【司法書士】
記述式の学習~その16~
商業登記(募集株式の発行)



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


ようやく春らしい陽気になりました。日中の寒暖差が激しい日もありますので,薄着などして体調を崩さないようにしてくださいね。
さて,今回は,商業登記の記述式を学習します。第2弾として,募集株式の発行の登記を学習していきます。

<問題>

司法書士法務律子は,平成30年7月1日に事務所を訪れた串アゲ中田株式会社の代表取締役から,別紙1から別紙3までの書類のほか必要書類の交付を受け,別紙4のとおり事情を聴取した。司法書士法務律子は,登記すべき事項や登記のための要件を説明したところ,串アゲ中田株式会社の代表取締役はこれを了解し,必要な登記申請書の作成及び登記申請の代理を依頼した。司法書士法務律子は,この依頼に基づき,依頼を受けた日に,管轄登記所に登記を申請した。司法書士法務律子が,作成すべき登記申請書のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(答案作成上のその他の注意事項)
1 登記申請書の添付書面については,全て適式に調えられており,所要の記名押印がされているものとする。
2 串アゲ中田株式会社においては,別紙1から別紙4までに現れている場合を除き,定款に法令の規定と異なる別段の定めはないものとする。
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別紙1       登記事項証明書抜粋(平成30年7月1日付)
商号 串アゲ中田株式会社
本店 東京都千代田区外神田一丁目2番3号
公告をする方法(略)
発行可能株式総数 4000株
発行済株式の総数 1000株
資本金の額 金5000万円
株式の譲渡制限に関する規定 当会社の株式を譲渡により取得するには,取締役会の承認を受けなければならない。
役員に関する事項(略)
取締役会設置会社
監査役設置会社
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別紙2           臨時株主総会議事録(抜粋)
平成30年6月10日付の午前10時から午前11時までの間において,当該株主総会において議決権を行使することができる株主全員出席の下,臨時株主総会を開催した。
議案 募集株式の発行に係る募集事項の決定に関する件
 議長は,下記の要領で募集株式の発行に係る募集事項の決定をしたい旨を述べ,その可否を議場に諮ったところ,満場一致をもってこれを承認可決した。

 1 募集株式の数 2500株
 2 割当方法 第三者割当てとする。
 3 募集株式の払込金額 募集株式1株につき金8万円とする。
 4 募集株式と引換えにする金銭の払込みの期日 平成30年6月24日
 5 増加する資本金及び資本準備金の額に関する事項
  増加する資本金の額は,資本金等増加限度額の2分の1相当額(1円未満の端数切上げ)として,増加する資本準備金の額は資本金等増加限度額から資本金の額を減じて得た額とする。
  6 払込取扱金融機関 株式会社きぼう銀行神田支店
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別紙3           取締役会議事録(抜粋)
平成30年6月23日付の午前11時から午前11時15分までの間において,取締役及び監査役全員出席の下,取締役会を開催した。
議案 募集株式の割当てに関する件
議長は,平成30年6月10日開催の臨時株主総会で決議された募集株式の発行に係る募集株式をその申込者に対し,次のとおり割り当てる募集株式の数を決定したい旨を述べ,その可否を諮ったところ,出席取締役全員の一致をもってこれを承認可決した。

 X 1000株,Y 1000株,Z 500株
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別紙4       司法書士の聴取記録(平成30年7月1日付)
1 平成30年6月10日開催の臨時株主総会で募集事項として決定された払込金額は,募集株式を引き受ける者に特に有利な金額には当たらない。
2 平成30年6月10日,当社は,募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し,募集事項その他の会社法上必要な事項を通知したところ,平成30年6月19日までに,次のとおり募集株式の引受けの申込みがあった。
 X 1000株,Y 1000株,Z 1000株 
3 平成30年6月23日,同日開催の取締役会の決議を基に,当社は,募集株式の申込者に対し,割り当てる募集株式の数を通知した。
4 平成30年6月24日,株式会社きぼう銀行神田支店において,X,Y及びZから,それぞれ募集株式の払込金額全額の払込みがあった。
5 当社は,自己株式を保有していない。
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<答案用紙>

【登記の事由】

【登記すべき事項】

【課税標準金額】

【登録免許税額】

【添付書面の名称及び通数】

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<解答例>

【登記の事由】
募集株式の発行
【登記すべき事項】
平成30年6月24日次のとおり変更
発行済株式の総数 3500株
資本金の額 金1億5000万円
【課税標準金額】
金1億円
【登録免許税額】
金70万円
【添付書面の名称及び通数】
株主総会議事録 1通
株主リスト 1通
取締役会議事録 1通
募集株式の引受けの申込みがあったことを証する書面 3通
払込みがあったことを証する書面 1通
資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されてことを証する書面 1通
委任状 1通
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<解説>

1 募集株式の発行等の意義
株式会社が,株式を利用して行う資金調達には,「株式の新規発行」と「自己株式の処分」があります。「株式の新規発行」では,株式会社が発行する新たな株式を引き受ける者に対価を払わせることにより,資金を得る方法です。また,「自己株式の処分」とは,株式会社が保有する自己の株式を購入する者に対価を払わせることにより,資金を得る方法です。会社法では,これらを併せて,「募集株式の発行等」と定義し,同一の条文で統一的に規定し,同じ手続として整理しています(会§199Ⅰ参照)。後者は,株主が異動するだけであり,登記事項に変更は生じませんが,前者は,原則として,発行済株式の総数と資本金の額が増加するため,変更の登記を申請しなければなりません。

2 募集株式の発行(株式の新規発行)(非公開会社が株主割当て以外の方法による場合)
⑴ 募集事項の決定
公開会社でない株式会社が募集株式の発行をしようとするときは,その都度,株主総会の決議により,募集株式について,①募集株式の数(会§199Ⅰ①),②募集株式の払込金額(募集株式1株と引換えに払い込む金銭または給付する金銭以外の財産の額)またはその算定方法(会§199Ⅰ②),③募集株式と引換えにする金銭の払込みまたは現物出資財産の給付の期日またはその期間(会§199Ⅰ④),④株式を発行するときは,増加する資本金および資本準備金に関する事項(会§199Ⅰ⑤)等の事項(募集事項)を定めなければなりません(会§199ⅡⅠ)。この決議は,株主総会の決議は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行わなければなりません(特別決議,会§309Ⅱ⑤)。
※1 募集株式の発行により増加する資本金の額
募集株式の発行により増加する資本金の額は,法令に別段の定めがある場合を除き,株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込みまたは給付をした財産の額です(資本金等増加限度額,計算規§13Ⅰ,会§445Ⅰ)。ただし,この払込みまたは給付に係る額の2分の1を超えない額は,資本金として計上しないことができます(会§445Ⅱ)。
※2 株主に対する募集事項の通知または公告(会§201ⅢⅣⅤ)
公開会社でない株式会社が株主割当て以外の方法により募集株式の発行をする場合には,株主に対する募集事項の通知または公告(会§201ⅢⅣⅤ)は不要であり,募集事項の決定をした株主総会の日と募集株式の払込みの期日との間に2週間の期間が置かれている必要はありません。
② 募集株式の申込み
株式会社は,原則として,募集に応じて募集株式の引受けの申込みをしようとする者(以下,「株式申込人」という。)に対し,募集事項,払込みの取扱いの場所,その他法令で定める事項等を通知しなければなりません(会§203Ⅰ,199Ⅰ,会施規§41)。また,株式申込人は,引き受けようとする募集株式の数等を記載した書面を株式会社に交付しなければなりません(会§203Ⅱ,199Ⅰ)。
③ 募集株式の割当て
株式会社は,株式申込人の中から募集株式の割当てを受ける者を定め,かつ,その者に割り当てる募集株式の数を定めなければなりません(募集株式の割当て,会§204Ⅰ前段)。この決定は,募集株式が譲渡制限株式である場合には,定款に別段の定めがある場合を除き,株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては,取締役会の決議)によらなければなりません(同Ⅲ,309Ⅲ⑤)。株式会社は,当該申込人に割り当てる募集株式の数を,申込人が引き受けようとする募集株式の数(会§203Ⅱ②)よりも減少することができ,また,申込人に全く割り当てないこともできます(割当て自由の原則,会§204Ⅰ後段参照)。
そして,株式会社は,募集株式と引換えにする金銭の払込みの期日の前日までに,申込人に対し,当該申込人に割り当てる募集株式の数を通知しなければなりません(会§204Ⅲ,199Ⅰ)。
④ 募集株式の引受け
申込人は,株式会社が割り当てた募集株式の数について募集株式の引受人となります(会§206①)。
⑤ 出資の履行
金銭を出資の日的とする募集株式の引受人は,募集株式と引換えにする金銭の払込みの期日までに,株式会社が定めた銀行等(会§34Ⅱ,会施規§7)の払込みの取扱いの場所において,それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければなりません(会§208Ⅰ,199Ⅰ④)。
⑥ 効力の発生
募集株式の引受人は,募集事項として,募集株式と引換えにする金銭の払込みの期日(払込みの期日)を定めた場合には当該期日に,出資の履行をした募集株式の株主となります(会§209,199Ⅰ④)。

3 本問における展開
串アゲ中田株式会社は,公開会社でない株式会社です(別紙1参照)。そして,平成30年6月10日開催の臨時株主総会において,募集株式の発行に係る募集事項について決議しています(別紙2)。この決議は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主(議決権を行使することができる株主全員)が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数(満場一致)をもって行われており,有効に成立しています(同別紙)。また,平成30年6月19日までに,X,YおよびZからそれぞれ1000株ずつ募集株式の引受けの申込みがありました(別紙4の2)。募集株式が譲渡制限株式であるので(別紙1),串アゲ中田株式会社は,平成30年6月23日,取締役会を開催し,取締役及び監査役全員出席の下,出席取締役の全員一致で,募集株式の申込者に対し,割り当てる募集株式の数(X1000株,Y1000株およびZ500株)を決定し,同日これを通知しました(別紙4の3)。そして,払込みの期日である平成30年6月24日,X,Y及びZから,それぞれ募集株式の払込金額全額の払込みがありました(別紙4の4)。なお,串アゲ中田株式会社は,自己株式を保有していません(別紙4の5)。以上により,株式の申込人に割り当てた全ての株式について,平成30年6月24日付で募集株式の発行の効力が生じるので,同日付で募集株式の発行による変更の登記を申請します。この募集株式の発行に際して払い込まれた金銭の額,すなわち資本金等増加限度額は,金8万円×2500株の金2億円であり,増加する資本金の額は,その2分の1相当額である金1億円となります(別紙2参照)。

4 登記申請書の作成
⑴ 登記の事由
 「募集株式の発行」と記載します。
⑵ 登記すべき事項
 募集株式の発行後の発行済株式の総数と資本金の額,これらに変更が生じた旨およびその年月日を記載します。
⑶ 課税標準金額
 募集株式の発行により増加した資本金の額(本問では,金1億円)を記載します。
⑷ 登録免許税額
 募集株式の発行による変更登記の登録免許税は,課税標準の金額である増加した資本金の額に1000分の7を乗じた額です(登税別表第1.24(1)ニ)。本問では,金1億円×7/1000=金70万円です。
⑸ 添付書面の名称および通数
① 株主総会議事録(商登§46Ⅱ) 1通
募集株式の発行に係る募集事項の決定決議が有効になされたことを証するため,平成30年6月10日付の定時株主総会の議事録(別紙2)を添付します。
② 株主リスト(商登規§61Ⅲ) 1通
株主リストは,原則として株主総会の決議を要する登記事項,すなわち,議案ごとに作成する必要がありますが,決議ごとに添付を要する株主リストに記載すべき内容が一致するときは,その旨の注記がされた株主リスト1通を添付すれば足ります(先例平28.6.23-98)。
③ 取締役会議事録(商登§46Ⅱ) 2通
募集株式の割当て決議が有効になされたことを証するため,平成30年6月10日付の取締役会議事録(別紙3)を添付します。
④ 募集株式の引受けの申込みを証する書面(商登§56①) 3通
募集株式の引受人(X,YおよびZ)から募集株式の引受けの申込みがあったことを証するため,添付します(別紙4の3)。
⑤ 払込みがあったことを証する書面(商登§56②) 1通
募集株式の発行について,払込みがあったことを証するため(別紙4の4),会社代表者の作成に係る払込取扱機関に払い込まれた金額を証明する書面に払込取扱機関における口座の預金通帳の写し等を合綴したもの等を添付します(先例平18.3.31-782)。
⑥ 資本金の額が会社法および会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面(商登規§61Ⅴ) 1通
平成30年6月25日付けの募集株式の発行により増加する資本金の額が会社法445条1項および会社計算規則14条の規定に従って計上されたことを証するため,具体的には,代表取締役の作成に係る証明書等がこれに該当します(先例平18.3.31-782参照)。
⑦ 委任状(商登§18) 1通
串アゲ中田株式会社の代表取締役から司法書士への委任状を添付します。