【司法書士】
簡裁訴訟代理人への道(その3)
~職業冥利につきます~

司法書士齋藤・荒井共同事務所

所長 司法書士 齋藤隆行 


 10月にして台風一過の夏日があったかと思えば,急に冷え込む日もあり,寒暖差が激しい厳しい気候です。どうか,風邪などお召しになりませんように。早いもので,今年も残り3か月を切りました。来年の試験を目指す方は,比較的時間に余裕のある今のうちに時間のかかる学習を済ませておきましょう。
 今回は,実際に小職が受託した任意整理事件を基に,前回同様,簡裁訴訟代理人への道について述べて参ります。もっとも,この事件を受託した頃と今とでは状況がかなり変わっておりますので,参考程度にお読み頂けるとありがたく存じます。

1 依頼者との面談
 依頼者Aさんは,いわゆる多重債務者で各貸金業者やクレジット会社に借金を抱え,その支払いに窮し,任意整理を希望され,小職の事務所を訪ねられました。任意整理とは,司法書士や弁護士が,債務者の債務の額を確定すると共に,債権者と過払金の返還,返済の方法や返済の額について交渉をして,裁判所の関与なしに債務者に無理のない支払い条件での合意を成立させる手続きです。Aさんとの面談を通じ,Aさんの希望は破産手続ではなく,任意整理であること(返済の意思が強いこと)を確認し,Aさんがなぜ借金をするに至ったのか(借金の理由),Aさんの借入先や借入額,現在の月々の返済額を大ざっぱに把握しました。また,Aさんの月々の収入(給料)と生活費などの支出を聞き出し,無理なく返済に当てられる金額の見当をつけます。もちろん,司法書士が任意整理の事件を受託できる債権額(あるいは過払金)であること(140万円以下であること)を確認することも大切なポイントです。
 そして,司法書士報酬についても説明し,納得していただきました。司法書士報酬は,一般的に,過払金が生じた場合にはその20%以内,任意整理1社あたり2~3万円が相場のようです。また,任意整理による借入金の減額については,特に請求しない司法書士が多いようです。報酬の理想は,債務者に新たな出費を強いることなく,過払金を司法書士報酬に充当して,残りのお金を債務者に返してあげられることでしょう。

2 事件の受託
 債務者Aさんとの面談により,債務者の方の任意整理,特に返済に対する強い意思が感じられ,かつ,月々の収支からある程度返済原資が確保できそうであることが確認できましたので,小職はAさんの事件を受託することにしました。具体的には,Aさんから,任意整理等の手続の一切につき委任を受ける内容の委任状に署名捺印をいただきました。任意整理の受託において重要なことは,債務者の方が真面目に返済しようとする意思と返済原資が確保できるかどうかということです。任意整理の場合,ある程度債務が残るの普通で,2~3年返済を続けなければならないようなことがあるので,これらの要素が重要な意味を持ちます。依頼者がいい加減な人だと,せっかく,我々が債権者と交渉して返済計画をまとめても,これを守れない危険があります(免除してもらった額や受任通知後の無利息の約束などこちらに有利な約束もすべてダメになります)。また,返済原資が確保できなければ,そもそも債権者と返済計画の交渉をすることができません。要は,債務者の方と我々が信頼関係を築いていけるかどうかということになります。

3 受任通知の発送と債務の額の確定,過払金の取立てと残債の返済の開始
 Aさんから聞き取った貸金業者やクレジット会社宛てに,司法書士である小職が任意整理の委任を受けたので以後取立行為を控えてもらうこと,Aさんと各事業者との取引履歴の開示を求める内容の通知を発送します。そして,各事業者から送られて来た取引履歴を基に,債権者との取引について,利息制限法所定の利率による利息計算(以下,「引き直し計算」という。)をします。計算方法は,無料のソフトがインターネット上で手軽に入手できますので,難しくありません。そして,計算の結果,弁済すべき金額を超えて支払った金額(過払金)があるかどうか,また,債務が残ってしまった場合(残債がある場合)には,その額を各社ごとに表を作成します(エクセル等で)。その上で,過払金の7割程度の額(事業者との交渉で返還可能な額)とAさんの月々の返済原資とを合算し,残債のある各事業者の支払い計画を立てます。残債については,返済期間があまり長い場合や,月々の返済額が5,000円を下ると事業者は交渉を渋りますので,そのあたりのさじ加減が難しいところです。また,あまりギリギリで計画を立てると途中で破綻する危険があるので,ある程度余裕をもった返済計画を立てることが重要です。事業者との電話による交渉がまとまれば,小職がAさんの代理人として和解書(示談書)を取り交わし,過払金については振込み先を教え,残債がある場合には,事業者の振込先を聞きます。Aさんに対しては,和解書の内容を伝え,月々の決まった日に,小職の口座に一定額を送金することを約束してもらいます。そして,いよいよ過払金プラスAさんからの月々の送金額から,残債の返済を始めることになります。残債の返済は,小職がAさんを代理して,各事業者の銀行口座に振込みをする方法をとります。

4 日々の返済の管理と監督
 Aさんがいかに返済に対して真面目でも,Aさんも人間です。月々の決まった日に,送金するはずのお金が半分しか振り込まれないこともあります。あるいは,数日経過しても送金がないこともあります。そういう時は,厳しいようですが,間髪をいれず,催促の電話をかけます。そして,約束のお金が用意できなかった理由が一過性のものなのか(例えば,友人の結婚式などの冠婚葬祭で臨時の支出が出てしまったなど)を確認します。そして,一過性の理由の場合には,来月(送金がない場合には送金できる用意ができた時点で)必ず約束の額を振り込んでくださいと念を押します。このように,返済の期間は,Aさんの監督を続けます。催促の厳しさは,貸金業者以上かもしれません(笑)。

5 そして,迎える完済の日
 Aさんの場合,借金の理由が浪費でなかったことや本人が真面目に返済に取り組んだこともあり,返済はほぼ予定どおり順調に進み,3年後に完済の日を迎えることができました。最後の事業者への支払いが済み,Aさんに完済の連絡をしたときは,小職もホッすると共にうれしかったものです。また,1年後くらいでしょうか,Aさんから,「あの時,先生と出会えたお陰で,先生のお力で借金を返すことができました。今では貯金をする余裕もできました。ありがとうございました。」との感謝の手紙とお菓子が届いたときには,ジーンと来ましたね。司法書士をしていて本当によかったとつくづく思いました。職業冥利につきます。もちろん,お礼の手紙には,「借金が返済できたのは,小職の力ではなく,Aさんが真面目にがんばったからです。そして,貯金のできる今のAさんがあるのですよ。」としたためることを忘れませんでしたよ。w