【司法書士】
2016年度本試験の振り返り・午後の部
記述式(不動産登記法)
~記述式は時間との戦い~

司法書士齋藤・荒井共同事務所

所長 司法書士 齋藤隆行 


早いもので,今年も残すところ2か月を切りました。来年の受験をお考えの方は,時間のある年内にうちに苦手な部分の学習を済ませ,これを克服しておきましょう。
さて,今回は,2016年度の本試験・午後の部(記述式・不動産登記)をとりあげます。

1 基準点について
 本年度の午後の部(記述式)の基準点は,不動産登記(満点35点),商業登記(満点35点)の合計70点中30.5点でした(法務省HP)。基準点とは,その点数に達しない場合には,それだけで不合格になる点数をいいます。午後の部(記述式)では,30.5点,すなわち,不動産登記と商業登記を併せて約43.57%得点しなければそれだけで不合格となります。これは,択一式試験に比べれば,ハードルが低くなっていますが,それだけ,受験者の記述式試験の得点が伸びなかった(記述式が難しい等)という事実の裏返しになります。

2 出題形式
 出題形式は,不動産登記の記述式については,登記申請書のうち,登記の目的,登記原因およびその日付,登記事項,添付情報,登録免許税額を答えされるもの,司法書士が助言した手続の内容および理由を答えさせるものでした。

3 不動産登記(記述式)の問題と解答の概略
(問)問題を要約しますと,司法書士は,呈示された登記簿につき,次の事実を聴取し,これに基づき作成した登記の申請書に記載すべき所定の事項,かつ,依頼者に必要な手続についてした助言の内容および理由をそれぞれ答えさせるものでした。
● 平成28年4月11日の聴取事項
(1) 甲土地は,甲野花子とその夫甲野一郎の各2分の1ずつの共有である。
(2) 依頼者甲野花子は,夫甲野一郎との間で次の内容の夫婦関係調整調停を成立させた。
①離婚すること,②離婚に伴う財産分与として200万円を支払うこと,③②の金銭を支払ったときには,夫甲野一郎はその所有する甲土地の持分を甲野花子に財産分与を原因に持分全部移転登記手続をすること。なお,夫甲野一郎は住所を移転している。
※ 司法書士は,甲野花子に⑵の登記の申請に先立って終えるように助言した手続がある。
● 平成28年5月25日の聴取事項
(1) 依頼者甲野花子は,住所を移転した。
(2) 夫甲野一郎がH銀行に債務の弁済をし,甲土地の既登記抵当権が解除された。また,同時に既登記根抵当権が解除された。なお,登記簿上の抵当権者であるE銀行は,現在,H銀行に吸収合併されている。
(3) 乙建物は,甲野花子の父乙野太郎が経営する株式会社Aレストランの所有である。
(4) 甲土地と乙建物を共同担保とするH銀行の既登記根抵当権が解除された。
● 平成28年6月24日の聴取事項
(1) 甲土地に設定されている株式会社P商事の根抵当権をQ食品有限会社に一部譲渡し,かつ,乙建物をその根抵当権の共同担保として,根抵当権の追加設定をした。
(答)
(甲土地について)
1 代位による甲土地の甲野一郎の住所変更登記
2 財産分与を原因とする甲野一郎持分全部移転(調停調書正本に基づく単独申請)
※ 調停調書への執行文の付与を助言。執行文が付与されたときでなければ登記義務者の登記申請の意思表示をしたものとみなされないから。
3 甲野花子の住所変更登記
4 H銀行がE銀行を吸収合併したことによる抵当権の移転登記
5 H銀行を(根)抵当権者とする(根)抵当権の抹消登記
6 株式会社P商事を根抵当権者とする根抵当権のQ食品有限会社への一部譲渡による一部移転登記
(乙建物について)
1 株式会社P商事およびQ食品有限会社を根抵当権者とする共同根抵当権設定(追加)の登記

4 予想合格点
 記述式試験については,不動産登記と商業登記の合計点しか公表されておりませんので(法務省HP),不動産登記の記述式のみの予想合格点を算出するのは困難ですが,敢えて,不動産登記と商業登記がそれぞれ平均的に得点できたと仮定すると,少なくとも72.14%の得点,すなわち,35点中26点程度の得点が必要だったものと思われます。

5 今年の不動産の記述式試験と今後の取り組み方
 今年の不動産の記述式試験は,解答例を一見するとそれほどの難問でないと思われますが,問題文や別紙の数が多く,ボリュームのある出題であったといえます。また,対象不動産が2つあり,関係当事者の数も多いことから,与えられた問題文や別紙を精査し,正確な答案を作成するにはかなり時間がかかったものと推測されます。近年の出題は,とにかく問題量が多く,時間との闘いとなるという傾向がみられます(特に,記述式問題)。このような傾向に対応するには,従来のように,例えば3時間の試験時間のうち,択一式試験に2時間,記述式試験にはそれぞれ30分ずつといった時間配分では試験時間内にすべてを解答することは極めて困難であると思われます。現実問題として,記述式試験で時間を短縮することは困難であることから,択一式試験の解答時間を短縮するように心がける必要があります。例えば,択一式試験1時間,不動産登記の記述式試験1時間,商業登記の記述式試験1時間のような配分が考えられます。それには,日頃から,短時間で択一式試験を解く訓練をすると共に,記述式試験も早く正確に解答できるように問題演習重視の学習法をとることが重要と思われます。