【司法書士】
記述式の学習~その17~
商業登記(新株予約権の行使)



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


若葉の新芽も目に鮮やかな季節になりました。いよいよ本試験まで2か月を切りました。最後の追込みの時期です。繰り返しになりますが,ことここに至っては,今までの学習内容の復習やご自分の弱点の克服などに注力し,決して新しいテキストなどを買って勉強しないようにしましょう。今さら新しい知識を増やさず,今までに習得した知識や理解を確実なものにしてくださいね。「10のあやふやな知識より,1の確かな知識の習得」が合格への近道です。
さて,今回も,商業登記の記述式を学習します。第3弾として,新株予約権の行使の登記を学習していきます。

<問題>

司法書士法務律子は,平成29年7月1日に事務所を訪れた吉田家株式会社の代表取締役から,別紙1の書類のほか必要書類の交付を受け,別紙2のとおり事情を聴取した。司法書士法務律子は,登記すべき事項や登記のための要件を説明したところ,吉田家株式会社の代表取締役はこれを了解し,必要な登記申請書の作成及び登記申請の代理を依頼した。司法書士法務律子は,この依頼に基づき,依頼を受けた日に,管轄登記所に登記を申請した。司法書士法務律子が,作成すべき登記申請書のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(答案作成上のその他の注意事項)
1 登記申請書の添付書面については,全て適式に調えられており,所要の記名押印がされているものとする。
2 吉田家株式会社においては,別紙1及び別紙2に現れている場合を除き,定款に法令の規定と異なる別段の定めはないものとする。
3 会社法の規定に基づき,毎月末日現在により当該末日から2週間以内に申請すれば足りるとされている登記については,毎月末日現在をもって申請するものとする。
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別紙1       登記事項証明書抜粋(平成29年7月1日付)
商号 吉田家株式会社
本店 東京都新宿区高田馬場一丁目2番3号
公告をする方法(略)
発行可能株式総数 6400株
発行済株式の総数 1600株
資本金の額 金8000万円
株式の譲渡制限に関する規定 当会社の株式を譲渡により取得するには,取締役会の承認を受けなければならない。
役員に関する事項(略)
新株予約権に関する事項
吉田家株式会社第1回新株予約権
 新株予約権の数 200個
 新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法 普通株式 400株
募集新株予約権の払込金額若しくはその算定方法又は払込を要しないとする旨 無償
 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法 金5万円
 新株予約権を行使することができる期間 平成29年10月1日から平成33年9月30日まで
取締役会設置会社
監査役設置会社
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別紙2 司法書士の聴取記録(平成29年7月1日付)
1 平成28年6月25日開催の定時株主総会の決議に基づいて発行された吉田家株式会社第1回新株予約権について,その行使により株式を発行する場合における増加する資本金の額を資本金等増加限度額の2分の1(1円未満の端数は切上げ)とする旨が同定時株主総会で決定されている。なお,吉田家株式会社第1回新株予約権は社債に付されたものではない。
2 新株予約権者Xより,平成29年6月12日付で,吉田家株式会社第1回新株予約権80個の新株予約権の行使がされ,同日,払込取扱機関に対し所定の払込みがされている。また,新株予約権者Yより,平成29年6月25日付で,吉田家株式会社第1回新株予約権10個の新株予約権の行使がされ,同日,払込取扱機関に対し所定の払込みがされている。
3 当社は,行使された新株予約権につき,所定の数の株式をそれぞれ発行している。新株予約権の行使時における当該新株予約権1個当たりの帳簿価額は金5万円である。

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<答案用紙>

【登記の事由】

【登記すべき事項】

【課税標準金額】

【登録免許税額】

【添付書面の名称及び通数】

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<解答例>

【登記の事由】
新株予約権の行使
【登記すべき事項】
平成29年6月30日次のとおり変更
発行済株式の総数 1780株
資本金の額 金8450万円
吉田家株式会社第1回新株予約権
 新株予約権の数 110個
 新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法 普通株式 220株
【課税標準金額】
金450万円
【登録免許税額】
金3万1500円
【添付書面の名称及び通数】
株主総会議事録 1通
新株予約権の行使があったことを証する書面 2通
払込みがあったことを証する書面 1通
資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面 1通
委任状 1通

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<解説>

1 新株予約権の意義
新株予約権とは,株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます(会§2㉑)。そして,株式会社が新株予約権を発行するときは,一定の事項を当該新株予約権の内容としなければなりません(会§236Ⅰ①~⑪)。

2 新株予約権の行使の手続
① 新株予約権の行使
 新株予約権を有する者は,新株予約権を行使することができる期間内であれば,いつでも(ただし,新株予約権の行使の条件を定めている場合には,その条件が成就した場合に限る。),その行使に係る新株予約権の内容および数,新株予約権を行使する日を明らかにして,新株予約権を行使することができます(会§280Ⅰ)。
② 新株予約権の行使に伴う金銭の払込み
金銭を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは,新株予約権者は,新株予約権を行使する日(会§280Ⅰ②)に,株式会社が定めた銀行等(会§34Ⅱ,会施規§7)の払込みの取扱いの場所において,当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額(会§236Ⅰ②)の全額を払い込まなければなりません(会§281Ⅰ)。
③ 自己株式を交付しない場合における新株予約権の行使に伴う資本金の額の増加
株式会社が新株予約権を発行するときは,あらかじめ,当該新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金および資本準備金に関する事項を新株予約権の内容として定めておかなければなりません(会§236Ⅰ⑤)。
新株予約権の行使に際して株式を発行し,自己株式を交付しない場合には,株主となる者が当該株式会社に対して払込みまたは給付をした財産の額について資本金の額が増加しますが(会§445Ⅰ),当該払込みまたは給付をした財産の額の2分の1を超えない額は,新株予約権の内容に従い,資本金として計上しないことができます(同Ⅱ)。
ここでいう「株主となる者が当該株式会社に対して払込みまたは給付をした財産の額」(資本金等増加限度額)とは,行使時における当該新株予約権の帳簿価額と新株予約権の行使に際して払込みを受けた金銭の金額または給付を受けた金銭以外の財産の価額等の合計額です(計算規§17Ⅰ)。新株予約権の帳簿価額とは,当該新株予約権と引換えにされた金銭の払込みの金額等に基づき適切に算出された価額であり(計算規§55Ⅰ),募集新株予約権の払込金額と常に一致するものではありません。
例えば,新株予約権の行使時における当該新株予約権の帳簿価額が金5万円であり,新株予約権の行使に際して払込みを受けた金銭の金額が金5万円である場合,新株予約権1個が行使された場合の資本金増加限度額は,これらの合計額である金10万円となります。
④ 新株予約権の行使の効力発生とその変更の登記手続
新株予約権を行使した新株予約権者は,当該新株予約権を行使した日に,当該新株予約権の目的である株式の株主となります(会§282Ⅰ)。そして,新株予約権の行使がなされると,行使された新株予約権は消滅し,新株予約権の数,新株予約権の目的である株式の数に変更(減少)が生じるほか,株式を発行したときは発行済株式の総数および資本金の額に変更(増加)が生じますので,それらの変更の登記を申請しなければなりません(会§911Ⅲ⑤⑨⑫イロ,236Ⅰ①,915Ⅰ)。
3 本問における展開
吉田家株式会社は,吉田家株式会社第1回新株予約権を発行しています(別紙1)。そして,新株予約権者Xより,平成29年6月12日付で,吉田家株式会社第1回新株予約権80個の新株予約権の行使がされ,同日,払込取扱機関に対し所定の払込みがされています(別紙2の2)。また,新株予約権者Yより,平成29年6月25日付で,吉田家株式会社第1回新株予約権10個の新株予約権の行使がされ,同日,払込取扱機関に対し所定の払込みがされています。(別紙2の2)。
そして,吉田家株式会社は,行使された新株予約権につき,所定の数の普通株式を発行しています(別紙2の3)。吉田家株式会社第1回新株予約権については,特に行使の条件は定められていません(別紙1参照)。また,新株予約権の行使は行使可能な新株予約権の行使期間内になされています(別紙1,2の2)。したがって,新株予約権の行使の効力は,平成29年6月12日付,平成29年6月25日付をもってそれぞれ生じますが,本問においては,平成29年6月30日に,新株予約権の行使による変更の登記を申請しなければなりません(答案作成上のその他の注意事項3)。
本問においては,新株予約権1個の目的となる株式の数は,普通株式2株であるので(別紙1),新株予約権90個(=80個+10個)が行使され,普通株式180株(=2株×90個)が発行された結果,新株予約権の数は110個(=200個-90個)となり,新株予約権の目的たる株式の種類および数は普通株式220株(=400株-180株)となります。そして,普通株式が180株(=2株×90個)増加することから,増加後の発行済株式の総数は1780株(=1600株+180株)となります。
また,新株予約権の行使に際して払込みをすべき金額は,金5万円と定められていますので(別紙1),この額に行使された新株予約権の数を乗じた額として,金5万円×90個=金450万円となります。そして,当該行使時における新株予約権1個当たりの帳簿価額は金5万円ですので(別紙2の3),新株予約権180個当たりの帳簿価額は金5万円×90個=金450万円となり,資本金等増加限度額は,これらを合計した額金900万円(=金450万円+金450万円)となります。
なお,吉田家株式会社第1回新株予約権の発行時の平成28年6月25日開催の定時株主総会の決議においては,新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金の額を資本金等増加限度額の2分の1(1円未満の端数は切上げ)とする旨を決定していますので(別紙2の3),増加する資本金の額は金900万円×1/2=金450万円となり,新株予約権の行使後の資本金の額は金8000万円+金450万円=金8450万円となります。
4 登記申請書の作成
⑴ 登記の事由
 「新株予約権の行使」と記載します。
⑵ 登記すべき事項
 変更が生じた新株予約権をその名称(本問では「吉田家株式会社第1回新株予約権」)で特定し,新株予約権行使後の発行済株式の総数と資本金の額,新株予約権の数,新株予約権の目的である株式の数に変更が生じた旨およびその年月日を記載します。
⑶ 課税標準金額
 新株予約権の行使により増加した資本金の額(本問では,金450万円)を記載します。
⑷ 登録免許税額
 新株予約権の行使による変更登記の登録免許税は,課税標準の金額である増加した資本金の額に1000分の7を乗じた額です(登税別表第1.24(1)ニ)。本問では,金450万円×7/1000=金3万1500円です。
⑸ 添付書面の名称および通数
① 株主総会議事録(商登§46Ⅱ,先例平18.3.31-782) 1通
新株予約権の募集事項等の決定に際し,新株予約権が行使された場合に資本金等増加限度額中資本金として計上しない額を定めているときは,当該内容を決定したことを証する書面を申請書に添付しなければなりません。本問では,平成28年6月25日付の定時株主総会の議事録を添付します(別紙2の1)。
② 新株予約権の行使があったことを証する書面(商登§57①) 2通
吉田家株式会社第1回新株予約権について,新株予約権者Xおよび同Yから,それぞれ新株予約権の行使があったことを証するために添付します(別紙2の2)。具体的には,新株予約権者から提出された新株予約権行使請求書,または,払込取扱機関が新株予約権行使請求の事務を取り扱う場合には,当該払込取扱機関が発行する行使請求取扱証明書(先例平14.8.13-1921)を添付します。なお,後者を添付した場合,添付通数は1通となります。
③ 払込みがあったことを証する書面(商登§57②) 1通
吉田家株式会社第1回新株予約権の行使により,払込取扱場所において,当該新株予約権の行使に際して払い込むべき額が払い込まれたことを証するために添付します(別紙2の2)。具体的には,払込取扱金融機関の作成に係る払込金受入証明書,または,代表取締役が作成した払込みの事実を証する書面に預金通帳の写し等(新株予約権の行使に際して出資すべき金銭の全額に相当する金額が口座に入金されたことを確認することができるもの)を合綴したものが該当します(登記情報526P32,先例平18.3.31-782)。なお,新株予約権の行使が1か月の間に複数回なされた場合においても,1通の書面で複数回の払込みがあったことを証することは可能であり,新株予約権の行使による変更の登記の添付書面として,払込みごとに払込みがあったことを証する書面を作成する必要はありません。
④ 資本金の額が会社法および会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面(商登規§61Ⅸ) 1通
新株予約権の行使により増加する資本金の額が,会社法445条1項および会社計算規則17条の規定に従って計上されたことを証するために添付します。具体的には,代表取締役の作成に係る証明書(会社計算規則17条1項各号の額を示す等の方法により,資本金の額が会社法および会社計算規則に従って計上されたことを確認することができるもの)等がこれに該当します(先例平18.3.31-782参照)。なお,1か月の間に複数回の新株予約権の行使があった場合でも,1か月分をまとめて月末付けで申請する限り,資本金の額が会社法および会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面は1通で足りる。
⑤ 委任状(商登§18) 1通
代表取締役から司法書士への委任状を添付する。
※ 株主リスト(商登規§61Ⅲ)の添付の要否
登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合には,申請書に,株主の氏名又は名称及び住所,当該株主のそれぞれが有する株式の数及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面(いわゆる「株主リスト」)を添付しなければなりません(商登規§61Ⅲ)。株主リストは,このように登記すべき事項が当該株主総会の決議によって直接生じた場合に添付を要するのであって,株主総会で新株予約権が行使されたときに資本金等増加限度額中資本金として計上しない額を定めているに過ぎない場合はその添付を要しないと考えられます。
本問では,平成28年6月25日付の定時株主総会では,新株予約権が行使された場合に資本金等増加限度額中資本金として計上しない額を定めているに過ぎず,直接登記すべき事項を決議しているわけではありませんので,新株予約権の行使による変更登記の申請書には,当該株主総会議事録に係る株主リストを添付する必要はないものと考えられます。