【司法書士】
裁判事務等に特化した事務所など


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 西の方から梅雨明けの便りが届いています。本格的な夏の到来を告げるように蝉の声も賑やかになって参りました。
 早速ですが,今回は,前回に続き,司法書士試験合格者の進路のうち司法書士事務所に補助者として就職する場合の当該司法書士事務所の仕事について,事務所のタイプごとにその仕事をご紹介します。

1 渉外登記に特化した事務所とは?
 外国企業の日本法人の設立,外国会社の日本における営業所における各種登記,外国人(特に多いのが韓国人)の相続による不動産の所有権移転登記など,いわゆる渉外登記に特化した事務所もあります。このような事務所では,国内法はもちろんのこと,外国の法律についても一定程度の知識が必要とされます(外国語も同様)。このような事務所も,前回学習した信託登記に特化した事務所のように,数が少なく,寡占化しているといえます。ですから,求人も少なく,このような事務所へ就職することは難しいのが実情だと思われます。しかしながら,渉外登記については,この業務を行う司法書士間で定期的な勉強会(公募あり)をしているようですので,勉強会に出席することである程度知識を深めることは可能でしょう。

2 裁判事務に特化した事務所とは?
 主に,民事事件における訴状,答弁書および準備書面等の作成と裁判所への提出(貸金請求事件,家屋明渡請求事件など),民事保全手続(仮差押え,仮処分の申立書等の作成,裁判所への提出),民事執行手続(債権・動産の差押えの申立書等の作成,裁判所への提出),家事審判手続(特別代理人の選任申立書,不在者の財産管理人の選任申立書,未成年者についての後見人選任申立書,遺産分割調停の申立書等の作成,裁判所への提出),破産手続等の裁判事務に特化した事務所もあります。上記の各業務については,原則として,司法書士は代理権を有しませんので,主に書類の作成を通じて,本人が弁護士に依頼せずに直接訴訟等の手続を行うこと(本人訴訟)を支援する形をとります。  また,平成14年の司法書士法改正(施行平成15年4月1日)により,特別研修ならびに簡裁訴訟代理能力認定考査に合格した場合には,民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法 の規定による訴訟手続の対象となるものに限る。)であって訴訟の目的の価額が140万円以下の民事訴訟,支払督促,当該紛争について相談に応じ,裁判外の和解等について代理することができることとされましたので,これらの事件については,本人の委任を受けて,本人に代理して手続をとることができます。この中でも,特に訴訟の目的の価額が140万円以下の民事事件において,裁判外の和解(示談)交渉を代理できるということは,紛争解決までの時間やコストの削減と事務量の負担軽減等が図れるために双方にメリットが大きいといわれています。貸金業者に対する過払金の請求や債務整理などもこの業務の一つです。
 裁判事務に特化した事務所とは,上記の仕事を業務の中心として行う事務所です。
 裁判は,一定の類型があるとはいえ,事件ごとに内容が異なり,登記のように定型的に処理することはできないため,これを苦手とする司法書士は多いです(信託の登記にように,他の司法書士からの紹介案件も多いと聞きます)。
 裁判事務に特化した事務所は,数は少ないのが実情のようです。そのため,当然ながら求人も少なく,このような事務所で働くことはかなり難しいでしょう。しかし,幸運にもこのような事務所に就職し,民事裁判の流れや保全手続や執行手続を一通り学ぶことができれば,独立開業後,裁判事務に強いことを活かした事務所運営が可能となります。特に,地方では弁護士の数が少ないこともあって,裁判事務の依頼が多いと聞きます。

3 成年後見業務に特化した事務所
 認知症等により判断能力が衰え,財産管理ができない高齢者に代わって,司法書士が財産管理を行う成年後見人に就任するケースは少なくありませんが,このような成年後見業務に特化した事務所も増えています。成年後見業務は,本人に代理して,金銭の出納,銀行預金の管理,本人が入所している施設等への支払い,本人が施設に入るための契約を代理する業務のほか,遺産分割協議を成立させること,本人の不動産の売却することなど多岐の分野にわたります。日本の高齢化は,世界に例を見ないスピードで進んでいることから,成年後見業務はこれからますます事件数は増えていくものと思われます。また,登記業務と異なり,景気変動などの影響を受けないことから,比較的安定した事務所運営ができるメリットがあります。ただし,この業務は,基本的に成年後見人である司法書士本職自身が行わなければならない事務が多く,補助者ではできない事務が多いです。そのため,成年後見業務に特化した事務所は本職1人のところが多く,今のところ,大規模な事務所はないようです。したがって,求人数も少ないでしょう。また,仮にこのような事務所に就職できても,補助者として任される事務は限られると思われます。ですので,自ら積極的に目的意識を持って事務を行い,補助者にできない仕事については,時には本職の鞄持ちをしながら,本職がどのような仕事をしているか十分観察し,それを自分のものにすることが肝心です。これから,伸びる分野であるだけに,成年後見業務に特化した事務所への就職はおすすめです。また,成年後見の申立て,居住用不動産の売却許可の申立など家庭裁判所との関わりも深いです。

4 その他
 その他,供託,帰化申請,裁判外紛争解決手続(ADR),筆界特定業務,企業法務コンサルティングなどの業務を行う事務所もあります。
 供託は,家賃の値上げがなされ,その値上げに不服な借主が大家を相手に,現行の家賃を供託所(法務局)に供託して,債務不履行を免れるための制度ですが,司法書士が借主に代理して今日手続をとることができます。
 また,帰化申請は,外国籍の方が日本国籍を取得するための手続で,これも法務局に書類を提出して申請します。
 裁判外紛争解決手続(ADR)とは,様々な紛争を裁判によらずに,裁判外で公正な第三者(調停人)が関与し,当事者同士の十分な話し合いにより紛争を解決する方法です。日本司法書士会連合会は「認証紛争解決事業者」として法務大臣から認証を受けており,「司法書士会調停センター」として活動を行っているようです。
 筆界特定制度とは,土地の所有者として登記されている人などの申請に基づいて,筆界特定登記官(以下,「登記官」という。)が,外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて,現地における土地の筆界の位置を特定する制度ですが,筆界特定とは,新たに筆界を決めることではなく,実地調査や測量を含む様々な調査を行った上,もともとあった筆界を登記官が明らかにすることです。この制度を活用することによって,公的な判断として筆界を明らかにできるため,隣人同士で裁判をしなくても,筆界をめぐる問題の解決を図ることができます。ただし,筆界特定制度は,土地の所有権がどこまであるのかを特定することを目的とするものではなく,筆界特定の結果に納得することができないときは,後から裁判で争うこともできるとされています。司法書士は,対象となる土地の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額の2分の1に相当する額に筆界特定によって通常得られることとなる利益の割合として法務省令で定める割合を乗じて得た額が金140万円を超えないものについて,相談に応じ,または代理することができ,これを 筆界特定業務といいます。
最近では,商業登記手続の代理の他,弁護士,公認会計士,税理士または社会保険労務士などと提携し,会社設立や会社の事業承継・相続,合併や会社分割等など企業法務の分野でトータルなリーガルサポートを行う事務所も増えているようです。
供託,帰化申請の業務はともかくとして,裁判外紛争解決手続(ADR),筆界特定業務,企業法務コンサルティングなどは,司法書士の業務として緒についたばかりで,研修会などが催されており,これから伸びていく業務であると思われます。