【司法書士】
2016年度本試験の振り返り・午前の部
~正確な理解が求められる試験~

司法書士齋藤・荒井共同事務所

所長 司法書士 齋藤隆行 


 秋も深まり,冷え込む日が多くなってきました。風邪をひいている人も多いようです。体調管理には,万全を期してください。
 さて,今回から3回に分けて,2016年度の本試験を振り返り,出題内容や難易度等について,分析して参ります。今回は,午前の部をとりあげます。

1 基準点について

 本年度の午前の部(多肢択一式)の基準点は,満点105点中75点でした(法務省HP)。基準点とは,その点数に達しない場合には,それだけで不合格になる点数をいいます。午前の部では,75点(1問3点),すなわち,35問中最低でも25問(約7割程度)得点しなければそれだけで不合格となり,午後の部(多肢択一式・記述式)の答案を採点してもらえないことになります。

2 出題形式

 出題形式は,35問中28問が組み合わせ型,5問が単純正誤型,2問が個数算定型でありました。出題の8割が組み合わせ型の出題形式であり,個別の肢の正確な理解が求められているといえましょう。
 なお,組み合わせ型とは,「次のアからオまでの記述のうち~誤っているものの組合せは後記1から5までのうち,どれか。」という問に対して「1 アエ 2 アオ 3 イウ 4 イオ 5 ウエ」のような肢の組合せの中から正解を求める出題形式のことをいい,個数算定型とは,「誤っているものは,いくつあるか」という問に対して「1 1個 2 2個 3 3個 4 4個 5 5個」のように誤っている肢の数を答えさせる出題形式のことをいいます。

3 各科目
(1) 憲法
 出題数 3問
 基準点クリアー 2問以上の正解
 合格ライン 2問以上の正解
 合格確実ライン 3問全問の正解
 憲法では,①取材の自由,②主権の概念および③司法権に関して出題されました。①と③については,いずれも判例の趣旨をきく問題であり,日頃の判例についての学習の成果が試される問題でした。また,②は,国語力が試される問題ですが,主権の3つの概念(国家権力そのもの(国家の統治権),国家権力の属性としての最高独立性,国政についての最高の決定権)を整理した上で,具体的にどのようなものがいずれに該当するかを学習しておかなければ,正解にたどり着くのは困難であったと思われます。②は,正解率も低かったものと推測されます。
 憲法では,基準点クリアーおよび合格ライン到達のために,①と③を正解し,3問中2問以上の正解が欲しいところです。

(2) 民法
 出題数 20問
 基準点クリアー 17問以上の正解
 合格ライン 18問以上の正解
 合格確実ライン 18問以上の正解
 民法は,総則から3問,物権・担保物権から9問,債権から4問,親族・相続から4問の計20問が出題されました。総則から①不在者の財産管理人,②無権代理,③消滅時効の起算点と中断の問題が出題されました。また,物権・担保物権からは,①不動産の物権変動,②即時取得(盗品の回復),③動産の占有権,④有償の地上権,⑤先取特権,⑥金銭債権を担保するための抵当権の設定,⑦法定地上権の成否,⑧共同抵当権と配当,⑨譲渡担保が出題されました。債権からは,①債務の不履行による損害賠償,②連帯債務と連帯保証との異同,③賃貸借,④不法行為による損害賠償が出題されました。親族・相続からは,①内縁関係,②親権者や後見人の財産管理権,③相続と登記,④遺留分が出題されました。いずれも,判例の趣旨をきく問題がほとんどを占めており,判例の学習の重要性があらためて浮き彫りになった感があります。また,判例の要旨だけを暗記していれば足りる問題ではなく,判例の趣旨が事例形式で出題されてもこれに対応することができる応用力が求められています。もっとも,総則の①不在者の財産管理人,③消滅時効の起算点と中断が,物権・担保物権の⑧共同抵当権と配当,⑨譲渡担保の問題を除き,正解率はいずれの問題でも高いもの(7割以上)と推測されます。
 民法では,基準点クリアーのために,総則①③,物権・担保物権⑧を除く17問は必ず正解したい問題であり,物権・担保物権⑨も正解し,18問正解すれば合格ラインおよび合格確実ライン到達といえるでしょう。

(3) 刑法
 出題数 3問
 基準点クリアー 2問以上の正解
 合格ライン 2問以上の正解
 合格確実ライン 3問全問の正解
 刑法では,①間接正犯,②窃盗罪と③国家的法益に対する罪に関して出題されました。
刑法でも,3問ともすべて判例の趣旨をきく問題でした。①は,刑法総論からの出題であって,判例の趣旨が事例形式で出題されていますので,②③に比べて難易度は高く,正解率は低かったのではないでしょうか。
 刑法では,基準点クリアーおよび合格ライン到達のために,②③は必ず正解したい問題であり,①も正解し,3問全問正解すれば合格確実ライン到達といえるでしょう。

(4) 商法
 出題数 9問
 基準点クリアー 4問以上の正解
 合格ライン 7問以上の正解
 合格確実ライン 7問以上の正解
 商法では,①株式会社の設立,②株式の担保化,③単元株制度,④大会社,⑤監査役会設置会社と監査等委員会設置会社との異同,⑥持分会社,⑦新設分割,⑧特定責任追及の訴えの制度,⑨商人(小商人,会社及び外国会社を除く。)の支配人に関して出題されました。商法は,ほとんどが条文からの出題であり,個々の条文の正確な理解が求められました。しかしながら,個数算定型の出題が多かったためか,正解を出すのが難しく,特に,④から⑨(⑦を除く。)にかけてはいずれも正解率は低いものと推測されます。
 商法では,基準点クリアーのためには,①~③および⑦の4問は必ず正解したい問題であり,合格ラインおよび合格確実ライン到達のためには,①~⑥または⑨の7問の正解が欲しいところです。

4 まとめ
 以上から,2016年度の本試験においては,午前の部の基準点クリアーは35問中25問(満点105点中75点=基準点75点)以上の正解,合格ラインは35問中29問(満点105点中87点)以上の正解,合格確実ラインは,35問中31問(満点105点中93点)以上の正解が必要であったものと予想されます。