【司法書士】
記述式の学習~その6~
一郎が太郎の債務を引き受けた場合



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


寒い毎日が続いております。早いもので今年も3月になりました。本試験まで残り4か月ですね。そろそろ,直前期の学習計画を意識しながら,学習を進めてください。
さて,今回は,不動産登記の抵当権の変更登記を学習します。

<問題>
登記記録に次のような登記事項の記録がある甲建物について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び株式会社乙銀行の代表者から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続,登記識別情報の暗号化及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。登記の申請日は,平成29年7月1日とし,会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載しなさい。
(登記記録の記録)
 甲建物
 表題部(省略)
 権利部
 甲区
 1番(省略)
 2番 所有権移転
   平成25年5月1日受付第22356号
   平成25年5月1日売買
   所有者 東京都新宿区四谷一丁目2番地3 甲野太郎
 乙区
 1番 抵当権設定
   平成25年5月1日受付第22357号
   平成25年5月1日金銭消費貸借同日設定
   債権額 金3000万円
   利 息 年0.5%
   損害金 年14%
   債務者 東京都新宿区四谷一丁目2番地3 甲野太郎
   抵当権者 東京都港区六本木2丁目3番4号 株式会社乙銀行
(事実関係)
1 平成29年7月1日,甲野太郎と甲野一郎は,株式会社乙銀行を訪れ,三者間で甲野太郎が平成25年5月1日金銭消費貸借契約に基づき株式会社乙銀行に対して負担している一切の債務(平成25年5月1日受付第22357号抵当権設定済み)を甲野一郎(住所 東京都新宿区四谷一丁目2番地3)が甲野太郎に代わって免責的に全て引受け,これを履行する旨の契約を締結した。

2 甲野太郎の現住所は,登記記録上の住所と変わりない。

<答案用紙>
登記の目的(          )
登記原因及びその日付(                      )
変更後の事項(                                     )
権利者(                     )
義務者(                   )
債務者(                     )
添付書面(                                             )
登録免許税(          )
<解答例>
登記の目的(1番抵当権変更
登記原因及びその日付(平成29年7月1日免責的債務引受
変更後の事項(債務者 東京都新宿区四谷一丁目2番地3 甲野一郎
権利者(東京都港区六本木2丁目3番4号 株式会社乙銀行
義務者(東京都新宿区四谷一丁目2番地3 甲野太郎
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報
登録免許税(金1,000円

<解説>
1 免責的債務引受と抵当権の変更
(1) 免責的債務引受契約
債務引受けとは,債務の同一性を保ちながら,契約により,債務を移転することをいいます。債務引受けには,旧債務者が債務を免れ引受人が新債務者となる免責的債務引受けと,旧債務者も債務を負い続け,引受人も新債務者となり債務を負う併存的債務引受けがあります。
免責的債務引受契約は,債務者と引受人の間で締結することができますが,債権者の承認を要します(最判昭30.9.29参照)。免責的債務引受契約は,債権者に,一方で新債務者に対する債権を得させると同時に,他方で旧債務者に対する債権を失わせるものであるため,新債務者に資力がないような場合,債権者に不利益をもたらすおそれがあるからです。
また,免責的債務引受契約は,実質的に第三者による弁済であるため,旧債務者の意思に反して行うことはできません(民§474Ⅱ)。
さらに,引受けの対象となる債務に保証人や担保権が付いていた場合,誰が債務者であるかは,保証人や担保提供者の利害に大きくかかわりますので,保証人や担保提供者の同意がない限り,保証人や担保提供者はその責任から免れることになります。したがって,引受けの対象となる債務を引続き当該担保権によって担保するには,担保提供者の同意を要します。なお,担保提供者が旧債務者である場合のように,契約の当事者となっている場合には,あらためて同意を得ることを要しません。
(2) 抵当権の変更
 免責的債務引受契約につき,担保権者の同意があったときは,抵当権は引受人(新債務者)の債務を担保することとなりますので,抵当権の債務者変更の登記を申請しなければなりません。
2 申請人
 債務引受による抵当権の変更登記は,抵当権者が登記権利者,所有権登記名義人(抵当権設定者)が登記義務者とする共同申請によって申請します。
3 登記申請情報(登記申請書)の作成
(1) 登記の目的
「○番抵当権変更」と記載します。
(2) 登記原因及びその日付
「平成○年○月○日免責的債務引受」と記載します。日付は,免責的債務引受契約が成立した日になります。
(3) 変更後の事項
 債務者として,新債務者の住所と氏名を記載します。
(4) 添付情報
登記原因証明情報(「免責的債務引受契約書」等、不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ),登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載により添付を省略することができる)の提供を要します。また,代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不登令§18Ⅰ)の提供をも要します。
なお,登記識別情報を提供してする抵当権の債務者変更の登記の申請情報には,登記義務者の印鑑証明書の提供を要しません(不動産登記令16条2項・18条2項,不動産登記規則48条1項5号・49条2項4号参照)。
(5) 登録免許税
登録免許税は,不動産1個につき金1,000円です(登税別表第1.1⒁)。本問では,不動産は建物のみ(1個)なので,金1,000円です。
4 本問の検討
本問の甲建物の登記記録には,甲野太郎が所有者である旨,甲野太郎を債務者とする株式会社乙銀行の抵当権設定の登記がなされています(登記記録の記録)。 平成29年7月1日,甲野太郎と甲野一郎は,株式会社乙銀行を訪れ,三者間で甲野太郎が平成25年5月1日金銭消費貸借契約に基づき株式会社乙銀行に対して負担している一切の債務(平成25年5月1日受付第22357号抵当権設定済み)を甲野一郎が甲野太郎に代わって免責的に全て引受け,これを履行する旨の契約を締結しています(事実関係1)。免責的債務引受契約が,新債務者,旧債務者(担保提供者)と抵当権者でなされていることから,別途,旧債務者の同意および抵当権者の同意を要しません。
したがって,甲野太郎および株式会社乙銀行は,甲建物に対し,平成29年7月1日免責的債務引受を原因に,甲野一郎を新債務者とする抵当権の変更登記の申請をすることを司法書士法務律子に依頼することになります。