【司法書士】
不動産登記中心の司法書士事務所とは?


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 暑さが厳しくなって参りました。この時期は,こまめに水分を補給するようにし,熱中症にくれぐれも注意してください。炎天下の外出には,帽子・日傘をお忘れなく。
 今回も,前回に続き,司法書士試験合格者の進路のうち司法書士事務所に補助者として就職する場合の当該司法書士事務所の仕事について,ご紹介してまいります。今回は,不動産登記の専門分野に特化した司法書士事務所の仕事をご紹介してまいります。

1 マンションの登記に特化した事務所
 もっぱら,マンションの登記(敷地権付区分建物の所有権保存登記(不動産登記法第74条2項,いわゆる「2項保存」)と抵当権設定の登記)の業務に特化した事務所があります。これらの事務所は,マンション販売の不動産会社と提携して,継続的に大量のマンションの登記を受託し,処理しています。仕事は,敷地権付区分建物の所有権保存登記と抵当権設定の登記の各登記申請書の作成や添付書面の作成,登記の申請を行うということになりますが,形式的・定型的なものが多く,分業が行き届いていると聞いています。
 前回ご紹介した一般的な司法書士事務所より,人数的な規模も大きく,補助者の求人は多いようです。
 しかし,分業が行き届いているため,全般的な登記実務を習得したい方にとっては,不向きかもしれません。
 さらに,この形態の事務所は,マンション販売の不動産会社との間に緊密な関係があります。そのため,のれん分け,あるいは,マンション販売の不動産会社との間によほどのコネクションがある場合でなければ,新規参入は難しいです。新規独立開業をした司法書士が,自分の事務所をこのようにマンションの登記業務に特化した事務所にしようとしても実際の所は難しいでしょう。

2 立会の登記に特化した事務所
 大手不動産仲介会社と提携して,売主,買主,仲介業者等関係者が銀行の応接室を借りて行う最終の売買代金決済に伴って生じる,抵当権抹消・所有権移転・抵当権設定の一連の登記(以下,「立会の登記」という。)の業務に特化した事務所もあります。仕事は,上記の各登記申請書の作成や添付書面の作成,登記の申請を行うということになります。
 仕事は,1同様,登記申請書等の作成は形式的・定型的なものが多く,分業が行き届いているようです。しかし,売主,買主,仲介業者等関係者が銀行の応接室を借りて行う最終の売買代金決済を行う場に立会うのは,司法書士本職しかできない仕事です。
 したがって,合格後に,このような事務所に就職した場合には,司法書士登録を求められ,登録後,立会の場に出向くことが求められるようです。立会の場においては,各登記に必要な書類が揃っているかの確認のほか,本人確認(いわゆる,ヒト・モノ・意思の確認),すなわち,関係者と面談し,運転免許証等の本人確認書類を求め,売買の対象不動産や登記義務者の意思を確認することになります。
 この形態に特化した事務所も,前回ご紹介した一般的な司法書士事務所より,人数的な規模も大きく,補助者の求人は多いようです。一般的な司法書士事務所より,人数的な規模も大きい分,事務所経営等全般的な登記実務を習得するのは難しいかもしれません。しかし,立会の場数を踏むことによって,立会の経験を積むことができ,いざ独立開業をするにあたっては,これらの経験は大いに役立つものと思われます。
 この形態の事務所も1同様の理由で,新規参入は難しいと思われます。もっとも,前回ご紹介した一般的な司法書士事務所でも,立会の登記の依頼を受けることがあるため,立会の登記に特化した事務所に就職しなくとも,立会の登記を経験することはできます。

3 信託の登記に特化した事務所
 不動産登記法で「信託の登記」を学習すると感じられるかと思いますが,「信託の登記」は,取つきにくく,また非常に難しい登記です。しかし,実務では少なからず需要があるのも事実です。そのため,信託の登記に特化した事務所が存在します。このような事務所は,非常に数が少なく,「信託の登記」といえば,「〇〇事務所だ」というように,寡占化されています。一般の司法書士事務所が,たまたま「信託の登記」を受託した場合でも,難しい案件ですと自分の事務所では処理が困難なため,信託の登記に特化した事務所を紹介する例もあるようです。
 このような事務所は,数が少ないため,求人もまた少ないものと思われます。そのため,残念ながら,「信託の登記」の実務を学ぶ機会もまた少ないといわざるを得ません。また,仮に実務を学ぶことができたとしても,事務所が寡占化されているため,のれん分けのようなかたちでなければ,このような事務所形態をとることは難しいでしょう。

4 金融機関の登記に特化した事務所
 立会の登記,(根)抵当権設定,変更,抹消の登記など,個人や企業が金融機関のから借り入れに伴って発生する登記(以下,「金融機関の登記」という。)に特化した事務所もあります。このような事務所は,都市銀行や地方銀行,信用金庫や信用組合の本店または複数の支店から金融機関の登記を継続的に受託しています。一昔前までは,金融機関の登記は,司法書士事務所にとって,ドル箱でした。しかし,最近では,金融機関の合併等による金融機関の数の減少,金融機関の支店の統廃合,立会の登記における司法書士の選任権が金融機関から不動産仲介会社に移転していること,不動産を担保とした融資の減少などにより,金融機関から登記を依頼されることは少なくなっています。このような事情ですので,現在は,金融機関の登記に特化した事務所は少ないのではないでしょうか。もっとも,金融機関でも住宅ローンを集中して取り扱うローンセンターなどでは,案件は少なくないため,ローンセンターから継続的に案件を受託できている事務所は,金融機関の登記に特化した事務所として,生き残っているようです。また,信託銀行の支店では,金融機関の登記のほか,相続登記などの案件もあり,継続的に案件を受託できている事務所は存続することでしょう。
 このような事務所の数は減少しており,また,規模的にもそれ程大きいわけではありませんので,求人はあまり多くないと思われますが,金融機関との関わり方や登記申請書の作成や提出など,このような事務所での実務を経験することができれば,独立開業後に大いに役に立つものと思われます。しかしながら,将来的に金融機関の登記のみに特化した事務所経営は難しいと思われます。なお,(根)抵当権設定,変更,抹消の登記や相続の登記実務は,他の形態の司法書士事務所でも経験することはできます。