【司法書士】
記述式の学習~その4~
司法書士「法務律子」が把握した事実関係



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


全国的に寒い毎日が続いております。受験勉強にとっても,厳しい気候ですが,寒さに負けずにがんばってくださいね。
さて,今回も,前回に引き続き,不動産登記の所有権移転登記を学習します。

<問題>

登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,甲野花子から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。登記の申請日は,平成29年7月1日とし,土地の価額は1800万円とし,租税特別措置法等による税の減免に関する規定の適用はないものとする。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成8年4月20日受付第12216号
   平成8年4月20日売買
所有者 東京都新宿区坂町1番1号 甲野太郎
(権利部乙区には,登記の記録はない)
(事実関係)
1 平成29年6月2日,甲野太郎は,死亡した。甲野太郎の相続人は,妻甲野花子,長男甲野一郎および長女乙野桜子である。
2 亡甲野太郎の作成に係る遺言書はない。
3 平成29年8月15日,甲野花子,甲野一郎および乙野桜子の3名で遺産分割協議を行い,亡甲野太郎の遺産である甲土地は,妻甲野花子が相続することに決定した。
4 亡甲野太郎の死亡時の住所は,東京都新宿区坂町1番1号である。
5 甲野花子の住所は,亡甲野太郎と同じである。

<答案用紙>

登記の目的(     )
登記原因及びその日付(          )
相続人(         )
(                    )
添付書面(                                  )
課税価格(         )
登録免許税(        )

<解答例>

登記の目的(所有権移転
登記原因及びその日付(平成29年6月2日相続
相続人(被相続人 甲野太郎
東京都新宿区坂町1番1号 甲野花子
添付書面(登記原因証明情報 住所を証する情報 代理権限を証する情報
課税価格(金1800万円
登録免許税(金7万2000円

<解説>

1 相続による所有権移転の登記
(1) 相続の開始と相続人の範囲
相続は,被相続人の死亡によって開始します(民§882)。相続が開始すると,原則として,被相続人の財産に属した一切の権利義務(相続財産)は,相続人に包括的に承継されます(民§896本文)。
相続人は,民法で定められており, 配偶者と血族相続人とがあります。
配偶者は常に相続人となり,いずれの順位の血族相続人とも同順位で相続します(民§890)。
血族相続人は,次の順位で相続人となります。
第1順位 子またはその代襲相続人である直系卑属(民§887)
第2順位 直系尊属(民§889Ⅰ①)
第3順位 兄弟姉妹またはその代襲相続人である甥,姪(民§889Ⅰ②Ⅱ,887Ⅱ)
 → 代襲相続は甥姪までに限られており,再代襲は認められていません (民§889Ⅱ,887Ⅲ参照)。いわゆる「笑う相続人」の出現を防止する趣旨です。
民法は血族相続人を第3順位までしか認めないので,これらの者がおらず,あるいはこれらの者が全員相続を放棄した場合であって,なおかつ被相続人の配偶者もいない,あるいは配偶者も相続を放棄したときは,相続財産は,相続人不存在の規定に従って国庫に帰属することになります(民§951~959)。
(2) 子および配偶者が相続人である場合の相続分(法定相続分)
 子および配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とされています(民§900①)。本問のように,配偶者と子2人の場合,配偶者は2分の1,子は2人いるので,2分の1の半分(4分の1)ずつが相続分になります。
(3) 遺言と遺産分割
 (2)ように,法定相続分が定められていますが,例えば,夫が自分の死後の財産をすべて妻に相続させたいときは,その旨の遺言をすることによって,法定相続分と異なる割合で遺産を相続させることができます(民§967)。
 また,被相続人が遺言で遺産分割等を禁止した場合(民§908),または,遺言がなされなかった場合には,相続人はいつでもその協議で遺産を分割することができます(遺産分割協議,民§907Ⅰ)。なお,遺産分割協議は,相続人全員でなされなければならず,当事者の一部を除外してなされた遺産分割協議は,原則として無効です(東京地裁昭39.5.7)。 (4) 遺産分割協議の効力
遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生じます(民§909)。

2 申請の当事者
相続による権利の移転の登記は,当該不動産を相続した相続人が単独で申請することができます(単独申請,不登§63Ⅰ)。被相続人はすでに死亡しており,物理的に共同申請はできませんし,申請情報と併せて相続を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあってはこれに代わるべき情報)およびその他の登記原因を証する情報を添付するため(不登令別表22添付情報欄),その登記の真正は担保されているからです。

3 登記申請情報(登記申請書)の作成
(1) 登記の目的 
「所有権移転」と記載します。 
(2) 登記原因及びその日付
 未だ法定相続分による登記がなされていない場合に,遺産分割協議に基づき登記を申請する場合の登記原因は「相続」です。遺産分割の効果が相続開始日に遡るからです。遺産分割協議がなされた日ではありません。したがって,被相続人の死亡日,すなわち,相続開始日が登記原因日付となります。
(3) 申請情報の内容
相続人の住所・氏名を記載します。相続人の次に括弧書で「(被相続人甲野太郎)」と記載します。
(4) 添付情報
2参照。具体的には,被相続人の死亡の事実,申請人が相続人であること,申請人の他に相続人が存在しないことを証する被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍抄本等がこれに該当します。その他,当該不動産を相続することとなった相続人の住所を証する情報(不登令別表30添付情報欄),代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不登令§18Ⅰ)の提供を要します。
(5) 課税価格と登録免許税
課税価格は,不動産(土地)の価額を記載します。また,登録免許税の税率は,1000分の4であり(登税別表第1.1(2)イ),課税価格に登録免許税の税率を乗じた額が登録免許税額となります(百円未満切捨て)。本問では,金1800万円×4/1000=金7万2000円になります。

4 本問の検討
 本問の甲土地の登記記録には,甲野太郎が所有者である旨の登記がなされています(登記記録の記録)。そして,平成29年6月2日,甲野太郎は死亡し,甲野太郎の相続人全員(妻甲野花子,長男甲野一郎および長女乙野桜子)で遺産分割協議を行い,亡甲野太郎の遺産である甲土地は,妻甲野花子が相続することに決定しています。したがって,甲野花子は,甲土地を相続により取得し,相続による所有権移転登記の申請をすることを司法書士法務律子に依頼することになります。)