【司法書士】
2016年度本試験の振り返り・午後の部記述式(商業登記法)
~商業登記を得意科目にして、ここで点を稼ごう!~


司法書士齋藤・荒井共同事務所

所長 司法書士 齋藤隆行 


 早くも冬の足音が聞こえてきました。コートやマフラーが恋しい季節となりました。今年はすでにインフルエンザが猛威を奮っているようです。インフルエンザ対策には万全を期し,インフルエンザに罹患し,年内の貴重な学習時間を棒に振らないように気をつけましょう。
 さて,今回は,2016年度の本試験・午後の部(記述式・商業登記)をとりあげます。

1 基準点について
 本年度の午後の部(記述式)の基準点は,不動産登記(満点35点),商業登記(満点35点)の合計70点中30.5点でした(法務省HP)。基準点とは,その点数に達しない場合には,それだけで不合格になる点数をいいます。午後の部(記述式)では,30.5点,すなわち,不動産登記と商業登記を併せて約43.57%得点しなければそれだけで不合格となります。これは,択一式試験に比べれば,ハードルが低いように見えますが,それだけ,受験者の記述式試験の得点が伸びなかった(記述式の問題が難しい等)という事実の裏返しになります。

2 出題形式
 出題形式は,商業登記の記述式については,登記申請書のうち,登記の目的,登記すべき事項,登録免許税額,添付書面の名称とその通数を問うと共に,登記することができない事項および理由を答えさせるものでした。

3 商業登記(記述式)の問題と解答の概略
(問)問題を要約しますと,司法書士は,呈示された登記記録につき,次のような別紙として示された書面と会社の代表者から聴取した事実に基づき作成した登記の申請書に記載すべき所定の事項(第1欄および第2欄),かつ,登記することができない事項および理由(第3欄)をそれぞれ答えさせるものでした。
● 第1欄~平成28年6月2日申請分
別紙1 登記記録の抜粋(ワンツー株式会社)
別紙2 平成28年5月30日開催の定時株主総会における議事の概要
 定款を変更し,監査役設置会社・監査役会設置会社の定めを廃止し,監査等委員会設置会社の定めの設定,重要な業務執行の決定の取締役への委任についての定めの設定をすると共に,取締役(監査等委員会である取締役およびそれ以外の取締役)の選任,吸収分割契約の承認が諮られ,可決承認されている。会計監査人についての別段の決議なし(⇒会計監査人のみなし再任)。
別紙3 平成28年5月30日開催の定時株主総会における議事の概要
 代表取締役の選定が諮られ,可決承認されている。
別紙4 平成28年5月13日付けの吸収分割契約書の抜粋
別紙8 司法書士の聴取記録
 新株予約権が行使されたことほか
● 第2欄~平成28年7月4日申請分
別紙5 登記記録の抜粋(スリー株式会社)
別紙6 平成28年6月28日開催の臨時株主総会における議事の概要
 定款を変更し,監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めを廃止すること,吸収分割契約の承認,吸収分割の効力発生を条件とする取締役の選任,監査役の選任が諮られ,可決承認されている。
別紙7 平成28年6月28日開催の取締役会における議事の概要
 吸収分割の効力発生を条件とする代表取締役の選定が諮られ,可決承認されている。
別紙9 司法書士の聴取記録
 吸収分割に伴う債権者異議手続が適法に行われたこと,吸収分割の対価と株主資本等変動額ほか
(答)
● 第1欄(ワンツー株式会社)
 取締役,監査等委員である取締役,代表取締役,監査役および会計監査人の変更
 新株予約権の行使・新株予約権の行使期間満了
 監査役設置会社,監査役会設置会社の定めの廃止
 監査等委員会設置会社の定めの設定
 重要な業務執行の決定の取締役への委任についての定めの設定
● 第2欄(スリー株式会社)
 取締役および監査役の変更
 監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めを廃止
 吸収分割による変更
● 第3欄(スリー株式会社)
 吸収分割の効力発生を条件とする代表取締役の選定は,代表取締役の予選となるため,登記できない事項となる。

4 予想合格点
 記述式試験については,不動産登記と商業登記の合計点しか公表されておりませんので(法務省HP),商業登記の記述式のみの予想合格点を算出するのは困難ですが,敢えて,不動産登記と商業登記がそれぞれ平均的に得点できたと仮定すると,少なくとも72.14%の得点,すなわち,35点中26点程度の得点が必要だったものと思われます。

5 今年の商業登記記述式試験と今後の取り組み方
 今年の商業登記の記述式試験は,解答例を一見すると難問ではありません。しかし,問題文や別紙の数が多く,ボリュームのある出題であったといえます。また,組織再編(吸収分割)が出題され,登記の申請をする会社が2社あったため,与えられた問題文や別紙を精査し,正確な答案を作成するにはかなり時間がかかったものと推測されます。解答する量もかなり多い問題でした。不動産登記の記述式試験以上に時間との闘いだったといえましょう。近年の記述式問題の出題は,とにかく問題量・解答量もそれぞれ多く,時間との闘いとなるという傾向が顕著です。不動産登記の記述式でも述べましたが,このような傾向に対応するには,従来のように,例えば3時間の試験時間のうち,択一式試験に2時間,記述式試験にはそれぞれ30分ずつといった時間配分では試験時間内にすべてを解答することは極めて困難です。現実問題として,記述式試験で時間を短縮することは困難であることから,とにかく択一式試験の解答時間を短縮するように心がける必要があります。例えば,択一式試験1時間,不動産登記の記述式試験1時間,商業登記の記述式試験1時間のような配分が理想的でしょう。それには,日頃から,択一式試験を解くときの時間を計り,時間内に所定の解答ができるような訓練をすると共に,記述式試験においてもなるべく早く,かつ,正確に解答できるように問題演習重視の学習法をとることが重要と思われます。なお,吸収分割のような組織再編の問題は,ここ数年で出尽くした感があります(今まで問われていないのは,株式移転と新設合併)。来年からは,種類株式発行会社における増資(募集株式の発行または新株予約権の行使)と役員変更を中心にした問題に戻るものと予想されます。

6 商業登記の記述式を苦手科目としないように~ここで点を稼ごう!
 受験生の皆さんの多くは,不動産登記の択一式・記述式を得意としています。ですから,不動産登記はできて当たり前(点差がつかない),できなければ不合格ということになります。これに対し,商業登記の択一式・記述式については,主要科目でありながら,これを苦手とする受験生の方が多いです(実力者であってもしかりです)。非常に残念なことです。そのため,商業登記で高得点を得ることができれば,合格への近道となることは間違いありません。そこで,受験生の皆さんへ一言,「商業登記を得意科目にして,ここで点を稼ごう」と申し上げたく存じます。