【司法書士】
記述式の学習~その10~
司法書士「法務律子」が根抵当権(難しめ)に挑む



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


東京では,桜の開花宣言が出ました。待ちに待った春の到来ですね。本試験までの残りも3か月と少しになりました。直前期の学習方法については,記述式の学習が終わりしだい,あらためてご紹介しようと考えております。ひとことで申し上げるならば,これからは,新しい教材などから知識を増やそうとするのではなく,今までの学習を十分に行い,既存の知識の精度を高めることです。
さて,今回は,不動産登記の根抵当権変更登記を学習します。今回は少し難しいですよ。

<問題>
登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,株式会社甲野商店の代表取締役甲野太郎及び帝都商事株式会社の代表取締役乙野次郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続,登記識別情報の暗号化及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(注)
1 登記の申請日は,平成29年7月1日とするものとする。
2 登記の申請に必要な添付情報はすべて書面で作成され,調えられているものとする。また,登記申請情報及びこれと併せて提供する添付情報は,すべて書面による方法で行うものとする。なお,会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載するものとする。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成25年9月1日受付第59867号
   平成25年9月1日売買
   所有者 東京都渋谷区大山町1番2号 甲野太郎
(注1)甲区には2番の所有権移転登記以後登記はなされていない。
乙区
1番 根抵当権設定
   平成25年9月1日受付第59868号
   平成25年9月1日設定
   極度額 金2000万円
   債権の範囲 売買取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権
   債務者 東京都渋谷区大山町1番2号 甲野太郎
   根抵当権者 東京都新宿区西新宿三丁目2番1号 帝都商事株式会社
   共同担保 目録(は)第2435号
(注2) 乙建物にも同様の登記がなされている。なお,甲土地と乙建物の乙区には1番根抵当権以外の登記はなされていない。
(事実関係)
1 平成29年7月1日,株式会社甲野商店の代表取締役甲野太郎は,帝都商事株式会社との間で,甲土地及び乙建物を共同担保とする既登記の根抵当権(東京法務局渋谷出張所受付第59868号)について,次の要領で根抵当権を変更する旨の契約を締結した。
 極度額 金3000万円
 債権の範囲 売買取引による一切の債権,金銭消費貸借取引による一切の債権,貴社が第三者から取得する手形上,小切手上の債権又は電子記録債権
   債務者
  東京都渋谷区大山町1番2号 甲野太郎
  東京都渋谷区大山町1番2号 株式会社甲野商店
  甲野太郎と株式会社甲野商店は,根抵当権で担保される債務につき連帯してこれを負担するものとする。
2 甲野太郎の氏名・住所及び帝都商事株式会社の本店・商号は,登記記録上の住所と変わりない。

<答案用紙>
登記の目的(           )
登記原因及びその日付(           )
変更後の事項
極度額(       )
債権の範囲(                       )
債務者(                             )
権利者(                              )
義務者(                    )
添付書面(                                )
課税価格(         )
登録免許税(          )

<解答例>
登記の目的(1番共同根抵当権変更)
登記原因及びその日付(平成29年7月1日変更)
変更後の事項
極度額(金3000万円)
債権の範囲(売買取引 金銭消費貸借取引 小切手債権 電子記録債権)
債務者(東京都渋谷区大山町1番2号 甲野太郎
東京都渋谷区大山町1番2号 株式会社甲野商店)
権利者(東京都新宿区西新宿三丁目2番1号 帝都商事株式会社 代表取締役乙野次郎)
義務者(東京都渋谷区大山町1番2号 甲野太郎)
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報)
課税価格(金1000万円)
登録免許税(金4万2000円)

<解説>
1 根抵当権の変更
(1) 債権の範囲・債務者の変更
元本の確定前においては,根抵当権者と根抵当権設定者とは合意のみで,根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができます(民法398の4第1項前段)。債務者の変更についても,同様です(同条第1項後段)。後順位の抵当権者その他の登記上利害関係を有する第三者の承諾を得ることを要しません(同条第2項)。そして,債権の範囲および債務者の変更について元本の確定前にその登記をしなかったときは,その変更をしなかったものとみなされます(民法398の4第3項)。
共同根抵当権の場合(民法398条の16,392条),その担保すべき債権の範囲,債務者の変更は,その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ,その効力を生じません(登記が効力発生要件,民法398条の17第1項)。
(2) 極度額の変更
極度額の変更は,元本確定の前後を問わずすることができます。しかし,利害関係を有する第三者がいる場合,根抵当権者と根抵当権設定者とは合意のみで極度額の変更をすることはできず,利害関係を有する第三者の承諾を得なければなりません(民法398条の5)。利害関係を有する第三者とは,①同順位・後順位の担保権者,②後順位の所有権の仮登記権者,③後順位の所有権の差押え,仮差押えおよび仮処分権者,④この根抵当権に順位譲渡等をしている先順位の担保権者,⑤順位変更によって当該根抵当権より後順位となった担保権者等が該当します。これら者は,先順位の根抵当権の極度額が増額されると,自己の優先弁済額が少なくなるなどの不利益を受けるからです。利害関係を有する第三者の承諾は,極度額の変更は実体法上の効力要件であり,根抵当権者と根抵当権設定者とは合意後にその承諾を得た場合には,承諾の日が極度額の変更の日になります。なお,極度額の変更は,必ず付記登記の形式で登記されます(先例昭46.10.4民甲3230号通達)。
共同根抵当権の場合(民法398条の16,392条),極度額の変更は,その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ,その効力を生じないことは,債権の範囲と債務者の変更と同様です(登記が効力発生要件,民法398条の17第1項)。
2 申請人
 債権の範囲,債務者の変更および極度額の変更は,原則として,根抵当権者が登記権利者,設定者が登記義務者となり,共同してその登記を申請します。ただし,変更により,債権の範囲が縮減することが明らかな場合(債権の範囲 A取引・B取引→A取引),債務者の変更が縮減することが明らかな場合(債務者A・B→債務者A),極度額が減額する場合には,根抵当権者が登記義務者,設定者が登記権利者となります。
3 一括申請の可否
 債権の範囲,債務者の変更および極度額(増額)による変更の登記は,同一の申請情報により,登記を申請することができます(不動産登記令4条ただし書,不動産登記規則35条10号)。登記の目的と登記原因が同一であるといえるからです。
4 利益相反取引に該当することの有無
 会社の債務のため代表取締役が自己所有の不動産について根抵当権を設定する場合には,会社法356条1項2号の取締役会(株主総会)の承認を要しません(先例昭41.6.8民三397号回答)。この取引は,外形的には代表取締役と会社との間の利益相反する取引に該当しますが,会社にとって不利益とはならないからです。
5 登記申請情報(登記申請書)の作成
(1) 登記の目的 
「1番共同根抵当権変更」と記載します。同一登記所管内の甲土地・乙建物に設定されている共同根抵当権につき,同一の申請情報により被担保債権の範囲等の変更登記の申請をする場合には,当該登記申請情報の内容である「登記の目的」には,「共同」の旨を記載することを要します(質疑登研528P183)。
(2) 登記原因及びその日付
 変更の効力発生日をもって「平成○年○月○日変更」のように記載します。
(3) その他の登記事項
 変更後の事項として,変更後の債権の範囲,債務者および極度額を記載します。債務者や債権の範囲の変更は,交替的に入れ替えることも,また追加することも,さらには一部を除くこともできますが,申請情報の内容としては,その変更後の債権の範囲,債務者全部を記載します(先例昭46・12・24民甲3630号通達)。なお,2人の債務者が連帯して債権者(根抵当権者)に対して負っている債務を当該根抵当権で担保する場合であっても,変更後の事項である債務者については,「連帯債務者」とはせず,「債務者」と記載します(先例昭46・12・24民甲3630号通達,質疑登研304P73)。
(4) 申請人
 本問では,債権の範囲が増加し,債務者も追加され,極度額が増額されるので,原則どおり,根抵当権者が登記権利者,設定者が登記義務者となり共同してその登記を申請します。 (5) 添付情報
登記原因証明情報(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,同別表25添付情報欄イ),登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文),登記義務者の印鑑証明書(不動産登記令18条2項・3項),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載により添付を省略することができる),代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供を要します。なお,抵当権の債務者変更とは異なり,根抵当権の債務者変更の登記の申請情報には,原則どおり登記義務者の印鑑証明書の提供を要します(不動産登記令18条,不動産登記規則48条,47条3号(1)カッコ書)。
(6) 課税価格と登録免許税
① 極度額の変更
課税価格は,増加する極度額を記載します。また,登録免許税の税率は,極度額の増額については,増額した極度額の1000分の4であり(登税別表第1.1(5),課税価格に登録免許税の税率を乗じた額が登録免許税額となります(百円未満切捨て)。本問では,金1000万円×4/1000=金4万円になります。
② 債権の範囲および債務者の変更
 登録免許税は,登記事項の変更の登記として,不動産の個数1個につき1000円です(登税別表第1.1(14))。本問では,不動産は2個ですので,金2000円になります。
 よって,登録免許税額は,①と②の合計額である金4万2000円となります。
6 本問の検討
 本問の甲土地および乙建物の登記記録には,甲野太郎が所有者であり,帝都商事株式会社が根抵当権者である極度額金2000万円の共同根抵当権の設定の登記がなされています(登記記録の記録)。平成29年7月1日,甲野太郎は,帝都商事株式会社との間で,すでに設定されている根抵当権の極度額を増額し,債権の範囲として金銭消費貸借取引を加え,債務者として自己が代表取締役を務める株式会社甲野商店を追加する旨の契約を締結しています(事実関係1)。甲土地と乙建物の甲区・乙区には記録がある登記以外の権利に関する登記はなされていないので(登記記録の記録(注1)(注2)),極度額の変更については,利害関係人を有する第三者の有無を考慮することを要しません。また,代表取締役が自己の所有する不動産に,自身が代表取締役を務める株式会社の債務を担保するため,当該株式会社を根抵当権の債務者として追加することは,利益相反行為となりません。 したがって,甲野太郎および帝都商事株式会社は,甲土地および乙建物に対し,極度額を金3000万円とする変更,債権の範囲・債務者の追加的変更をした旨の共同根抵当権の変更の登記の申請をすることを司法書士法務律子に依頼することになります。