【司法書士】
記述式の学習~その12~
根抵当権と2つの登記~



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


ようやく春らしい暖かな気候となりました。桜も満開となり,お花見の時期ですね。学習が忙しくて時間がないとお嘆きの方には,夜桜見物をおすすめします。たまには,桜の花でも見て,リラックスしてください。
さて,今回は,不動産登記の根抵当権の債務者の相続と指定債務者の合意の登記を学習します。

<問題>

登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,城東信用金庫の代表理事甲野太郎及び乙野次郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続,登記識別情報の暗号化及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。また,登記申請情報の記載は,申請すべき正しい順番で記載するものとする。
(注)1 登記の申請日は,平成29年7月1日とするものとする。
2 登記の申請に必要な添付情報はすべて書面で作成され,調えられているものとする。また,登記申請情報及びこれと併せて提供する添付情報は,すべて書面による方法で行うものとする。
3 会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載するものとする。また,その他の添付情報についても,他の申請情報と併せて提供した書面を援用しないものとする。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成28年9月12日受付第57886号 平成28年9月12日売買
   所有者 東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野太郎
3番 所有権移転
平成29年6月15日受付第33564号 平成29年6月1日相続
所有者 東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野次郎
(注1)甲区には3番の所有権移転登記以後登記はなされていない。
乙区
1番 根抵当権設定
   平成28年9月12日受付第57887号 平成28年9月12日設定
   極度額 金3000万円
   債権の範囲 信用金庫取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権
   債務者 東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野太郎
   根抵当権者 東京都江東区北砂一丁目1番1号 城東信用金庫
   共同担保 目録(は)第4453号 
(注2) 乙建物にも同様の登記がなされている。なお,甲土地と乙建物の乙区には1番根抵当権以外の登記はなされていない。
(事実関係)
1 平成29年6月1日,乙野太郎(住所 東京都江東区新大橋一丁目1番1号)は死亡した。乙野太郎の相続人は,妻の乙野花子,長男乙野次郎,二男乙野三郎の3人であり,その住所は乙野太郎と同じである。
2 平成29年6月15日,乙野太郎の相続人全員は,遺産分割協議を行い,甲土地及び乙建物の他,乙野太郎が城東信用金庫に対して負担する債務の全てを,長男乙野次郎が取得する旨を決定した。
3 平成29年7月1日,城東信用金庫の代表理事甲野太郎と乙野次郎は,城東信用金庫を根抵当権者とする根抵当権(平成28年9月12日受付第57887号)の指定債務者を乙野次郎とする旨の合意をした。
4 乙野次郎の氏名と住所及び城東信用金庫の主たる事務所と名称は,登記記録上のものと変わりない。

<答案用紙>
申請書1
登記の目的(           )
登記原因及びその日付(              )
変更後の事項(                                                )
権利者(                                                     )
義務者(                                                     )
添付書面(                                                    )
登録免許税(            )
申請書2
登記の目的(            )
登記原因及びその日付(               )
指定債務者(                                                  )
権利者(                                                     )
義務者(                                                     )
添付書面(                                                   )
登録免許税(            )

<解答例>
申請書1
登記の目的(1番共同根抵当権変更
登記原因及びその日付(平成29年6月1日相続
変更後の事項(債務者(被相続人 乙野太郎
            東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野花子
            東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野次郎

            東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野三郎
権利者(東京都江東区北砂一丁目1番1号 城東信用金庫 代表理事甲野太郎
義務者(東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野次郎
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報
登録免許税(金2000円

申請書2
登記の目的(1番共同根抵当権変更
登記原因及びその日付(平成29年7月1日合意
指定債務者(東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野次郎
権利者(東京都江東区北砂一丁目1番1号 城東信用金庫 代表理事甲野太郎
義務者(東京都江東区新大橋一丁目1番1号 乙野次郎
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報
登録免許税(金2000円

<解説>
1 根抵当権の債務者の相続と指定債務者の合意
⑴ 根抵当権の債務者の相続と指定債務者の合意および元本の確定
元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは,根抵当権は,相続開始の時に存する債務のほか,根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人(指定債務者)が相続の開始後に負担する債務を担保することとされています(民法398条の8第2項)。そして,指定債務者の合意については,相続の開始後6か月以内にその登記をしないときは,担保すべき元本は,相続開始の時に確定したものとみなされます(民法398条の8第3項)。
⑵ 元本確定前の債務または債務者の地位を遺産分割の対象とすることの可否
 根抵当権の元本確定前の債務は,その設定から元本の確定の時点に至るまでは変動(発生・消滅)することが予定されている不特定の債務です。また,根抵当権の債務者とは,根抵当権者と取引をする地位と考えられています。そして,条文上,指定債務者は,根抵当権者と根抵当権設定者との合意によって定まるものとされています(民法398条の8第2項・第3項)。これらのことから,債務者の相続開始の時に存する債務や債務者の地位は,遺産分割の対象とならないと解されています。
これに対し,抵当権では,共同相続人の1人が抵当権で担保されている債務を引き受けた場合であって,その引受けが遺産分割によるものであるときは,共同相続人全員の相続による抵当権の変更登記を経ることなく,直接当該共同相続人の1人の相続による抵当権の変更登記をすることができるとされています(先例昭33.5.10民甲964号)。 ⑶ 指定債務者の合意の登記の前提としての相続による根抵当権の債務者の変更の登記
 債務者の相続開始の時に存する債務や債務者の地位は,遺産分割の対象とならないとすると,指定債務者の合意の登記の前提として,債務者の共同相続人全員を債務者とする根抵当権の債務者の変更の登記を申請しなければなりません。
⑷ 債務者の相続の登記と指定債務者の合意の登記の申請期限
指定債務者の合意については,相続の開始後6か月以内にその登記をしないときは,担保すべき元本は,相続開始の時に確定したものとみなされます(民法398条の8第3項)。したがって,当該根抵当権で,相続開始の時に存する債務のほか,根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた指定債務者が相続の開始後に負担する債務を担保させようとするには,相続の開始後6か月以内に債務者の相続の登記と指定債務者の合意の登記を申請しなければなりません。たとえ,根抵当権者と根抵当権設定者との間で,債務者の合意をしていたとしても,相続の開始後6か月以内にその登記を申請しなければ,当該根抵当権の元本は,相続開始の時に確定したものとみなされてしまいます。

2 登記申請情報(登記申請書)の作成
申請書1について
⑴ 登記の目的 
「1番共同根抵当権変更」と記載します。なお,すべての不動産について登記をしなければ,その効力を生じない共同根抵当権に関する変更登記を申請するときは,「共同」である旨を申請情報の内容である登記の目的として提供しなければならないとされていますので(質疑登研528P183),「共同」である旨を記載した方が無難と考えます。 ⑵ 登記原因及びその日付
 申請情報の内容である登記原因は「平成○年○月○日相続」のように記載し,その日付は,相続開始の日となります。
⑶ 変更後の事項
債務者として,相続人全員の住所および氏名を記載します。また,債務者である被相続人の氏名をカッコ書で記載します。なお,債務者が複数となりますが,「連帯債務者」とは記載しません。
⑷ 申請人
 相続による根抵当権の変更の登記は,根抵当権者が権利者,根抵当権設定者が義務者となり,共同してその登記を申請します。
⑸ 添付情報
登記原因証明情報(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,同別表25添付情報欄イ),登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文)および印鑑証明書(不動産登記令18条2項・3項),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載により添付を省略することができる),代理人に登記の申請を依頼した場合には,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供を要します。
なお,必ずしも相続を証する情報を提供することを要しません。この根抵当権の変更登記は共同申請であり,登記義務者の作成に係る登記原因証明情報により,登記の真正は担保されているからです。
⑹ 登録免許税
登録免許税は,不動産1個につき金1000円です(登税別表第1.1⒁)。本問では,不動産は甲土地および乙建物(2個)なので,金2000円です。
申請書2について
⑴ 登記の目的 
申請書1と同様です。
⑵ 登記原因及びその日付
 申請情報の内容である登記原因は「平成○年○月○日合意」のように記載し,その日付は,根抵当権者と根抵当権設定者が指定債務者の合意をした日となります。
⑶ 指定債務者
合意により定められた指定債務者の住所および氏名を記載します。
⑷ 申請人
 指定債務者の合意による根抵当権の変更の登記は,根抵当権者が権利者,根抵当権設定者が義務者となり,共同してその登記を申請します。
⑸ 添付情報
申請書1と同様です(なお書以降を除く。)。
⑹ 登録免許税
申請書1と同様です。

3 本問の検討
本問の甲土地および乙建物の登記記録には,乙野次郎が所有者,城東信用金庫が根抵当権者である極度額金3000万円の共同根抵当権の設定の登記がなされています(登記記録の記録)。
平成29年6月1日,乙野太郎(住所 東京都江東区新大橋一丁目1番1号)は死亡しました(事実関係1)。
そして,平成29年7月1日,城東信用金庫の代表理事甲野太郎は,乙野次郎との間で,城東信用金庫を根抵当権者とする根抵当権(平成28年9月12日受付第57887号)の指定債務者を乙野次郎とする旨の合意をしています(事実関係3)。この合意は,相続開始の日である平成29年6月1日から6か月以内になされ,かつ,登記の申請日は,平成29年7月1日ですので,元本確定の有無についての問題はありません。
以上により,城東信用金庫の代表理事甲野太郎および乙野次郎は,甲土地および乙建物に対し,債務者の相続による根抵当権の変更の登記(申請書1)と指定債務者の合意による根抵当権の変更の登記(申請書2)の各登記の申請をすることを司法書士法務律子に依頼することになります。
なお,平成29年6月15日,乙野太郎の相続人全員により行われた遺産分割協議において,乙野太郎が城東信用金庫に対して負担する債務の全てを乙野次郎が取得する旨を決定していますが(事実関係2),確定前の根抵当権の債務は遺産分割協議の対象とはならないことから,抵当権のように「平成29年6月1日相続」を原因として直ちに債務者を乙野次郎とする根抵当権の変更登記を申請することはできません。