【司法書士】
記述式の学習~その13~
会社分割による根抵当権の一部移転



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


春だというのに,寒暖の差が激しい天候が続きます。桜もあっという間に開花したと思ったら,早くも散り始め,お花見を十分に楽しめない残念な年となりました。季節の変わり目は,風邪などをひきがちですが,十分に注意してくださいね。
さて,今回は,不動産登記の根抵当権者の会社分割と吸収合併の登記を学習します。

<問題>
登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月2日,司法書士法務律子は,株式会社りそう銀行の代表取締役甲野太郎及び株式会社横浜りそう銀行の代表取締役乙野次郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続,登記識別情報の暗号化及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。
司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報(以下,「申請書」という。)のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。また,登記申請書の記載は,申請すべき正しい順番で記載するものとする。
(注)1 登記の申請日は,平成29年7月2日とするものとする。
2 登記の申請に必要な添付情報はすべて書面で作成され,調えられているものとする。また,登記申請情報及びこれと併せて提供する添付情報は,すべて書面による方法で行うものとする。
3 会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載するものとする。また,その他の添付情報についても,他の申請情報と併せて提供した書面を援用しないものとする。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成28年10月1日受付第66832号 平成28年10月1日売買
   所有者 横浜市金沢区六浦一丁目1番1号 丙野三郎
(注1)甲区には2番の所有権移転登記以後登記はなされていない。
乙区
1番 根抵当権設定
   平成28年10月1日受付第66833号 平成28年10月1日設定
   極度額 金5000万円
   債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権
   債務者 横浜市金沢区六浦一丁目1番1号 丙野三郎
   根抵当権者 横浜市西区みなとみらい一丁目1番1号 株式会社かながわ銀行
                          (取扱店 横浜駅前支店)
   共同担保 目録(む)第9882号 
(注2) 乙建物にも同様の登記がなされている。なお,甲土地と乙建物の乙区には1番根抵当権以外の登記はなされていない。
(事実関係)
1 平成29年4月1日,株式会社横浜りそう銀行(本店 横浜市中区山下町37番地9)を吸収分割承継会社とし,株式会社かながわ銀行を吸収分割会社とする吸収分割がなされた。
2 同日,株式会社りそう銀行(本店 横浜市中区桜木町一丁目1番1号)が株式会社かながわ銀行を吸収合併した。なお,取扱支店は,横浜北支店である。
3 登記されている根抵当権の元本は確定していない。また,丙野三郎の氏名と住所及び株式会社かながわ銀行の本店と商号は,登記記録上のものと変わりない。

<答案用紙>
申請書1
登記の目的(           )
登記原因及びその日付(              )
権利者(                                                     )
義務者(                                                     )
添付書面(                                                    )
課税価額(        )
登録免許税(            )
申請書2
登記の目的(            )
登記原因及びその日付(               )
根抵当権者(                                                  )
添付書面(                                                    )
課税価額(        )
登録免許税(            )

<解答例>
申請書1
登記の目的(1番根抵当権一部移転
登記原因及びその日付(平成29年4月1日会社分割
権利者(横浜市中区山下町37番地9 株式会社横浜りそう銀行 代表取締役乙野次郎
義務者(株式会社かながわ銀行 
     (承継会社)横浜市中区桜木町一丁目1番1号 
      株式会社りそう銀行 代表取締役甲野太郎

添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 代表者の資格を証する情報 合併を証する情報 代理権限を証する情報
課税価額(金2500万円
登録免許税(金5万円
申請書2
登記の目的(1番根抵当権共有者株式会社かながわ銀行の権利移転
登記原因及びその日付(平成29年4月1日合併
根抵当権者((被合併会社 株式会社かながわ銀行
         横浜市中区桜木町一丁目1番1号 株式会社りそう銀行
                    (取扱店 横浜北支店)
                     代表取締役甲野太郎
添付書面(登記原因証明情報 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報
課税価額(金2500万円
登録免許税(金2万5000円

<解説>
1 根抵当権の一部移転
⑴ 根抵当権者の会社分割による根抵当権の一部移転
元本の確定前に,根抵当権者を分割会社とする会社分割があったときは,根抵当権は,会社分割の時に存する債権のほか,分割会社および新設分割設立会社または吸収分割承継会社が会社分割後に取得する債権を担保します(民法398条の10第1項)。つまり,根抵当権者を分割会社とする会社分割がなされると,当該根抵当権は,法律上当然に分割会社および新設分割設立会社または吸収分割承継会社との準共有の根抵当権になります(法定準共有)。したがって,会社分割を登記原因とする根抵当権の一部移転登記を申請することになります。
⑵ 本問の検討
元本確定前である平成29年4月1日,株式会社横浜りそう銀行を吸収分割存続会社とし,株式会社かながわ銀行を吸収分割会社とする吸収分割がなされています(事実関係1・3)。また,同日,株式会社りそう銀行が株式会社かながわ銀行を吸収合併しています(事実関係2)。したがって,平成29年4月1日付けで,吸収分割承継会社である株式会社横浜りそう銀行を登記権利者,吸収分割会社株式会社かながわ銀行(承継会社である株式会社りそう銀行)を登記義務者とする会社分割を登記原因とする根抵当権の一部移転登記を申請することになります。
⑶ 登記申請書の作成(申請書1について)
① 登記の目的
「1番根抵当権一部移転」と記載します。なお,「共同」である旨を登記の目的に記載することを要しません。会社分割による根抵当権の一部移転は,法律の規定により当然に生じるものだからです。
② 登記原因及びその日付
 「平成○年○月○日会社分割」と記載します。その日付は,吸収分割のときは,吸収分割の効力発生日(会社法758条7号)となります。
③ 申請人
吸収分割を原因とする根抵当権一部移転の登記は,吸収分割承継会社が登記権利者,分割会社が登記義務者となり,共同してその登記を申請します(不動産登記法60条,先例平13・3・30民二867号通達)。なお,株式会社りそう銀行を吸収合併存続会社とする合併が生じ,株式会社かながわ銀行の権利義務を承継していますので(事実関係2),申請人適格を証するため,被合併会社の商号と承継会社である旨を「株式会社かながわ銀行( 承継会社)株式会社りそう銀行」のように記載します。
④ 添付書面
登記原因証明情報として吸収分割承継会社の登記事項証明書(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,先例平17・8・8民二1811号通知),登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載によりその提供を省略することができる),合併を証する情報として吸収合併承継会社の登記事項証明書(不動産登記法62条,不動産登記令7条1項5号イ),代理人に登記の申請を依頼しているので,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供を要します。なお,この登記の申請書には,根抵当権設定者の承諾を証する情報の提供を要しません。根抵当権者の会社分割による根抵当権の一部移転は,根抵当権の一部譲渡(民法398条の13)と異なり,法律上当然にその効果が生じるものだからです。
⑤ 課税価額
 会社分割後の共有者数で除して得た極度金額として,金5000万円÷2=金2500万円となります(登税別表第1.1.⑺)。
⑥ 登録免許税
課税価額に1000分の2を乗じて得た額として,金2500万円×2/1000=金5万円となります(登税別表第1.1.⑺)。

2 根抵当権の準共有者の権利移転
⑴ 準共有者を消滅会社とする吸収合併による根抵当権の準共有者の権利移転
元本の確定前に根抵当権者について吸収合併があったときは,根抵当権は,吸収合併の時に存する債権のほか,吸収合併後存続する会社または合併によって設立された会社が吸収合併後に取得する債権を担保します(民法398条の9第1項)。吸収合併がなされると,吸収合併存続会社は,吸収合併消滅会社の権利義務を包括的に承継しますので(会社法750条1項),吸収合併消滅会社の根抵当権もまた吸収合併存続会社に移転します。これは,根抵当権の準共有者を吸収合併消滅会社とする吸収合併がなされた場合も同様です。したがって,吸収合併存続会社は,単独で合併を登記原因とする根抵当権の準共有者の権利移転の登記を申請することになります。
⑵ 本問の検討
元本確定前である平成29年4月1日,株式会社りそう銀行が吸収合併存続会社,株式会社かながわ銀行を吸収合併消滅会社とする吸収合併がなされています(事実関係2)。したがって,平成29年4月1日付けで,株式会社りそう銀行が,単独で合併を登記原因とする根抵当権の準共有者の権利移転の登記を申請することになります。
⑶ 登記申請書の作成(申請書2について)
① 登記の目的
「1番根抵当権共有者株式会社かながわ銀行の権利移転」と記載します。なお,「共同」である旨を登記の目的として記載することを要しません(申請書1と同様です)。これは,合併という原因に基づく権利移転であり,すべての不動産について登記を申請しなければ効力を生じないわけではないからです(民法398条の17第1項参照)。
② 登記原因及びその日付
 「平成○年○月○日合併」と記載します。その日付は,吸収合併の時は,吸収合併の効力発生日(会社法749条1項6号,750条1項)となります。
③ 申請人
合併による根抵当権の準共有者の権利移転は,吸収合併存続会社が単独で登記を申請します(不動産登記法63条2項)。また,申請人適格を証するため,被合併会社の商号を(被合併会社 株式会社かながわ銀行)と記載します。なお,取扱支店の定めがあるので,(取扱店 横浜北支店)のように記載します。
④ 添付書面
登記原因証明情報として吸収合併存続会社の登記事項証明書(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ,別表22添付情報欄),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載により添付を省略することができる),代理人に登記の申請を依頼しているので,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供を要します。なお,合併による単独申請となるので,吸収合併消滅会社の登記識別情報(不動産登記法22条本文)の提供を要しません。
⑤ 課税価額
 極度金額から会社分割後の共有者数で極度金額を除して得た額を控除した額として,金5000万円-金5000万円÷2=金2500万円となります。
⑥ 登録免許税
課税価額に1000分の1を乗じて得た額として,金2500万円×1/1000=金2万5000円となります(登税別表第1.1. ⑹イ)。