【司法書士】
記述式の学習~その7~
銀行の吸収合併の裏に司法書士の活躍あり



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


毎日寒いですが,日が暮れるのが少しずつ遅くなってきています。春の来るのが待ち遠しいですね。学習計画の進捗状況はいかがですか。苦手科目は克服できていますか。おぼろげながらでも構いません。そろそろ直前期の学習計画を思い描いてみてください。
さて,今回は,不動産登記の抵当権の移転登記を学習します。

<問題>
登記記録に次のような登記事項の記録がある甲建物について,平成29年7月3日,司法書士法務律子は,株式会社A銀行の代表取締役Xから登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。登記の申請日は,平成29年7月3日とし,会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載しなさい。
(登記記録の記録)
甲建物
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成28年9月1日受付第55436号
   平成28年9月1日売買
所有者 東京都新宿区水道町1番2号 甲野太郎
乙区
1番 抵当権設定
平成28年9月1日受付第55437号
平成28年9月1日金銭消費貸借同日設定
債権額 金5000万円
利 息 年0.3%
損害金 年14.6%
債務者 東京都新宿区水道町1番2号 甲野太郎
    抵当権者 東京都新宿区住吉町3番4号 株式会社B銀行
(事実関係)
1 平成29年2月1日,株式会社A銀行(本店 東京都渋谷区神宮前三丁目4番5号)と,株式会社B銀行(本店 東京都新宿区住吉町3番4号)は,合併の効力発生日を平成29年4月1日とする旨,株式会社A銀行を吸収合併存続会社とし,株式会社B銀行を吸収合併消滅会社とする旨の吸収合併契約を締結した。
2 平成29年4月3日,株式会社A銀行の本店所在地を管轄する登記所に,株式会社A銀行の吸収合併による変更の登記と,株式会社B銀行の合併による解散の登記が申請され,その登記は,即日完了した。

<答案用紙>

登記の目的(          )
登記原因及びその日付(                      )
申請人(                                     )
添付書面(                                             )
課税価格(       )
登録免許税(          )

<解答例>
登記の目的(1番抵当権移転
登記原因及びその日付(平成29年4月1日合併
申請人(抵当権者(被合併会社 株式会社B銀行)
東京都渋谷区神宮前三丁目4番5号 株式会社A銀行 代表取締役 X

添付書面(登記原因証明情報 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報
課税価格(金5000万円
登録免許税(金5万円

<解説>
1 吸収合併による抵当権の移転 
 合併とは,2以上の会社間の行為により当事者である会社の全部または一部が解散して消滅し,その権利義務の全部を清算手続なしに包括的に合併後存続する会社または合併により設立する会社に移転する会社間の行為です(会社法750条1項,754条1項)。会社が他の会社とする合併であって,合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものを吸収合併といいます(会社法2条27号)。
 吸収合併の効力は,吸収合併契約で定めた吸収合併がその効力を生ずる日(効力発生日,会社法754条1項6号)に生じます。
 吸収合併により,吸収合併消滅会社が有していた債務者に対する被担保債権および抵当権が吸収合併存続会社に承継されるので,合併を原因とする抵当権の移転登記を申請しなければなりません(抵当権の随伴性)。
2 申請人
 吸収合併による抵当権の移転登記は,吸収合併存続会社が単独で申請することができます(不動産登記法63条2項)。
3 登記申請情報(登記申請書)の作成
⑴ 登記の目的 
「○番抵当権移転」と記載します。
⑵ 登記原因及びその日付
「平成○年○月○日合併」と記載します。日付は,吸収合併の効力発生日(本問では,平成29年4月1日)となります。
⑶ 申請人
吸収合併存続会社の商号,本店およびその代表者の氏名を抵当権者として記載します。
また,括弧書で吸収合併消滅会社の商号を(被合併会社 株式会社B銀行)のように記載します。この被合併会社の表示は,登記記録と一致していなければなりません。
⑷ 添付情報
登記原因証明情報として,合併を証する登記官その他の公務員が職務上作成した情報及びその他の登記原因を証する情報を提供します(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,不動産登記令別表22添付情報欄)。具体的には,吸収合併存続会社の登記事項証明書(本問では,株式会社A銀行の登記事項証明書)を提供します。単独申請ですので,その登記の真正を担保するために提供が求められているのです。
また,代表者の資格を証する情報(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号)の提供を要します。具体的には,吸収合併存続会社の株式会社A銀行の登記事項証明書(作成後1か月以内のもの)を提供します。この登記事項証明書は,登記原因証明情報として提供する登記事項証明書と兼ねることができます(実際に提供するのは,1通で足ります)。しかしながら,提供の根拠法令が異なるため,添付情報としては,別途「代表者の資格を証する情報」と記載しなければなりません。なお,「代表者の資格を証する情報」は,会社法人等番号の記載によりその提供を省略することができますが(不動産登記令7条1項1号イ),本問では,その提供を省略せずに記載する旨の指示があるので,省略せずに記載しなければなりません。
代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供をも要します。本問では,株式会社A銀行の代表取締役Xは,司法書士法務律子に登記の申請手続を委任しているので,株式会社A銀行の代表取締役Xから司法書士法務律子への委任状を提供します。
※ 抵当権設定者に関する添付情報
 抵当権の移転は,吸収合併に伴う法律上の効果として,抵当権設定者の意思にかかわらず,当然に生じるものです。したがって,抵当権の移転登記の申請情報と併せて抵当権設定者の承諾書その他抵当権設定者に関する情報を提供することを要しません。
⑸ 課税価格
課税価格は,移転する抵当権の債権額となります。本問では金5000万円となります。
⑹ 登録免許税
登録免許税は,債権額の1000分の1(登税別表第1.1⑹イ)です。本問では,5000万円の1000分の1として,金5万円です。
4 本問の検討
本問の甲建物の登記記録には,甲野太郎が所有者である旨,甲野太郎を債務者とする株式会社B銀行の抵当権設定の登記がなされています(登記記録の記録)。
平成29年2月1日,株式会社A銀行と,株式会社B銀行は,合併の効力発生日を平成29年4月1日とする旨,株式会社A銀行を吸収合併存続会社とし,株式会社B銀行を吸収合併消滅会社とする旨の吸収合併契約を締結しています(事実関係1)。
そして,平成29年4月1日に,平成29年2月1日付の吸収合併契約の効力が生じますので,「平成29年4月1日合併」を登記原因として株式会社A銀行へ抵当権の移転する旨の登記の申請を司法書士法務律子に依頼することになります。

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<前々回,前回の訂正とお詫び> 前々回,前回の出題において法人の代表者の氏名の記載が抜けておりました。誠に訳ありませんでした。心よりお詫びの上,訂正させていただきます。
1.前々回(記述式の学習~その5)
<問題>
誤 登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月2日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び乙信用金庫の代表者
正 登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月2日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び乙信用金庫の代表理事A
<解答例>
誤 抵当権者(東京都新宿区四谷二丁目2番地2 乙信用金庫
正 抵当権者(東京都新宿区四谷二丁目2番地2 乙信用金庫 代表理事A
2.前回(記述式の学習~その6)
<問題>
誤 登記記録に次のような登記事項の記録がある甲建物について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び株式会社乙銀行の代表者から
正 登記記録に次のような登記事項の記録がある甲建物について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び株式会社乙銀行の代表取締役Xから
<解答例>
誤 権利者(東京都港区六本木2丁目3番4号 株式会社乙銀行
正 権利者(東京都港区六本木2丁目3番4号 株式会社乙銀行 代表取締役X
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