出します。登記完了後は,登記所で登記識別情報や登記完了証等を受け取るとともに,登記事項証明書を取得し,申請どおりの登記がなされているかチェックした上で,顧客にこれらの書類をお渡しします。
 顧客が住宅ローンを完済したことに伴う抵当権抹消の登記では,金融機関から返却された書類一式(登記原因証明情報である解除証書,登記済証または登記識別情報,委任状など)を預かる一方で,顧客から委任状を預かり,抵当権抹消の登記申請書を作成し,登記所に提出します。登記完了後は登記完了証等申請どおりの登記がなされているかチェックした上で,顧客にこれらの書類をお渡しするのは相続登記と同様です。
 贈与による所有権移転登記では,顧客に必要書類を説明し,その手配を促すと共に,贈与税や不動産取得税がかかることを説明し,場合によっては,税理士を紹介するなど,贈与税がかかるか否か,かかるとした場合,どのくらいの金額かを確認する必要があります。書類だけを預かって,登記の申請をすると,後日,予想していない贈与税等が課せられることとなり,事前に説明がなかったなどと顧客からクレームがつけられることもあるので,望ましくありません。また,特に贈与による所有権移転登記では,本人確認が重要です。いわゆる,ヒト・モノ・意思の確認です。登記権利者や登記義務者と面談し,運転免許証等の本人確認書類を求め,贈与の対象不動産や登記義務者の贈与の意思を確認します。
 その他,自己資金で建物を建てた場合の所有権保存登記の依頼もあります(金融機関から借り入れがあると抵当権等の設定と同時に所有権保存の登記を申請することから,所有権保存登記のみを単独で申請することはほとんどありません。)。表題登記の完了後に,表題登記を手がけた土地家屋調査士から,所有権保存登記を依頼されることもあります。

(2) 税理士事務所または公認会計士事務所(以下,「会計事務所」という。)
 会計事務所からは,相続税の申告後にする相続による所有権移転登記や贈与税確定後の贈与による所有権移転登記の依頼があります。
 個人の顧客から直接依頼される相続による所有権移転登記は,相続財産が土地と建物,あるいは借地権付建物(以下,「居住用不動産」という。)のみであって,相続税が課税されない場合が多いのに対して,会計事務所からの依頼は,相続税が課税される場合が多く,居住用不動産のほかに事業用不動産等があるなど,申請件数も多くなり,大きな仕事になる傾向があります。司法書士にとってはありがたい仕事です。

(3)  銀行等の金融機関等
 銀行等の金融機関からは,売主,買主,仲介業者等関係者が銀行の応接室を借りて行う最終の売買代金決済に伴って生じる,抵当権抹消・所有権移転・抵当権設定の一連の登記(代金の決済に必要な書類がすべて揃っているかを確認するため司法書士が立ち会います。以下,「立会の登記」という。),(根)抵当権の設定,抹消等の依頼があります。各登記の申請に必要な書類がすべて揃っているかを確認すると共に,(1)同様,本人確認が重要です。また,立会の場合には,当日中に各登記の申請をしなければなりませんので,立会当日は,緊張しますし(やがて慣れますが),慌ただしく,忙しいです。
 町の不動産屋からは,土地建物の売買の他,借地権付建物の底地(その土地の所有権)の売買に伴う所有権移転登記(売買代金の支払いがすべて自己資金の場合),立会の登記の依頼があります。この場合も,本人確認が重要です。
 株式会社などの会社・法人からは,売買による所有権移転や協調融資に伴う抵当権の設定の登記,抹消の登記,取引先との間の一定の種類に属する債権を担保するための根抵当権設定登記などを依頼されることがあります。珍しいものとしては,工場財団の登記などを依頼されることもあります。
                  
3 商業登記に関する仕事と依頼元
(1) 会社からの直接依頼
 株式会社から直接依頼される登記には,設立,取締役,代表取締役および監査役の変更の登記,本店移転,商号変更,目的変更,募集株式の発行,吸収合併,解散・清算人の選任等の登記があります。最近では,監査等委員会設置会社の定めの設定の登記なども依頼されます。
 商業登記の申請書に添付する書面は,不動産登記と比べ,当事者が作成するものが多く,司法書士が関与することができる場合が多いのが特徴です。司法書士の力量を示せるよい機会です。登記申請書の作成・提出だけを依頼される場合もありますし,登記申請書の作成・提出に加え,議事録等の作成をも依頼されることがあります。また,会社が作成した議事録(案)を調印前に,チェックしてほしい旨の依頼もあります。さらには,吸収合併などの組織再編について,スケジュールを立て,スケジュールを管理すると共に,登記以外の必要な事務(官報販売所への官報公告の依頼など)を会社に代わってすることもあります。

(2)  会計事務所
 会計事務所からは,会社からの直接依頼と同様,会計事務所が顧問をしている株式会社等の(1)の各登記の依頼があります。

(3) 個人
 今まで個人商人として,業務を行っていた個人が,株式会社を設立し,今までの業務を当該株式会社で行いたいという設立登記の依頼があります(いわゆる「法人なり」)。設立の登記(目的変更の登記でも同じですが)では,目的の表現(明確性,営利性,適法性)が難しいです。また,払込み方法を説明し,払込みがあったことを証する書面を作成するのもポイントとなります。

4 まとめ
 今まで見てきましたように,一般的な司法書士事務所の仕事は地味ですが,かなり業務の幅が広いです。また,人数が少ないことから,接客や電話対応,登記申請書,添付書面等の作成,登記の申請や請求書の作成に至るまで,司法書士業務全般を学ぶことができる利点があります。
 実際開業する方の多くは,当初は本職1名でスタートすることがほとんどだと思いますので,このような司法書士事務所に勤務するのは,実務の実際を知る上で,とても重要です。もっとも,このような形態の事務所では,なかなか求人がないというもどかしさがあります。 
 もし,機会に恵まれれば,このような一般的な司法書士事務所に就職することをおすすめします。