【司法書士】
記述式の学習~その9~
司法書士「法務律子」が根抵当権に挑む



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


3月の半ばを過ぎてもなかなか暖かくなりませんね。暦の上では,春はもうすぐやって来るはずなのですが。まだまだ,寒さに対する油断は禁物です。皆様も防寒に十分留意され,お風邪など召されませぬように。桜が咲くのが待ち遠しいですね。
さて,今回は,不動産登記の根抵当権設定登記を学習します。根抵当権の登記は,不動産登記法の中でも最も難しい分野ですので,しっかり学習しましょう。

<問題>
登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月3日,司法書士法務律子は,甲野太郎及び乙銀行株式会社の代表取締役丙野三郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続,登記識別情報の暗号化及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(注)1 登記の申請日は,平成29年7月4日とするものとする。
2 必要な添付情報はすべて書面で作成され,調えられているものとする。また,登記申請情報及びこれと併せて提供する添付情報は,すべて書面による方法で行うものとする。なお,会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載するものとする。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成27年10月1日受付第55678号
   平成27年10月1日売買
所有者 東京都新宿区四谷一丁目1番地1 甲野太郎
(権利部乙区には,登記の記録はない)
乙建物
表題部(省略)
権利部
甲区
1番 所有権保存 
   平成28年6月5日受付第38997号
所有者 東京都新宿区四谷一丁目1番地1 甲野太郎
(権利部乙区には,登記の記録はない)
(事実関係)
1 平成29年7月2日,甲野太郎は,乙銀行株式会社(本店 東京都港区六本木六丁目6番6号)との間で,自己が所有する甲土地及び乙建物を共同担保として,次の要領で乙銀行株式会社のために根抵当権を設定する旨の契約を締結した。
 極度額 金2000万円
 債権の範囲 銀行取引による一切の債権,貴行が第三者から取得する手形上,小切手上の債権又は電子記録債権 
 債務者 東京都新宿区四谷一丁目1番地1 甲野太郎
 確定期日 特に定めない
2 平成29年7月3日,甲野太郎は,乙銀行株式会社との間で,同行から金1000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し,当該金銭を受領した。
3 甲野太郎の現住所は,登記記録上の住所と変わりない。

<答案用紙>
登記の目的(        )
登記原因及びその日付(                            )
極度額(            )
債権の範囲(               )
債務者(                     )
根抵当権者(                     )
設定者(                     )
添付書面(                                             )
課税価格(          )
登録免許税(          )

<解答例>
登記の目的(共同根抵当権設定)
登記原因及びその日付(平成29年7月2日設定)
極度額(金2000万円)
債権の範囲(銀行取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権)
債務者(東京都新宿区四谷一丁目1番地1 甲野太郎)
根抵当権者(東京都港区六本木六丁目6番6号 乙銀行株式会社 代表取締役丙野三郎)
設定者(東京都新宿区四谷一丁目1番地1 甲野太郎)
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報)
課税価格(金2000万円)
登録免許税(金8万円)

<解説>
1 根抵当権の意義とその設定
⑴ 根抵当権の意義
根抵当権は,設定行為で定めるところにより,一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するもので,抵当権の一種です(民法398条の2第1項)。根抵当権については,民法398条の2から398条の22までの規定が適用される場合のほかは,すべて抵当権に関する規定が適用されます。
⑵ 根抵当権の性質
① 付従性の否定(不特定債権を担保するものであること)
根抵当権で担保される債権は,その設定から元本の確定の時点に至るまでは変動(発生・消滅)することが予定されている不特定の債権です。根抵当権では,抵当権のように設定時に被担保債権を特定することはできず,また特定することを要しません。根抵当権は付従性を有しませんので,被担保債権が全くない場合でも,根抵当権の設定契約を有効に締結することができます。
② 一定の範囲に属する債権を担保するものであること
根抵当権は,不特定の債権を担保するものとして設定されますが(民法398条の2第1項),根抵当権者と債務者との間に生じる一切の債権を担保するものとして設定することはできません(包括根抵当の禁止)。根抵当権では,一定の範囲に属する不特定の債権を担保する旨を定めることができます。「一定の範囲に属する不特定の債権」とは,債務者との特定の継続的取引契約によって生じる債権,その他債務者との一定の種類の取引によって生じる債権のほか(民法398条の2第2項),特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権または手形上もしくは小切手上の請求権です(いわゆる廻り手形・廻り小切手,民法398条の2第3項)。電子記録債権も根抵当権の担保すべき債権とすることができます(先例平24.4.27民二1106号通知)。例えば,根抵当権者(銀行)と債務者との間で根抵当権の債権の範囲を「銀行取引」と定めた場合,その根抵当権は,根抵当権者(銀行)と債務者との間で銀行取引によって生じる債権を担保することになります。
③ 根抵当権の枠支配権(極度額を限度として担保すること)
根抵当権は,不特定の債権を担保するものとして設定されるものですから(①参照),抵当権のようにその優先弁済の限度を確定額(債権額)として示すことができません。そこで,一定の金額をもって「極度額」と定め,その金額の限度において,元本と利息につき,優先弁済を受けることができるものと定められています。
④ 随伴性の否定
元本確定前の根抵当権には随伴性がありません。したがって,元本の確定前に根抵当権者から根抵当権の範囲に属する債権を取得した者は,その債権について根抵当権を行使することができません(民法398条の7第1項)。また,元本の確定前に債務の引受けがあったときは,根抵当権者は,引受人の債務について,その根抵当権を行使することはできません(民法398条の7第2項)。いずれの場合も,被担保債権が当該根抵当権の債権の範囲から外れるだけなのです。
⑶ 根抵当権の元本の確定
根抵当権の元本が確定するということは,根抵当権の担保すべき債権がその確定時に存在するものに限定・特定され,その後に発生する債権は一切担保されないことを意味します。根抵当権の元本は,確定期日の到来等一定の事由が生じた場合に確定します(民法398条の6,398の19,398の20)。根抵当権の元本が確定すると,上記⑵①②④の根抵当権の性質は失われます。しかし,根抵当権が元本の確定によって普通抵当権に転換するわけではありません。元本確定時の被担保債権とその利息は,極度額を限度として担保されるという根抵当権の枠支配権としての性質は残ります(上記⑵③)。
⑷ 共同根抵当権
根抵当権については,その設定と同時に同一の債権の共同担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り,共同抵当権に関する規定(民法392条,393条)が適用されます(民法398条の16)。 つまり,共同根抵当権は,登記が効力要件です。これに対し,共同担保ではない根抵当権を「累積式根抵当権」といいます。
2 登記申請情報(登記申請書)の作成
⑴ 登記の目的 
根抵当権の設定と同時に同一の債権の共同担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をするには,「共同根抵当権設定」と記載します。
⑵ 登記原因及びその日付
 抵当権と異なり被担保債権が特定できませんので,「平成○年○月○日設定」のように記載します。
⑶ その他の登記事項
根抵当権の登記事項は,根抵当権者の氏名および住所,根抵当権者が法人の場合には,その本店,商号および代表取締役の資格と氏名(不動産登記法59条4号),債務者の氏名または名称および住所(不動産登記法83条1項2号),担保すべき債権の範囲および極度額(不動産登記法88条2項1号)等です。また,担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときはその定めも登記事項ですが(不動産登記法88条2項3号),確定期日を定めない場合には,定めがない旨の登記することを要しません。なお,抵当権とは異なり,利息および損害金に関する定めは登記事項ではありません。
⑷ 添付情報
登記原因証明情報(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,同別表56添付情報欄),登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文),登記義務者の印鑑証明書(不動産登記令18条2項・3項),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載により添付を省略することができる),代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供を要します。
⑸ 課税価格と登録免許税
課税価格は,極度額を記載します。また,登録免許税の税率は,1000分の4であり(登税別表第1.1⑸),課税価格に登録免許税の税率を乗じた額が登録免許税額となります(百円未満切捨て)。本問では,金2000万円×4/1000=金8万円になります。
3 本問の検討
 本問の甲土地および乙建物の登記記録には,甲野太郎が所有者である旨の登記がなされています(登記記録の記録)。平成29年7月2日,甲野太郎は,乙銀行株式会社との間で,自己が所有する甲土地および乙建物を共同担保として,乙銀行株式会社のために根抵当権を設定しています(事実関係1)。したがって,甲野太郎および乙銀行株式会社は,甲土地および乙建物に対し,乙銀行株式会社を根抵当権とする共同根抵当権設定の申請をすることを司法書士法務律子に依頼することになります。なお,平成29年7月3日,甲野太郎は乙銀行株式会社との間で,金銭消費貸借契約を締結し,当該金銭を受領していますが(事実関係2),確定前の根抵当権には付従性がありませんので,根抵当権の設定日には影響しません。