【司法書士】
記述式の学習~その2~
司法書士「法務律子」が受けた依頼~



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 寒暖の差の激しい気候に見舞われています。あろうことか,受験生の皆さんの健康を心配する立場の小職がインフルエンザに罹患してしまい,5日間外出禁止になってしまいました。予防接種も受け,うがい・手洗いを励行していたにもかかわらずです。医師によると予防接種は年内に受けないとダメだそうです。最近は,よい薬が出ていて,早めの薬の服用で重篤な状態にはならずに済みました。
 さて,今回は,不動産登記の所有権移転登記を学習します。中・上級者の方は,今回もいささか退屈かと思いますが,基礎の確認ということで,どうかお付き合いください。

<問題>

 登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地と乙建物について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び乙野次郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続及び登記識別情報の暗号化及び受領について代理することの依頼を受けた。
 司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。記載すべき事項がない場合には,「なし」と記載しなさい。
 登記の申請日は,平成29年7月1日とし,土地の価額は1000万円,建物の価額は500万円とし,租税特別措置法等による税の減免に関する規定の適用はないものとする。
 (登記記録の記録)
 甲土地
 表題部(省略)
 権利部
 甲区
 1番(省略)
 2番 所有権移転
   平成27年1月30日受付第3345号
 所有者 東京都新宿区東新宿一丁目2番3号 甲野太郎
 (権利部乙区には,登記の記録はない)

 乙建物
 表題部(省略)
 権利部
 甲区
 1番 所有権保存 
    平成27年9月1日受付第7785号
 所有者 東京都新宿区東新宿一丁目2番3号 甲野太郎
 (権利部乙区には,登記の記録はない)

 (事実関係)
 1 平成29年6月4日,甲野太郎は,乙野次郎(住所 東京都杉並区和泉三丁目2番1号)との間で,甲土地及び乙建物を売り渡す旨の売買契約を締結した。
 2 この売買契約には,乙野次郎が甲野太郎に対し,甲土地及び乙建物の売買代金を支払ったときに,甲土地及び乙建物の所有権が乙野次郎に移転する旨の特約がある。
 3 平成29年7月1日,乙野次郎が甲野太郎に対し,甲土地及び乙建物の売買代金を支払った。


<答案用紙>

登記の目的(     )
登記原因及びその日付(          )
権利者(                   )
義務者(                   )
添付書面(                                  )
課税価格(         )
登録免許税(        )


<解答例>

登記の目的(所有権移転
登記原因及びその日付(平成29年7月1日売買
権利者(東京都杉並区和泉三丁目2番1号 乙野次郎
義務者(東京都新宿区東新宿一丁目2番3号 甲野太郎
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書 住所を証する情報 代理権限を証する情報
課税価格(金1500万円
登録免許税(金30万円

<解説>

1 売買による所有権移転の登記
 売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生じる契約です(民法555条)。売買による所有権の移転は,原則として,契約締結の意思表示の時にその効力を生じますが(意思主義,民法176条),所有権移転の時期を代金支払いの時とする特約を付することは差し支えありません(最判昭38.5.31参照)。実務上も,当事者の公平の観点からこのような特約を付する場合がほとんどです。
2 申請の当事者
 売買により不動産の所有権が移転したときは,買主を登記権利者,売主を登記義務者として,共同で登記の申請をします(共同申請,不動産登記法60条)。
3 登記申請情報(登記申請書)の作成
⑴ 登記の目的 
 「所有権移転」と記載します。 
⑵ 登記原因及びその日付
 所有権移転の時期を代金支払いの時とする特約を付した場合には,代金支払いの日に不動産の所有権が移転するので,代金支払いの日(平成29年7月1日)を登記原因の日付として記載します。売買契約の日(平成29年6月4日)を記載するのではありません。
⑶ 申請情報の内容
 登記権利者と登記義務者の住所・氏名を記載します。
⑷ 添付情報
 登記原因証明情報(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号,不動産登記令別表30添付情報イ)のほか,登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条),作成後3か月以内の印鑑証明書(不動産登記令18条2項・3項),登記権利者の住所を証する情報(不動産登記令別表30添付情報イ),登記権利者及び登記義務者からの司法書士に対する代理権限を証する情報(不動産登記令7条1項2号)を添付します。
⑸ 課税価格と登録免許税
 課税価格は,不動産(土地と建物)の価額の合計額を記載します。また,登録免許税の税率は,1000分の20であり(登税別表第1.1(2)ハ),課税価格に登録免許税の税率を乗じた額が登録免許税額となります(百円未満切捨て)。本問では,金1500万円×20/1000=金30万円になります。
4 本問の検討
 本問の土地及び建物の登記記録には,甲野太郎が所有者である旨の登記がなされています(登記記録の記録)。そして,乙野次郎との間で,代金の支払いの時に土地及び建物の所有権が移転する旨の特約が付された売買契約が平成29年6月4日に締結され(事実関係1,2),平成29年7月1日,乙野次郎が甲野太郎に対し,甲土地及び乙建物の売買代金を支払っています(事実関係3)。したがって,平成29年7月1日付け売買を原因とする所有権移転登記を申請します。