【司法書士】
記述式の学習~その18~
商業登記(変更の登記)



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


夏日になる日もあれば,4月頃の気温にしかならない日もあるなど,安定しない天候が続いていますが,体調を崩されていませんか。試験当日体調が悪く,日頃の実力が出し切れなかったということがないように,体調管理には万全を尽くしましょう。体調管理も合格するための重要な要素です。
さて,今回は,商業登記の記述式を学習します。第4弾として,変更の登記,特に,受験生の方が苦手あるいは正確に書けない変更の登記を学習していきます。このような登記は,定型句として,ただひたすら正確に暗記するしかありません。もっとも,論点自体は難解なものではありませんので,一度暗記してしまえば,怖いものなし,貴重な得点源になること疑いなしです。
<問題>
司法書士法務律子は,平成29年7月1日に事務所を訪れた株式会社富士テクノの代表取締役から,別紙1及び別紙2の書類のほか必要書類の交付を受け,別紙3のとおり事情を聴取した。司法書士法務律子は,登記すべき事項や登記のための要件を説明したところ,株式会社富士テクノの代表取締役はこれを了解し,必要な登記申請書の作成及び登記申請の代理を依頼した。司法書士法務律子は,この依頼に基づき,依頼を受けた日に,管轄登記所に登記を申請した。司法書士法務律子が,作成すべき登記申請書のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(答案作成上のその他の注意事項)
1 登記申請書の添付書面については,全て適式に調えられており,所要の記名押印がされているものとする。
2 株式会社富士テクノにおいては,別紙1から別紙3までに現れている場合を除き,定款に法令の規定と異なる別段の定めはないものとする。
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別紙1 登記事項証明書抜粋(平成29年7月1日付)
商号 株式会社富士テクノ
本店 東京都中央区区銀座一丁目2番3号
公告をする方法 当会社の公告は,官報に掲載してする。
発行可能株式総数 8000株
発行済株式の総数 2000株
資本金の額 金1億円
株式の譲渡制限に関する規定 当会社の株式を譲渡により取得するには,取締役会の承認を受けなければならない。
役員に関する事項
 取 締 役 A 平成28年6月25日重任
取 締 役 B 平成28年6月25日重任
取 締 役 C 平成28年6月25日重任
取 締 役 D 平成28年6月25日重任
取 締 役 E 平成28年6月25日重任
東京都港区東麻布一丁目2番3号
代表取締役 A 平成28年6月25日重任
監 査 役 F 平成28年6月25日重任
取締役会設置会社
監査役設置会社
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別紙2 定時株主総会議事録(平成29年6月29日付,抜粋)
第1号議案 計算書類承認に関する件
(略)
第2号議案 定款一部変更に関する件
議長は,下記のとおり新たに定款第○条と第△条を設けるため,定款を一部変更したい旨を述べ,その可否を議場に諮ったところ,満場一致をもってこれを承認可決した。

(取締役の責任免除)
第○条 当会社は,会社法第426条の規定により,取締役会の決議をもって同法第423条の行為に関する取締役(取締役であった者を含む。)の責任を法令の限度内において免除することができる。
(責任限定契約)
第△条 当会社は,会社法第427条第1項の規定により,社外取締役との間に,同法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし,当該契約に基づく賠償責任の限度額は,法令の定める額とする。
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別紙3 司法書士の聴取記録(平成29年7月1日付)
1 当社の平成29年6月29日開催の定時株主総会は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主全員が出席して開催された。なお,株主の氏名または名称,住所,議決権数および議決権の割合は,全議案で全て同じである。
2 取締役Eは,社外取締役の要件を満たしている。そして,取締役Eと当社は,平成29年7月1日,責任限定契約を締結した。
3 平成29年7月1日,代表取締役Aは,定時株主総会の承認を得た貸借対照表等の公告に代えて,貸借対照表等に記載された事項を当社のウェブぺ-ジに掲げ,不特定多数の者がインターネットを利用してその情報の提供を受けることができる状態に置く措置を執ることを決定した。そのウェブページのURLは,http://www.fuji-tecno.co.jp/kessan/index.htmlである。なお,当社は,金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社ではない。
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<答案用紙>
【登記の事由】

【登記すべき事項】

【登録免許税額】

【添付書面の名称及び通数】

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<解答例>
【登記の事由】
貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の設定
取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定の設定
非業務執行取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定
【登記すべき事項】
平成29年7月1日次のとおり設定
貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項
http://www.fuji-tecno.co.jp/kessan/index.html
平成29年6月29日次のとおり設定
取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定
当会社は,会社法第426条の規定により,取締役会の決議をもって同法第423条の行為に関する取締役(取締役であった者を含む。)の責任を法令の限度内において免除することができる。
平成29年6月29日次のとおり設定
非業務執行取締役の会社に対する責任の制限に関する規定
当会社は,会社法第427条第1項の規定により,社外取締役との間に,同法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし,当該契約に基づく賠償責任の限度額は,法令の定める額とする。
【登録免許税額】
金3万円
【添付書面の名称及び通数】
株主総会議事録 1通
株主リスト 1通
委任状 1通
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<解説>
1 貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の設定
⑴ 貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の意義
 株式会社(有価証券報告書提出会社を除く,会§440Ⅳ)は,法務省令(会施規§116⑥,計算規§147)で定めるところにより,定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表(大会社にあっては,貸借対照表および損益計算書)を公告しなければなりません(会§440Ⅰ)。ただし,会社の公告方法が官報に掲載する方法または時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法である株式会社は,貸借対照表の要旨を公告すれば足り(同Ⅱ),また,法務省令(会施規§116⑥,計算規§175)で定めるところにより,定時株主総会の終結後遅滞なく,貸借対照表の内容である情報(要旨だけでなく全文)を,定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間,継続して電磁的方法(インターネットに接続された自動公衆送信装置を使用する方法)により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができます(会§440Ⅲ)。そして,株式会社がこの措置をとることを決定し,貸借対照表の内容である情報について不特定多数の者がその提供を受けるために必要な事項であって法務省令で定めるもの(具体的には,当該情報が掲載されているウェブページのURL)を定めた場合には,これを登記しなければなりません(会§911Ⅲ㉖,会施規§220Ⅰ①)。貸借対照表の電磁的開示の制度の採用およびそのURLの決定は,会社の代表者(代表取締役または代表執行役)による業務の決定として行われ,取締役会設置会社であっても,取締役会の決議を要しません。
なお,貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の設定は,公告をする方法の変更とは関係ありませんので,混同しないようにしましょう。
⑵ 本問における展開
 代表取締役Aは,平成29年7月1日,定時株主総会の承認を得た貸借対照表等の公告に代えて,貸借対照表等に記載された事項を会社のウェブページに掲げ,不特定多数の者がインターネットを利用してその情報の提供を受けることができる状態に置く措置を執ることおよびそのウェブペ-ジのURLを決定しています(別紙3の3)。したがって,同日付をもって,貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の設定の効力が生じますので,その登記を申請します。
⑶ 登記申請書の作成
① 登記の事由
 「貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の設定」と記載します。
② 登記すべき事項
貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項を設定する旨,その日付,ウェブペ-ジのURLを記載します(会§911Ⅲ㉖,会施規§220Ⅰ①,先例平14・3・29-724)。
③ 登録免許税
登記事項変更分として,申請件数1件につき3万円です(登税別表第1.24⑴ツ)。
④ 添付書面
 代表取締役から司法書士への委任状を添付します(商登§18)。なお,実務上,当該委任状には,ウェブペ-ジのURLを記載しなければなりません。 2 取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定の設定
⑴ 取締役等の会社に対する責任の免除等の方法
 取締役,会計参与,監査役,執行役又は会計監査人(以下,「役員等」という。)は,その任務を怠ったときは,株式会社に対し,これによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社に対する任務懈怠責任,会§423Ⅰ)。そして,この責任は,次の方法により,免除し,事後的に一部免除,あるいは,あらかじめこれを限定する旨の契約を締結しておくことができます。なお,ここで免除等をすることはできるので,あくまでも「会社に対する任務懈怠責任」に限られ,第三者に対する任務懈怠責任を免除等することはできません(だから,登記の事由で「~会社に対する責任~」となるのです)。
① 総株主の同意(会§424)
② 株主総会の特別決議による一部免除(会§425,309Ⅱ⑧)
③ 定款の定めに基づく取締役等による一部免除(会§426)
④ 定款の定めに基づき非業務執行取締役等と締結する責任限定契約(会§427)
 そして,上記③および④の定款の定めは登記すべき事項とされているため(会§911Ⅲ㉔㉕),株式会社が定款を変更して上記③および④の定款の定めを設定した場合には,その登記を申請しなければなりません。
⑵ 取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定の設定の手続
監査役設置会社(取締役が2人以上ある場合に限る。),監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社は,会社に対する任務懈怠責任(会§423Ⅰ)の責任について,当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において,責任の原因となった事実の内容,当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは,当該取締役等が賠償の責任を負う額から最低責任限度額(会§425Ⅰ)を控除して得た額を限度として,取締役(当該責任を負う取締役を除く。)の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては,取締役会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができます(取締役等の責任免除,会§426Ⅰ)。この定款の変更決議は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上に当たる多数をもって行わなければなりません(会§466,309Ⅱ⑪)。
取締役の員数が1人の株式会社,監査役設置会社でない株式会社,監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めのある株式会社は,取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定を設定することはできません(登記情報545P44参照)。取締役等の責任の免除に関する規定を定めた場合には,株主総会の特別決議によらずに取締役等の責任の一部免除を行うことが可能となるので,当該規定を設定したことにより取締役による恣意的な責任一部免除が行われることを防止するためです(商事法務1745P25)。
⑵ 本問における展開
株式会社富士テクノは,平成29年6月29日開催の定時株主総会で取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定を設定する旨の定款の変更決議をしています(別紙2)。この決議は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主(株主全員)が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数(満場一致)によりなされており,有効に成立しています(別紙2,3の1)。また,株式会社富士テクノは,取締役が2人以上の会社であって,かつ,監査役設置会社です(別紙1)。したがって,平成29年6月29日付で取締役等の責任の免除に関する規定の設定の効力が生じますので,その登記を申請します。なお,取締役Eと株式会社富士テクノは,平成29年7月1日,責任限定契約を締結していますが(別紙3の2),この事実は登記事項とは何ら関係ありません。
⑶ 登記申請書の作成
① 登記の事由
 「取締役等の責任の免除に関する規定の設定」と記載します。
② 登記すべき事項
 取締役等の責任の免除に関する規定の内容,これを設定した旨およびその日付を記載します(会§911Ⅲ㉔)。
③ 登録免許税
 登記事項変更分として,申請件数1件につき3万円です(登税別表第1.24⑴ツ)。
④ 添付書面
ⅰ 株主総会議事録(商登§46Ⅱ)
 取締役等の責任の免除に関する規定を設ける旨の定款変更決議が有効になされたことを証するために,本問では,平成29年6月29日付の定時株主総会議事録(別紙2)を添付します。
ⅱ 株主リスト(商登規§61Ⅲ)
 登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合に該当するので,株主リストを添付します。
ⅲ 委任状(商登§18)
 代表取締役から司法書士への委任状を添付します。
3 非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定の変更
⑴ 非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限の方法
 2⑴を参照してください。
⑵ 非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定の設定の手続
 株式会社は,取締役(社外取締役などの非業務執行取締役であるものをいい,業務執行取締役等であるものを除く。),会計参与,監査役または会計監査人(以下,「非業務執行取締役等」という。)の株式会社に対する損害賠償責任(会§423Ⅰ)について,当該非業務執行取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは,定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と法定の最低責任限度額(会§425Ⅰ)とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができます(責任限定契約,会§427Ⅰ)。また,定款で具体的な額を定めず,常に法定の最低責任限度額を限度として責任を負うこととしても差し支えありません。この定款の変更決議は,株主総会の特別決議によらなければなりません(会§466,309Ⅱ⑪)。
⑶ 本問における展開
 株式会社富士テクノは,平成29年6月29日開催の定時株主総会で社外取締役の会社に対する責任の免除に関する規定を設定する旨の定款の変更決議をしています(別紙2)。この決議は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主(株主全員)が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数(満場一致)によりなされており,有効に成立しています(別紙2,3の1)。したがって,平成29年6月29日付で社外取締役の責任の免除に関する規定の設定の効力が生じますので,その登記を申請します。
⑷ 登記申請書の作成
① 登記の事由
 社外取締役その他会計参与,監査役または会計監査人の会社に対する責任の制限に関する規定を設定した場合でも,常に「非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定の設定」と記載します。
② 登記すべき事項
 非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定の内容,これを設定した旨およびその日付を記載します。
③ 登録免許税
 登記事項変更分として,申請件数1件につき3万円です(登税別表第1.24⑴ツ)。
④ 添付書面
ⅰ 株主総会議事録(商登§46Ⅱ)
 非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定を設ける旨の定款変更決議が有効になされたことを証するために,本問では,平成29年6月29日付の定時株主総会議事録(別紙2)を添付します。
ⅱ 株主リスト(商登規§61Ⅲ)
 登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合に該当するので,株主リストを添付します。
ⅲ 委任状(商登§18)
代表取締役から司法書士への委任状を添付します(商登§18)。
<補足>
1 「登録免許税」について
貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の設定,取締役等の会社に対する責任の免除に関する規定の設定および非業務執行取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定は,いずれも登記事項変更分として,申請件数1件につき3万円です。金9万円にはなりません。
2 「株主リスト」の通数について
株主リストは,原則として株主総会の決議を要する登記事項,すなわち,議案ごとに作成する必要がありますが,決議ごとに添付を要する株主リストに記載すべき内容(株主の氏名または名称,住所,議決権数および議決権の割合)が全議案で同じときは,その旨の注記がされた株主リスト1通を添付すれば足ります(先例平28・6・23-98)。