【司法書士】
記述式の学習~その15~
商業登記・序章



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


寒の戻りでしょうか。ここのところ,うららかな春の陽気を感じられませんね。また,昼間暖かくても,夕方寒くなる日もあります。春であっても,防寒に注意して,風邪などお召しになりませんように。
さて,今回からは,商業登記の記述式を学習します。まずは,試験でも実務でも最もポピュラーな役員変更の登記を学習していきます。

<問題>

司法書士法務律子は,平成30年7月2日に事務所を訪れた日の丸商事株式会社の代表取締役から,別紙1から別紙3までの書類のほか必要書類の交付を受け,別紙4のとおり事情を聴取した。司法書士法務律子は,登記すべき事項や登記のための要件を説明したところ,日の丸商事株式会社の代表取締役はこれを了解し,必要な登記申請書の作成及び登記申請の代理を依頼した。
司法書士法務律子は,この依頼に基づき,依頼を受けた日に,管轄登記所に登記を申請した。司法書士法務律子が,作成すべき登記申請書のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(答案作成上のその他の注意事項)
1 登記申請書の添付書面については,全て適式に調えられており,所要の記名押印がされているものとする。各書面に押されている印鑑は,日の丸商事株式会社の代表取締役甲野太郎は登記所に提出している印鑑であり,その他の者については全て市区町村に登録されている印鑑である。
2 登記申請書の添付書面については,他の書面を援用することができる場合でも,援用しないものとする。
3 日の丸商事株式会社においては,別紙1から別紙4までに現れている場合を除き,定款に法令の規定と異なる別段の定めはないものとする。
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別紙1       登記事項証明書抜粋(平成30年7月2日付)
商号 日の丸商事株式会社
本店 東京都千代田区霞が関一丁目2番3号
公告をする方法 官報に掲載してする。
発行可能株式総数 2400株
発行済株式の総数 600株
資本金の額 金3億円
株式の譲渡制限に関する規定 当会社の株式を譲渡により取得するには,取締役会の承認を受けなければならない。
役員に関する事項
取締役甲野太郎 平成28年6月27日重任
取締役乙野次郎 平成28年6月27日重任
取締役丙野三郎 平成28年6月27日重任
取締役丁野四郎 平成28年6月27日重任
取締役戊野五郎 平成28年6月27日重任
東京都港区白金台一丁目2番3号
代表取締役甲野太郎 平成28年6月27日重任
監査役己野六郎 平成28年6月27日重任
取締役会設置会社
監査役設置会社
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別紙2           定時株主総会議事録(抜粋)
平成30年6月29日付の午前10時から午前11時までの間において,当該株主総会において議決権を行使することができる株主全員出席の下,定時株主総会を開催した。
[報告事項](略)
[決議事項]
第1号議案(略)
第2号議案 取締役5人選任に関する件
 議長は,次の者を取締役として選任したい旨を述べ,その可否を議場に諮ったところ,満場一致をもってこれを承認可決した。
取締役甲野太郎,同乙野次郎,同丙野三郎,同庚野七郎,同辛野八郎
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別紙3           取締役会議事録(抜粋)
平成30年6月29日付の午前11時15分から午前11時45分までの間において,取締役及び監査役全員出席の下,取締役会を開催した。
議案 代表取締役の選定の件
 議長は,次の者を代表取締役として選定したい旨を述べ,その可否を諮ったところ,出席取締役全員の賛成をもって承認可決した。
 代表取締役甲野太郎,代表取締役庚野七郎
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別紙4       司法書士の聴取記録(平成30年7月2日付)
1 取締役丁野四郎は,平成30年6月20日付で辞任する旨の辞任届を当社に提出した。
2 平成30年6月29日開催の定時株主総会終了直後に,取締役の被選任者全員からそれぞれその就任を承諾する旨の就任承諾書が当社に提出された。
3 平成30年6月29日開催の取締役会終了直後に,代表取締役の被選定者全員からその就任を承諾する旨の就任承諾書が当社に提出された。庚野七郎の住所は,東京都新宿区四谷一丁目1番地1である。なお,甲野太郎の住所に異動はない。
4 当社の定款には,次の規定がある。
⑴ 当会社の定時株主総会は,毎事業年度末日の翌日から3か月以内に招集し,臨時株主総会は,必要に応じて招集する。
⑵ 当会社の事業年度は,毎年4月1日から翌年3月31日までとする。
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<答案用紙>

【登記の事由】

【登記すべき事項】

【登録免許税額】

【添付書面の名称及び通数】

<解答例>

【登記の事由】
取締役及び代表取締役の変更
【登記すべき事項】
取締役丁野四郎は,平成30年6月20日辞任
取締役戊野五郎は,平成30年6月29日退任
同日次の者重任
取締役甲野太郎,同乙野次郎,同丙野三郎
東京都港区白金台一丁目2番3号 代表取締役甲野太郎
同日次の者就任
取締役庚野七郎,同辛野八郎
東京都新宿区四谷一丁目1番地1 代表取締役庚野七郎
【登録免許税額】
金3万円
【添付書面の名称及び通数】
定款 1通
辞任届 1通
株主総会議事録 1通
株主リスト 1通
取締役の就任承諾書 5通
本人確認証明書 1通
取締役会議事録 1通
代表取締役の就任承諾書 2通
印鑑証明書 1通
委任状 1通

<解説>

1 取締役の変更

⑴ 取締役の就任
 取締役は,株主総会において選任されます(会§329)。そして,取締役の被選任者がその就任を承諾することにより,取締役の就任の効力が生じます(会§330)。
⑵ 取締役の任期
取締役の任期は,原則として,選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会§332Ⅰ本文)。
⑶ 取締役の員数
 取締役会設置会社(会§2⑦)における取締役の員数は,3人以上でなければなりません(会§331Ⅳ)。
⑷ 取締役の辞任
 取締役と会社の関係は,委任に関する規定に従うため(会§330,民§643~656),取締役はその任期中であれば,いつでも取締役の地位を辞することができます(委任契約の解除,民§651Ⅰ)。また,辞任の意思表示に期限を付けることも原則として差し支えなく(昭37・7・20民甲2055号民事局長一部変更指示),この場合,期限の到来によって辞任の意思表示の効力が生じます。
⑸ 取締役の退任
取締役は,辞任(会§330,民§651Ⅰ),任期の満了(会§332),解任(会§339Ⅰ,347Ⅰ),死亡(会§330,民§653①),破産手続開始の決定を受けたこと(会§330,民§653②),会§所定の欠格事由に該当したこと(会§331Ⅰ②~④)および株式会社の解散(会§471)により退任します。


2 代表取締役

⑴ 代表取締役の退任
 代表取締役は取締役であることを前提とするので(会§362条3項),取締役を退任したときは,当然に代表取締役の資格を喪失して退任します。
⑵ 代表取締役の就任
取締役会設置会社においては,取締役会の決議をもって取締役の中から代表取締役を選定しなければなりません(会§362条2項3号・3項)。そして,取締役会の選定決議のほか,代表取締役の被選定者がその就任を承諾することにより,代表取締役の就任の効力が生じます。

3 本問における展開

 取締役甲野太郎,同乙野次郎,同丙野三郎,同丁野四郎および同戊野五郎は,平成28年6月27日に就任(重任)しているため(別紙1),その任期は,選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のもの(平成29年4月1日から平成30年3月31日までの事業年度)に関する平成30年6月29日開催の定時株主総会の終結の時までとなります。途中,取締役丁野四郎は,平成30年6月20日付で辞任する旨の辞任届を会社に提出していますので(別紙4の1),期限の到来する平成30年6月20日付の辞任の登記を申請します。また,退任する者のうち,取締役甲野太郎,同乙野次郎および同丙野三郎は,平成30年6月29日開催の定時株主総会で再選され(別紙2),その就任を承諾していますので(別紙4の2),同日付で重任の登記を申請します。取締役に選任されなかった戊野五郎は,平成30年6月29日付で任期満了により退任します。また,庚野七郎および辛野八郎は,平成30年6月29日開催の定時株主総会で取締役に選任され(別紙2),それぞれその就任を承諾していますので(別紙4の2),同日付で就任の登記を申請します。
 代表取締役甲野太郎は,取締役の任期である平成30年6月29日開催の定時株主総会の終結の時で退任しますが,同日開催の取締役会で代表取締役に再選され(別紙3),その就任を承諾していますので(別紙4の3),同日付で重任の登記を申請します。庚野七郎は,取締役に就任後,同日開催の取締役会で代表取締役に選定され(別紙3),その就任を承諾していますので(別紙4の3),同日付で就任の登記を申請します。

4 登記申請書の作成

⑴ 登記の事由  「取締役及び代表取締役の変更」と記載します。
⑵ 登記すべき事項
 退任・辞任・就任(重任)した取締役の氏名,退任・辞任・就任(重任)の旨およびその年月日を記載します。また,就任(重任)した代表取締役の氏名および住所,就任(重任)の旨およびその年月日を記載します。
⑶ 登録免許税額
 資本金の額が金1億円を超過する会社の役員変更分として,申請件数1件につき金3万円となります(登免税法別表第一24⑴カ)。
⑷ 添付書面の名称および通数
① 定款(商登§54Ⅳ) 1通
定時株主総会の終結時に取締役が退任した場合の取締役の退任による変更登記の申請書には,定時株主総会が定款所定の時期に開催されたことを証するために,退任を証する書面の一部として定款を添付しなければなりません(昭49・8・14民四4637号回答参照)。
② 辞任届(商登§54Ⅳ) 1通
 取締役丁野四郎から,会社に提出された辞任届を添付します(別紙4の1)。
③ 株主総会議事録(商登§46Ⅱ,54Ⅳ) 1通
取締役の退任時期および取締役の選任決議が有効に行われたことを証するため,平成30年6月29日開催の定時株主総会の議事録(別紙2)を添付します。
④ 株主リスト(商登規§61Ⅲ) 1通
 登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合に該当するので,株主の氏名または名称,住所および議決権数を証する株主リストを添付します。
⑤ 取締役の就任承諾書(商登§54Ⅰ) 5通
 取締役の被選任者がその就任を承諾したことを証するため,就任承諾書を添付します(別紙4の2)。 ⑥ 本人確認証明書(商登規§61Ⅶ) 1通
庚野七郎および辛野八郎は再任ではなく,辛野八郎は代表取締役の就任による変更の登記の申請書に印鑑証明書を添付する場合に当たらないため(答案作成上のその他の注意事項1),市町村長(特別区の区長を含むものとし,地方自治法252条の19第1項の指定都市にあっては,市長又は区長若しくは総合区長とする。以下同じ。)その他の公務員が職務上作成した証明書を添付しなければなりません(本人確認証明書,商登規§61Ⅶ)。 v⑦ 取締役会議事録(商登§46Ⅱ) 1通
 代表取締役の選定決議が有効になされたことを証するため,平成30年6月29日付の取締役会の議事録(別紙3)を添付します。
⑧ 代表取締役の就任承諾書(商登§54Ⅰ) 2通
代表取締役の被選任者が代表取締役の就任を承諾したことを証するため,就任承諾書を添付します(別紙4の3)。
⑨ 印鑑証明書(商登規§61ⅤⅣ後段Ⅵただし書) 1通
 代表取締役に就任した庚野七郎は,再任ではありませんので(別紙1参照,3),就任承諾書に押印した庚野七郎の印鑑につき,市町村長の作成した証明書を添付しなければなりません(答案作成上のその他の注意事項1)。なお,平成30年6月29日付けの取締役会には,代表取締役甲野太郎が登記所に提出した印鑑を押しているので(答案作成上のその他の注意事項1),当該取締役会に出席している取締役および監査役全員の印鑑証明書を添付することを要しません。
⑩ 委任状(商登§18) 1通
 代表取締役から司法書士への委任状を添付します。