【司法書士】
記述式の学習~その11~
司法書士「法務律子」がさらなる根抵当権に挑む



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


桜の開花宣言が出たものの,なかなか暖かくなりませんね。時に,いよいよ本試験までの残りも3か月になりました。前回も申し上げましたとおり,直前期だからこそ,基礎固めや重要事項の確実な理解が重要になります。本試験の場では,10の不確かな知識より1の確実な知識を持っている人が合格します。
さて,今回は,不動産登記の根抵当権全部譲渡の登記を学習します。

<問題>
登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,株式会社ヨコハマ・シティ銀行の代表取締役甲野太郎及び株式会社七十八銀行の代表取締役乙野次郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続,登記識別情報の暗号化及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(注)
1 登記の申請日は,平成29年7月1日とするものとする。
2 登記の申請に必要な添付情報はすべて書面で作成され,調えられているものとする。また,登記申請情報及びこれと併せて提供する添付情報は,すべて書面による方法で行うものとする。なお,会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載するものとする。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成28年10月1日受付第77358号
   平成28年10月1日売買
   所有者 東京都港区新橋一丁目1番1号 丙野三郎
(注1)甲区には2番の所有権移転登記以後登記はなされていない。
乙区
1番 根抵当権設定
   平成28年10月1日受付第77359号
   平成28年10月1日設定
   極度額 金5000万円
   債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権
   債務者 東京都港区新橋一丁目1番1号 丙野三郎
   根抵当権者 横浜市中区山下町2番地2 株式会社ヨコハマ・シティ銀行
   (取扱店 東京支店)
   共同担保 目録(ま)第3579号
(注2) 乙建物にも同様の登記がなされている。なお,甲土地と乙建物の乙区には1番根抵当権以外の登記はなされていない。
(事実関係)
1 平成29年7月1日,株式会社ヨコハマ・シティ銀行の代表取締役甲野太郎と,株式会社七十八銀行(本店 東京都千代田区大手町七丁目8番9号,取扱店新橋支店)の代表取締役乙野次郎との間で,平成28年10月1日付根抵当権設定契約に基づき設定された甲土地及び乙建物を共同担保とする既登記の元本確定前の根抵当権(東京法務局港出張所受付第77359号)の全部を譲渡する旨の契約を締結した。
2 同日,1の根抵当権の全部譲渡につき,所有者丙野三郎の承諾を得た。
3 丙野三郎の氏名・住所及び株式会社ヨコハマ・シティ銀行の本店・商号及び取扱店は,登記記録上のものと変わりない。

<答案用紙>
登記の目的(          )
登記原因及びその日付(           )
権利者(                                 )
義務者(                                 )
添付書面(                                )
課税価格(         )
登録免許税(          )

<解答例>
登記の目的(1番共同根抵当権移転
登記原因及びその日付(平成29年7月1日譲渡
権利者(東京都千代田区大手町七丁目8番9号 株式会社七十八銀行 代表取締役乙野次郎(取扱店 新橋支店)
義務者(横浜市中区山下町2番地2 株式会社ヨコハマ・シティ銀行 代表取締役甲野太郎
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 承諾を証する情報 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報
課税価格(金5000万円
登録免許税(金10万円

<解説>
1 根抵当権の全部譲渡
(1) 根抵当権の全部譲渡の意義等
元本の確定前の根抵当権においては,根抵当権者は,根抵当権設定者の承諾を得て,根抵当権の全部を第三者に譲渡することができます(根抵当権の全部譲渡,民法398の12第1項)。根抵当権の全部譲渡とは,当該根抵当権を被担保債権とは別に譲受人に移転させる元本の確定前の根抵当権の処分の一型態です。根抵当権の全部譲渡により,根抵当権は譲受人に完全に移転します。したがって,根抵当権の譲受人は,極度額を枠とする目的物の価値支配権を債権の範囲・債務者の変更という手段を併用することにより自由に利用することができるようになります。
一定の種類の取引として「銀行取引」をもって根抵当権の債権の範囲を定めた場合,担保される具体的な債権は,根抵当権者が債務者との間で銀行取引契約に基づき生ずる債権であって,かつ,元本の確定時において根抵当権者が債務者に対して有しているものに限られます。元本の確定までに当該債権が譲渡され,あるいは債務引受により債務者が変更した場合には,当該債権は担保されません(根抵当権の随伴性の否定,民法398条の7)。しかし,例えば,「銀行取引」として債権の範囲を定めた根抵当権がA銀行からB銀行に譲渡され,債権の範囲が従前のとおりである場合には,当該根抵当権は,B銀行が債務者との銀行取引により取得した債権であって,元本の確定時にB銀行が債務者に対して有するもののみを担保します。この場合,たとえ,当該根抵当権が,当初はA銀行と設定者の間の銀行取引のみを担保させる目的で設定されたものであっても,根抵当権を譲り受けたB銀行が,当該根抵当権の全部譲渡を受ける前に債務者との間の銀行取引により取得した債権が当然に債権の範囲に含まれます。債権の範囲を「銀行取引」と定めた以上,債権の範囲は客観的に定められるからです。したがって,このような場合には,改めて債権の範囲の変更の登記を申請することを要しません。
(2) 根抵当権設定者の承諾
根抵当権の全部譲渡の際の根抵当権設定者の承諾は,実体法上の効力要件です(民法398の12第1項)。したがって,この承諾がなければ,根抵当権の全部譲渡の効力は生じません。根抵当権の全部譲渡は,根抵当権の被担保債権を決定する基準である債権者の変更ですが,実質的には,根抵当権自体の内容の変更となりますので,根抵当権の譲渡人と譲受人の契約のほかに,設定者の承諾をも要するものとしています。
(3) 共同根抵当権である場合の全部譲渡の効力の発生
共同根抵当権の全部譲渡は,その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ,その効力を生じません(民法398条の17第1項)。共同根抵当権の場合には,共同根抵当権の全部譲渡の登記は,対抗要件(民法177条)のみではなく,効力発生要件でもあります。なお,共同担保である根抵当権の全部譲渡の登記の申請は,各不動産についての登記原因の日付が異なる場合であっても,これを同一の申請情報ですることができます(不動産登記令4条ただし書,不動産登記規則35条10号)。
(4) 根抵当権の全部譲渡の登記の期限
 根抵当権の全部譲渡およびその登記は,元本の確定前に限ってすることができます(民法398の12第1項)。この登記を元本の確定前にしないときは,たとえ,全部譲渡契約や設定者の承諾が元本の確定前になされている場合であっても,全部譲渡を原因とする根抵当権移転の登記を申請することはできません。
2 申請人
 根抵当権の全部譲渡は,当該根抵当権の譲受人が登記権利者,譲受人が登記義務者となり,共同してその登記を申請します。
3 登記申請情報(登記申請書)の作成
(1) 登記の目的
「1番共同根抵当権移転」と記載します。根抵当権の全部譲渡により,根抵当権の全部譲渡により,根抵当権は譲受人に完全に移転するので,「1番共同根抵当権全部譲渡」のように記載しないことに注意が必要です(参考:抵当権のみの譲渡)。
(2) 登記原因及びその日付
 根抵当権の全部譲渡は,根抵当権者と譲受人との契約によりますので,申請情報の内容である登記原因は「平成○年○月○日譲渡」のように記載し,その日付は,原則として,譲渡契約締結の日です。ただし,設定者の承諾がその後になされたときは,当該承諾の日です。
(3) 登記事項
 権利者に取扱店がある場合には,当該取扱店を記載します。なお,根抵当権の移転(全部譲渡)の登記にあっては,極度額を申請情報の内容とすることを要しません(不動産登記令別表58添付情報欄イ括弧書)。
(4) 申請人
 2参照。
(5) 添付情報
登記原因証明情報(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,同別表58添付情報欄イ),登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文),設定者の承諾を証する情報(不動産登記令7条1項5号ハ),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載により添付を省略することができる),代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供を要します。
(6) 課税価格と登録免許税
課税価格は,移転する根抵当権の極度額を記載します。
また,登録免許税の税率は,根抵当権の全部譲渡については,極度額の1000分の2であり(登税別表第1.1⑹ロ),課税価格に登録免許税の税率を乗じた額が登録免許税額となります(百円未満切捨て)。本問では,金5000万円×2/1000=金10万円になります。
4 本問の検討
 本問の甲土地および乙建物の登記記録には,丙野三郎が所有者であり,株式会社ヨコハマ・シティ銀行が根抵当権者である極度額金5000万円の共同根抵当権の設定の登記がなされています(登記記録の記録)。
平成29年7月1日,株式会社ヨコハマ・シティ銀行の代表取締役甲野太郎は,株式会社七十八銀行の代表取締役乙野次郎との間で,平成28年10月1日付根抵当権設定契約に基づき設定された甲土地及び乙建物を共同担保とする既登記の元本確定前の根抵当権の全部を譲渡する旨の契約を締結しています(事実関係1)。
そして,同日,この根抵当権の全部譲渡につき,所有者丙野三郎の承諾を得ています(事実関係2)。
したがって,株式会社ヨコハマ・シティ銀行の代表取締役甲野太郎および株式会社七十八銀行の代表取締役乙野次郎は,甲土地および乙建物に対し,根抵当権の全部譲渡による1番共同根抵当権移転の登記の申請をすることを司法書士法務律子に依頼することになります。