【司法書士】
記述式の学習~その5~司法書士「法務律子」が申請すべき登記の目的とは



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


毎日寒いですね。せっかく日が差しても,風が冷たいと暖かさを実感できません。答練もいよいよ佳境に入ってきましたが,学習計画は順調に進んでいますか。もし,計画の進捗度が思わしくない場合は,学習計画を見直するなど柔軟に考えましょう。
さて,今回は,不動産登記の抵当権設定登記を学習します。

<問題>
登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月2日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び乙信用金庫の代表者から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続,登記識別情報の暗号化及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。登記の申請日は,平成29年7月2日とし,租税特別措置法等による税の減免に関する規定の適用はないものとする。また,会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報であっても,提供を省略せずに記載しなさい。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成25年5月1日受付第22356号
   平成25年5月1日売買
所有者 東京都新宿区若葉一丁目1番地1 甲野太郎
(権利部乙区には,登記の記録はない)
乙建物
表題部(省略)
権利部
甲区
1番 所有権保存 
   平成26年7月3日受付第33654号
所有者 東京都新宿区若葉一丁目1番地1 甲野太郎
(権利部乙区には,登記の記録はない)
(事実関係)
1 平成29年7月2日,甲野太郎は,乙信用金庫から金1000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約を乙信用金庫との間で締結し,当該金銭を受領した。
2 また,同時に甲野太郎は,乙信用金庫との間で,自己が所有する甲土地及び乙建物に次の要領で乙信用金庫のために抵当権を設定する旨の契約を締結した。
  債権額 金1000万円
  利息 年0.5%(年365日の日割計算)
  損害金 年14%(年365日の日割計算)
  債務者 東京都新宿区若葉一丁目1番地1 甲野太郎
  抵当権者 東京都新宿区四谷二丁目2番地2 乙信用金庫
3 甲野太郎の現住所は,登記記録上の住所と変わりない。

<答案用紙>

登記の目的(        ) 登記原因及びその日付(                            )
債権額(            )
利息(               )
損害金(               )
債務者(                     )
抵当権者(                     )
設定者(                     )
添付書面(                                             )
課税価格(          )
登録免許税(          )

<解答例>

登記の目的(抵当権設定)
登記原因及びその日付(平成29年7月2日金銭消費貸借同日設定)
債権額(金1000万円)
利息(年0.5%(年365日の日割計算))
損害金(年14%(年365日の日割計算))
債務者(東京都新宿区若葉一丁目1番地1 甲野太郎)
抵当権者(東京都新宿区四谷二丁目2番地2 乙信用金庫)
設定者(東京都新宿区若葉一丁目1番地1 甲野太郎)
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報)
課税価格(金1000万円)
登録免許税(金4万円)

<解説>
1 消費貸借契約と抵当権の設定
⑴ 消費貸借契約
消費貸借契約は,当事者の一方が種類,品質および数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる契約です(民法587条)。つまり,金銭消費貸借契約においては,相手方から借り受けた金銭を消費することができ,返済期限までに同額の金銭を返還すれば足ります(当たり前ですが,相手方から借り受けたお札と同じものを返還することを要しません)。また,金銭消費貸借契約は,その契約の内容として,相手方から金銭を受け取ること(要物性)と返還をすることを約束すること(返還の合意)が,その成立要件になります。
⑵ 抵当権の意義と抵当権設定契約
抵当権とは,ある特定の債権(以下,「被担保債権」という。)を担保するため,債務者または第三者(以下,「抵当権設定者」という。)が提供した不動産を,占有を移転せずに抵当権設定者の使用収益に委ねつつ,債務が弁済されないときには当該不動産を競売等により換価し,その代金から債権者が優先的に弁済を受けることを約する担保物権の1つです(民法369条以下、民事執行法180条以下)。
抵当権は非占有担保物権であるため,抵当権者と抵当権設定者との間で抵当権設定契約をするだけでその効力を生じますが(民法176条),第三者に対抗するにはその登記をしなければなりません(民法177条)。
⑶ 抵当権の性質
抵当権は被担保債権とともに成立・存続し,債務者が債務を弁済した場合等被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅する性質(付従性),抵当権は被担保債権の移転に随伴するという性質(随伴性),抵当権者は,被担保債権の全部の弁済を受けるまで(たとえ一部の弁済を受けたとしても),抵当目的物の全部について抵当権を実行できるという性質(不可分性),抵当権の目的物が滅失した場合でも,それが債権などの形に転化していれば,それに対して抵当権が及ぶという性質(物上代位性)を有します。

2 抵当権設定登記の登記事項
抵当権設定登記の主な登記事項は,①登記の目的,②登記原因およびその日付,③債権額(不動産登記法83条1項1号,不動産登記令別表55申請情報欄イ),④利息・損害金に関する定め(不動産登記法88条1項1号・2号,不動産登記令別表55申請情報欄ロ),⑤債務者の氏名または名称および住所(不動産登記法83条1項2号,不動産登記令別表55申請情報欄イ),⑥抵当権者の氏名または名称および住所(不動産登記法59条4号)です。②については,単に抵当権を設定した旨およびその日付だけでは足りず,被担保債権の発生原因である債権契約およびその日付も必要です(先例昭30.12.23民甲2747号通達)。

3 登記申請情報(登記申請書)の作成
⑴ 登記の目的 
「抵当権設定」と記載します。土地と建物の両方に抵当権を設定した場合であっても,根抵当権とは異なり,「共同抵当権設定」と記載することを要しません(根抵当権については,次回学習する予定です)。
⑵ 登記原因及びその日付
 抵当権の被担保債権の発生原因である債権契約が特定できる記載(日付と被担保債権の表示)と,抵当権を設定した旨およびその日付を記載します。本問のように,金銭消費貸借契約に基づく債権を担保する場合には,「平成○年○月○日金銭消費貸借同日設定」のように記載します。
⑶ その他の登記事項
 2参照。本問では,債権額,利息・損害金に関する定め,債務者の氏名または住所,抵当権者の名称および住所を記載します。なお,利息・損害金の定めが,年365日の日割計算である場合にはその旨も記載します(先例昭40.6.25民甲1431号回答)。
⑷ 添付情報
登記原因証明情報(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,同別表55添付情報欄),登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文),登記義務者の印鑑証明書(不動産登記令18条2項・3項),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載により添付を省略することができる),代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不登令§18Ⅰ)の提供を要します。
⑸ 課税価格と登録免許税
課税価格は,債権額を記載します。また,登録免許税の税率は,1000分の4であり(登税別表第1.1⑸),課税価格に登録免許税の税率を乗じた額が登録免許税額となります(百円未満切捨て)。本問では,金1000万円×4/1000=金4万円になります。

4 本問の検討

 本問の甲土地および乙建物の登記記録には,甲野太郎が所有者である旨の登記がなされています(登記記録の記録)。平成29年7月2日,甲野太郎は,乙信用金庫から金1000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約を乙信用金庫との間で締結し,当該金銭を受領しています(事実関係1)。そして,同日付で,甲野太郎は乙信用金庫との間で,自己が所有する甲土地及び乙建物に乙信用金庫のために抵当権を設定する旨の契約を締結しています(事実関係2)。したがって,甲野太郎および乙信用金庫は,甲土地および乙建物に対し,乙信用金庫を抵当権者とする抵当権設定の申請をすることを司法書士法務律子に依頼することになります。