【司法書士】
記述式の学習~その14~
根抵当権・最終章



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


ようやく春が来たと思えば,夏日が続くという不可解な天候です。寒の戻りもあるかもしれませんので,体調管理には万全を期してくださいね。
さて,今回は,不動産登記の根抵当権の元本確定の登記の要否と元本確定後の根抵当権の一部移転の登記を学習します。不動産登記の記述式の学習は,ひとまず今回にて終了し,来週からは,商業登記の記述式について学習していきます。

<問題>

登記記録に次のような登記事項の記録がある甲土地及び乙建物について,平成29年7月1日,司法書士法務律子は,株式会社東都銀行の代表取締役甲野太郎及び株式会社東日本保証協会の代表取締役乙野次郎から登記の手続に必要な書類を受領するとともに,登記の申請手続,登記識別情報の暗号化及び登記識別情報の受領について代理することの依頼を受けた。以下の問に答えなさい。
問1 問2の登記を申請するための前提として,元本の確定の登記を申請するか否かについて,答案用紙の要・否のいずれかに丸をつけなさい。
問2 司法書士法務律子が,作成すべき登記申請情報(以下,「申請書」という。)のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(注)1 登記の申請日は,平成29年7月1日とするものとする。
   2 登記の申請に必要な添付情報はすべて書面で作成され,調えられているものとする。また,登記申請情報及びこれと併せて提供する添付情報は,すべて書面による方法で行うものとする。
   3 会社法人等番号の記載により提供を省略することができる添付情報があっても,提供を省略せずに記載するものとする。また,その他の添付情報についても,他の申請情報と併せて提供した書面を援用しないものとする。
(登記記録の記録)
甲土地
表題部(省略)
権利部
甲区
1番(省略)
2番 所有権移転
   平成8年8月8日受付第46832号 平成8年8月8日売買
   所有者 東京都新宿区愛住町1番1号 丙野三郎
3番 所有権移転
   平成29年2月28日受付第15467号 平成28年11月1日相続
   所有者 東京都新宿区愛住町1番1号 丙野花子
(注1)甲区には3番の所有権移転登記以後登記はなされていない。
乙区
1番 根抵当権設定
   平成8年8月8日受付第46833号 平成8年8月8日設定
   極度額 金5000万円
   債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
   債務者 東京都新宿区愛住町1番1号 丙野三郎
   根抵当権者 東京都港区西麻布一丁目1番1号 株式会社東都銀行
                          (取扱店 新宿支店)
   共同担保 目録(も)第1098号
(注2) 乙建物にも同様の登記がなされている。なお,甲土地と乙建物の乙区には1番根抵当権以外の登記はなされていない。
(事実関係)
1 平成28年11月1日,丙野三郎(住所 東京都新宿区愛住町1番1号)は死亡した。
2 平成29年6月28日,株式会社東日本信用保証協会(東京都千代田区霞が関一丁目1番1号)は,1番根抵当権で担保されている債務金4000万円の一部金3000万円を株式会社東都銀行に対して,代位弁済した。
3 株式会社東都銀行の本店と商号は,登記記録上のものと変わりない。

<答案用紙>

問1 元本の確定登記の申請の要否  要・否
問2
登記の目的(           )
登記原因及びその日付(              )
弁済額(      )
権利者(                                                     )
義務者(                                                     )
添付書面(                                                    )
課税価額(        )
登録免許税(            )

<解答例>

問1 元本の確定登記の申請の要否  要・○否
問2
登記の目的(1番根抵当権一部移転
登記原因及びその日付(平成29年6月28日一部代位弁済
弁済額(金3000万円
権利者(東京都千代田区霞が関一丁目1番1号 株式会社東日本信用保証協会
代表取締役 乙野次郎
義務者(東京都港区西麻布一丁目1番1号 株式会社東都銀行 代表取締役甲野太郎
添付書面(登記原因証明情報 登記識別情報 代表者の資格を証する情報 代理権限を証する情報
課税価額(金3000万円
登録免許税(金6万円

<解説>

問1

1 根抵当権の元本確定の意義

根抵当権の元本確定とは,根抵当権の担保すべき元本が具体的に特定することをいいます。根抵当権の担保すべき元本が確定すると,その後に発生する債権は,もはや当該根抵当権によって担保されなくなります。以後,当該根抵当権は,元本の確定時に現存する元本と利息,損害金のみを極度額を限度として担保することとなります。そして,普通抵当権と同様に,債権に対する随伴性が復活し,個々の債権の移転等に伴って,根抵当権の全部または一部の移転等が生じ,あるいは個々の債務の引受けに伴って債務者の変更が生ずることになります。さらに,根抵当権の債権に対する付従性も復活し,現存債務が弁済されれば根抵当権は消滅することになります。抵当権と同様の根抵当権の処分(民法376条1項)も可能となります。反面,根抵当権が確定すると,当該根抵当権の担保すべき債権の範囲または債務者の変更(民法398条の4第1項),根抵当権の全部譲渡(民法398条の12第1項),分割譲渡(同条2項),一部譲渡(民法398条の13)など,元本確定前に認められていた根抵当権に特有の変更・処分はすることができなくなります。このように根抵当権の元本の確定は,確定した根抵当権が普通抵当権に類似したものになるという点で,根抵当権の性質を根本的に変化させるものとして重要な意義を有します。

2 債務者の相続開始後合意の登記がされずに6か月を経過したことによる元本の確定

元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは,根抵当権は,相続開始の時に存する債権のほか,相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保します(指定債務者の合意,民法398条の8第1項)。しかし,指定債務者の合意については,合意がなされている場合であっても,相続の開始後6か月以内にその登記をしないときは,担保すべき元本は,相続開始の時に確定したものとみなされます(民法398条の8第4項)。

3 根抵当権の元本の確定登記を申請することの要否

根抵当権の元本の確定は,根抵当権の性質を根本的に変化させるものであるため,根抵当権の元本確定後でなければ申請できない登記を申請するためには,公示上の要請として,それらの登記の前提として,根抵当権の元本の確定登記を申請することが原則です。 ただし,登記記録上から,当該根抵当権の元本が確定したことが明らかである場合には,根抵当権の元本確定の登記を申請することを要しません(昭46.12.27民三960号依命通知)。具体的には,①確定期日の到来,②根抵当権者・債務者の相続開始後合意の登記がされずに6か月を経過したとき(民法398条の8第4項),③抵当不動産について根抵当権者の申立てによる競売もしくは担保不動産収益執行による差押えの登記がなされたtおき(民法398条の20第1項1号),④根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき(民法398条の20第1項2号),⑤債務者または根抵当権設定者(いずれも法人を除く。)が破産手続開始の決定を受けたとき(民法398条の20第1項4号)がこれに該当します。

4 本問の検討

平成28年11月1日,1番根抵当権設定者兼債務者である丙野三郎は死亡しています(登記記録の記録,事実関係1)。そして,甲土地および乙建物につき,同日相続を原因とする所有権移転登記がなされています(登記記録の記録・甲区3番)。しかし,その後,6か月以内に1番根抵当権につき,指定債務者の合意の登記がなされていません(登記記録の記録,乙区(注)2参照)。したがって,この根抵当権の元本は,相続後6か月の経過により,相続開始の時(平成28年11月1日)に確定したものとみなされます。
この根抵当権の元本の確定は,登記記録上明らかです。そのため,元本の確定後になすべき登記の前提として,元本の確定登記の申請を要しません。したがって,元本の確定登記の申請の要否については,否に丸をつけます。

問2

1 代位弁済による根抵当権の一部移転

 元本の確定前に債務者に代わって弁済をした者は,その債権について根抵当権を行使することができません(民法398条の7第1項)。しかし,根抵当権の元本が確定すると,被担保債権に対する根抵当権の随伴性が復活します。そのため,債務者に代わって弁済をした者も,その債権について根抵当権を行使することができるようになります。したがって,元本確定後に一部代位弁済をした者は,これを公示し,第三者に対抗するために,一部代位弁済を原因とする根抵当権の一部移転の登記を申請することになります。なお,根抵当権の一部移転により,以後当該根抵当権は,原根抵当権者と一部代位弁済をした者との準共有となります。

2 本問の検討

 1番根抵当権の元本は,債務者の相続開始日である平成28年11月1日をもって確定しており,また,登記記録上その元本の確定は明らかです(問1,登記記録の記録甲区3番参照)。そして,平成29年6月28日,株式会社東日本信用保証協会は,1番根抵当権で担保されている債務金4000万円の一部金3000万円を根抵当権者である株式会社東都銀行に対して,代位弁済しています(事実関係2)。したがって,根抵当権の元本の確定の登記をせずに,平成29年6月28日一部代位弁済を原因とする根抵当権の一部移転の登記を申請することができます。

3 登記申請書の作成

(1) 登記の目的
「1番根抵当権一部移転」と記載します。なお,「共同」である旨を登記の目的に記載することを要しません。
(2) (2) 登記原因及びその日付
 「平成29年6月28日一部代位弁済」と記載します。その日付は,一部代位弁済した日になります。もちろん,元本が確定した日以降となければなりません。
(3) 弁済額
 一部代位弁済の場合,「弁済額 金3000万円」と記載します(不動産登記令3条13号,別表57申請情報欄)。根抵当権の一部移転により,当該根抵当権は,原根抵当権者と一部代位弁済をした者との準共有となることから,その割合を公示するためです。
(4) 申請人
一部代位弁済を原因とする根抵当権一部移転の登記は,代位を弁済した者が登記権利者,根抵当権者が登記義務者となり,共同してその登記を申請します(不動産登記法60条)。
(5) 添付書面
登記原因証明情報(不動産登記法61条,不動産登記令7条1項5号ロ),登記義務者の登記識別情報(不動産登記法22条本文),代表者の資格を証する書面(不動産登記規則36条1項1号・2項,不動産登記令7条1項1号イ,会社法人等番号の記載によりその提供を省略することができる),代理人に登記の申請を依頼しているので,その代理人の代理権限を証する情報(不動産登記令18条1項)の提供を要します。なお,この登記の申請書には,根抵当権設定者の承諾を証する情報の提供を要しません。一部代位弁済による根抵当権の一部移転は,元本確定前の根抵当権の一部譲渡(民法398条の13)と異なり,根抵当設定者の意思とは無関係に,一部代位弁済により法律上当然にその効果が生じるものだからです。
(6) 課税価額と登録免許税
 元本確定後の代位弁済による根抵当権の一部移転登記の登録免許税は,代位弁済の目的たる債権額が,根抵当権の極度額を下回る場合は,代位弁済額の1000分の2となり,根抵当権の極度額を上回る場合は,極度額の1000分の2となります(質疑登研349P87,登税別表第1.1.(6)ロ)。