【司法書士】
記述式の学習~その3~
司法書士「法務律子」が作成すべき登記申請情報~



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 立春を過ぎたとはいえ,寒暖の差の激しい毎日ですね。小職も,ようやくインフルエンザが治癒し,職場復帰をいたしました。今,全国的にインフルエンザが猛威を振るっているようです。皆さんも気をつけてくださいね。
 さて,今回も,前回に引き続き,不動産登記の所有権移転登記を学習します。

<問題>

 登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,乙野次郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続及び登記識別情報の暗号化及び受領について代理することの依頼を受けた。
 司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。登記原因証明情報を提供する必要があるときは,その具体的書面について括弧書で記載しなさい。また,記載すべき事項がない場合には,「なし」と記載しなさい。
 登記の申請日は,平成29年7月1日とし,土地の価額は1500万円とし,租税特別措置法等による税の減免に関する規定の適用はないものとする。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成27年2月15日受付第2216号
   所有者 東京都新宿区水道町1番2号 甲野太郎
(権利部乙区には,登記の記録はない)

(事実関係)
1 平成28年4月1日,甲野太郎は,乙野次郎(住所 東京都新宿区西新宿三丁目2番1-1120号)との間で,甲土地を売り渡す旨の売買契約を締結し,同日付けで乙野次郎は,売買代金の全額を甲野太郎に支払った。
2 ところが,甲野太郎は,乙野次郎の再三の請求にもかかわらず,所有権移転登記に協力しようとしない。
3 そこで,乙野次郎は,東京地方裁判所に,甲野太郎を被告とし,甲土地の所有権移転登記手続を求める訴訟を提起した。
4 平成29年6月10日,東京地方裁判所は,乙野次郎の訴えを認め,「甲野太郎は,甲土地につき,乙野次郎に対し,平成28年4月1日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」との判決を下した。そして,この判決は,平成29年6月30日に確定した。

<答案用紙>

登記の目的(     )
登記原因及びその日付(          )
権利者(                   )
(      )
義務者(                   )
添付書面(                                  )
課税価格(         )
登録免許税(        )

<解答例>

登記の目的(所有権移転
登記原因及びその日付(平成28年4月1日売買
権利者(東京都新宿区西新宿三丁目2番1-1120号 乙野次郎
申請人
義務者(東京都新宿区水道町1番2号 甲野太郎
添付書面(登記原因証明情報(判決正本及び確定証明書) 住所を証する情報 代理権限を証する情報
課税価格(金1500万円
登録免許税(金30万円

<解説>

1 判決による登記
 判決による登記とは,共同で申請すべき登記の申請人の一方(主として登記義務者)が,登記申請に必要な書類を交付しないなど,登記手続に協力しない場合に,他の一方(主として登記権利者)が登記に協力しない者を被告として,訴えを提起し,登記申請の意思表示に代わるべき確定判決(登記手続を命じる給付判決)を得て,その判決を得て単独で申請する登記のことをいいます(判決による登記,不登§63Ⅰ)。この場合の判決とは,一定内容の登記手続をすることを命じた給付判決であることを要し,かつ,確定している判決であることを要します。債務者(被告)の意思表示の擬制を求める裁判においては,判決が確定した時に債務者(被告)が登記申請の意思表示をしたものとみなされるからです(意思表示の擬制,民執§174Ⅰ)。なお,ここでいう「判決」には,一定内容の登記手続をすることに合意した和解調書,調停調書などを含みます。
2 申請の当事者
 登記権利者が登記義務者を被告として,登記手続を命じる給付判決を得たときは,登記権利者が単独で登記を申請することができます(単独申請,不登§63Ⅰ)。債権者(原告)の所有権を認めた確認判決や,登記手続に必要な書類を交付する旨を命じた給付判決では,登記権利者(原告)が単独で登記を申請することはできません。
3 登記申請情報(登記申請書)の作成
(1) 登記の目的 
「所有権移転」と記載します。 
(2) 登記原因及びその日付
判決主文に登記原因及びその日付が明示されているので,当該登記原因及びその日付をそのまま記載します。本問では,「平成28年4月1日売買」と記載します。判決が下された日(平成29年6月10日)や判決が確定した日「平成29年6月30日」を記載するのではありません。
(3) 申請情報の内容
登記権利者と登記義務者の住所・氏名を記載します。単独申請であっても,登記義務者の記載を省略することはできません。なお,登記権利者が単独で申請する場合には,その旨を登記官に明らかにするため,登記権利者の次に括弧書で「(申請人)」と記載します。
(4) 添付情報
この登記においては,申請情報と併せて,登記原因証明情報として判決書正本および確定証明書を提供することを要します(不登令§71⑤ロ(1),質疑登研170P101)。確定した給付判決により登記義務者の登記申請意思が擬制されていることを証するためです。申請情報と併せて登記義務者の登記識別情報(登記済証)を提供することを要しません(不登§22参照)。また,登記義務者の印鑑証明書および代理権限を証する情報を提供することも要しません。確定した給付判決についての判決書正本および確定証明書の提供によって,登記義務者の登記義務者(登記済証),印鑑証明書および代理権限を証する情報を提供しなくとも,登記手続の真正は担保されているからです。要は,判決書正本および確定証明書の提供に加え,登記権利者側の添付情報(住所を証する情報と代理権限を証する情報)のみを提供すれば足りるということになります。
(5) 課税価格と登録免許税
課税価格は,不動産(土地)の価額を記載します。また,登録免許税の税率は,1000分の20であり(登税別表第1.1(2)ハ),課税価格に登録免許税の税率を乗じた額が登録免許税額となります(百円未満切捨て)。本問では,金1500万円×20/1000=金30万円になります。判決による単独申請であっても,登録免許税額は,通常の「売買」の場合と変わりません。
4 本問の検討
 本問の甲土地の登記記録には,甲野太郎が所有者である旨の登記がなされています(登記記録の記録)。そして,平成28年4月1日,乙野次郎との間で売買契約が締結され,乙野次郎は,売買代金の全額を甲野太郎に支払っています(事実関係1)。ところが,甲野太郎は,乙野次郎の再三の請求にもかかわらず,所有権移転登記に協力しようとしないことから(事実関係2),乙野次郎は,東京地方裁判所に,甲野太郎を被告とし,甲土地の所有権移転登記手続を求める訴訟を提起しました(事実関係3)。そして,東京地方裁判所は,「甲野太郎は,甲土地につき,乙野次郎に対し,平成28年4月1日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」との判決を下し,この判決は,平成29年6月30日に確定しています(事実関係4)。したがって,乙野太郎は,この判決に基づき単独で所有権移転登記の申請をすることを司法書士法務律子に依頼することになります。