【司法書士】
記述式の学習~その8~
司法書士「法務律子」が対応した借金の全額返済後



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


いよいよ桜前線が北上してくる季節となりました。もう,春も間近ですね。桜は,冬の間に寒さに耐えながら,春に咲かせる花のために,力を蓄えているそうです。受験生の皆様も合格という花を咲かせるべく,力を蓄えていってくださいね。
さて,今回は,不動産登記の抵当権の抹消登記を学習します。

<問題>
登記記録に次のような登記事項の記録がある甲建物について,平成29年7月5日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び株式会社AB銀行の代表取締役乙野太郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続及び登記識別情報の暗号化について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(注)1 登記の申請日は,平成29年7月5日とする。
2 登記を申請する登記所は,平成20年10月1日に不動産登記法附則第6条第1項に規定する法務大臣の指定を受けた登記所(オンライン庁)であるものとする。
3 必要な添付情報はすべて書面で作成され,調えられているものとする。また,登記申請情報及びこれと併せて提供する添付情報は,すべて書面による方法で行うものとする。なお,会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載するものとする。
(登記記録の記録)
甲建物
表題部(省略)
権利部
甲区
1番 所有権保存
   平成24年10月2日受付第75466号
所有者 東京都新宿区戸山一丁目1番1号 甲野太郎
乙区
1番 抵当権設定
平成24年10月2日受付第75467号
平成24年10月2日金銭消費貸借同日設定
債権額 金2000万円
利 息 年0.8%(年365日の日割計算)
損害金 年14.6%(年365日の日割計算)
債務者 東京都新宿区戸山一丁目1番1号 甲野太郎
    抵当権者 東京都港区新橋一丁目1番1号 株式会社AB銀行
(取扱店 新橋支店)
(事実関係)
1 平成29年7月4日,甲野太郎は,株式会社AB銀行の新橋支店に赴き,株式会社AB銀行に対して負担している平成24年10月2日付の金銭消費貸借契約に基づく債務の全額を弁済した。
2 甲野太郎の登記記録上の住所・氏名に変更はない。株式会社AB銀行の登記記録上の本店・商号に変更はない。

<答案用紙>
登記の目的(          )
登記原因及びその日付(                      )
権利者(                                     )
義務者(                        )
添付書面(                                             )
登録免許税(          )

<解答例>
登記の目的(1番抵当権抹消)
登記原因及びその日付(平成29年7月4日弁済)
権利者(東京都新宿区戸山一丁目1番1号 甲野太郎)
義務者(東京都港区新橋一丁目1番1号 株式会社AB銀行 代表取締役乙野太郎)
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報)
登録免許税(金1000円)

<解説>
1 弁済による被担保債権の消滅と抵当権の抹消
 弁済とは,債務者が債務の本旨に従って給付を行い,これによって債権が消滅する法律行為をいいます。抵当権で担保されている債権(被担保債権)は,債務者がその弁済をすることにより消滅します。そして,被担保債権が弁済されると抵当権は消滅します(付従性)。抵当権の抹消登記を申請しなくとも,弁済の効果に変わりはありません(大判大9.1.29)。しかし,弁済によって抵当権が消滅したことを第三者に対抗するためには,抵当権の抹消登記を申請しなければなりません(民法177条)。
2 登記申請情報(登記申請書)の作成
⑴ 登記の目的 
「○番抵当権抹消」と記載します。
⑵ 登記原因及びその日付
「平成○年○月○日弁済」と記載します。日付は,弁済により被担保債権が消滅した日(本問では,平成29年7月4日)となります。
⑶ 申請人
弁済による抵当権の抹消登記は,抵当権設定者が登記権利者,抵当権者が登記義務者として,共同で申請します(不動産登記法60条)。なお,抵当権設定のときと異なり,申請情報の内容として,抵当権者の取扱店を提供することを要しません。
⑷ 添付情報
登記原因証明情報として,被担保債権が弁済されて抵当権が消滅した旨の記載のある書面等(具体的には,弁済証書等)を提供します(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,不動産登記令別表26添付情報欄)。
また,登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合にあたりますので,登記義務者の登記識別情報を提供します(不動産登記法22条本文)。具体的には,株式会社AB銀行が抵当権を設定したときに交付を受けた登記識別情報通知書を提供する。
さらに,代表者の資格を証する情報(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号)の提供を要します。具体的には,株式会社AB銀行の代表取締役乙野太郎の資格を証するため,登記事項証明書(作成後1か月以内のもの)を提供します。なお,「代表者の資格を証する情報」は,会社法人等番号の記載によりその提供を省略することができますが(不動産登記令7条1項1号イ),本問では,その提供を省略せずに記載する旨の指示があるので,省略せずに記載しなければなりません。
代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供をも要します。本問では,甲野太郎と株式会社AB銀行の代表取締役乙野太郎は,司法書士法務律子に登記の申請手続を委任しているので,2人から司法書士法務律子への委任状を提供します。
⑹ 登録免許税
登録免許税は,不動産1個につき金1000円です(登税別表第1.1⒁)。本問では,不動産は甲建物のみ(1個)なので,金1000円です。
3 本問の検討
本問の甲建物の登記記録には,甲野太郎が所有者である旨,甲野太郎を債務者とする株式会社AB銀行の抵当権設定の登記がなされています(登記記録の記録)。
平成29年7月4日,甲野太郎は,株式会社AB銀行に対して負担している平成24年10月2日付の金銭消費貸借契約に基づく債務の全額を弁済しています(事実関係1)。
したがって,平成29年7月4日付で,平成24年10月2日付の金銭消費貸借契約に基づく債務とこれを被担保債権とする抵当権も消滅しますので,「平成29年7月4日弁済」を登記原因とする抵当権の抹消登記の申請を司法書士法務律子に依頼することになります。