【司法書士】
記述式の学習~その19~
商業登記(設立の登記)



司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


梅雨になる前に夏が来たかのような天候が続いています。早くも熱中症が心配されています。こまめに水分を補給するとともに,エアコンを利用するなど,適温の中で学習を進めてください。
さて,今回は,商業登記の記述式を学習します。第5弾として,設立の登記を学習していきます。設立の登記そのものが本試験で出題される可能性は少ないかもしれませんが,特例有限会社から株式会社への商号変更による設立登記や他の登記所の管轄内への本店移転の新本店所在地における登記など,設立の登記事項(会§911Ⅲ)が過去の本試験で問われています。本試験前に1度くらいは学習し,マスターしておきたい論点です。

<問題>
司法書士法務律子は,平成29年7月1日に事務所を訪れた設立中の会社である東京工具株式会社の設立時代表取締役から,別紙1の書類のほか必要書類の交付を受け,別紙2のとおり事情を聴取した。司法書士法務律子は,登記すべき事項や登記のための要件を説明したところ,東京工具株式会社の設立時代表取締役はこれを了解し,必要な登記申請書の作成及び登記申請の代理を依頼した。司法書士法務律子は,この依頼に基づき,依頼を受けた日に,管轄登記所に登記を申請した。司法書士法務律子が,作成すべき登記申請書のうち,答案用紙で指定された事項につきそれぞれ記載しなさい。
(答案作成上のその他の注意事項)
1 登記申請書の添付書面については,全て適式に調えられており,所要の記名押印がされているものとする。なお,就任承諾書には,被選任者又は被選定者が市区町村に登録した印鑑を押印している。
2 東京工具株式会社においては,別紙1及び別紙2に現れている場合を除き,定款に法令の規定と異なる別段の定めはないものとする。
3 (中略)と記載されているところも適法に記載されており,登記すべき事項は記載されていないものとする。
4 東京都中央区を管轄する登記所は,東京法務局である。 ****************************************
別紙1 認証された定款(抜粋)
(商 号)
第1条 当会社は,東京工具株式会社と称する。
(目 的)
第2条 当会社は,次の事業を営むことを目的とする。
1.建設機械工具の製造及び販売
2.建築用仮設資材のレンタル及びリース
3.前各号に附帯する一切の事業
(本店の所在地)
第3条 当会社は,本店を東京都中央区に置く。
(機関構成)
第4条 当会社は,取締役会及び監査役を置く。
(中略)
(発行可能株式総数)
第6条 当会社の発行可能株式総数は,800株とする。
(株券の不発行)
第7条 当会社の株式については,株券を発行しない。
(株式の譲渡制限)
第8条 当会社の株式を譲渡により取得するには,取締役会の承認を要する。
(中略)
(設立に際して出資される財産の最低額)
第39条 当会社の設立に際して出資される財産の最低額は,金1000万円とする。
(発起人の氏名及び住所)
(中略)
第41条 当会社の発起人の氏名及び住所は,次のとおりである。
東京都千代田区神田錦町一丁目1番地
  発起人 A
 東京都中央区築地二丁目2番2号
  発起人 B
 東京都港区三田三丁目3番3号
  発起人 C
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別紙2 司法書士の聴取記録(平成29年7月1日付)
1 平成29年6月5日,東京工具株式会社の発起人全員は,別紙1の定款を作成し,東京法務局所属の公証人の認証を受けた。
2 平成29年6月10日,発起人全員の同意により次の事項を決定した。
⑴ 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数,これと引換えに払い込む金銭の額及び払込みの取扱いの場所に関する事項
東京都千代田区神田錦町一丁目1番地
   発起人 A
割当てを受ける設立時発行株式の数 100株(払い込むべき金銭の額 金500万円)
  東京都中央区築地二丁目2番2号
   発起人 B
割当てを受ける設立時発行株式の数 50株(払い込むべき金銭の額 金250万円)
  東京都港区三田三丁目3番3号
   発起人 C
割当てを受ける設立時発行株式の数 50株(払い込むべき金銭の額 金250万円)
  発起人Aを名義人とする株式会社いなほ銀行銀座支店の普通預金口座(口座番号1234567)とする。
⑵ 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項
資本金の額は,割当てを受ける設立時発行株式と引換えに払い込まれた金銭の額とし,その残額を資本準備金とする。
3 平成29年6月21日,払込みの取扱い場所として定められた発起人Aを名義人とする株式会社いなほ銀行銀座支店の普通預金口座(口座番号1234567)に,各発起人から,それぞれ割当てを受ける設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額の全額が払い込まれ,当該口座の預金通帳には,この払込みの事実が記載されている。
4 平成29年6月21日,発起人全員の同意により次の事項を決定した。
⑴ 設立時取締役及び設立時監査役は次の者とする
  設立時取締役A,同B,同C,設立時監査役D
⑵ 本店の所在場所に関する事項
当会社の本店の所在場所は,東京都中央区銀座一丁目2番3号とする。
5 平成29年6月22日,設立時取締役として選任されたA,B及びC,設立時監査役として選任されたDは,それぞれその就任を承諾する旨の就任承諾書を提出した。
6 平成29年6月22日,設立時取締役全員の全員の一致によりAを設立時代表取締役に選定した。
7 平成29年6月22日,設立時代表取締役として選定されたAは,その就任を承諾する旨の就任承諾書を提出した。
8 平成29年6月30日,設立時取締役及び設立時監査役の全員は,設立に関して会社法所定の事項の調査を終了し,調査報告書及びその附属書類を当社に提出した。
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<答案用紙>
【登記の事由】

【登記すべき事項】

【課税標準金額】

【登録免許税額】

【添付書面の名称及び通数】

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<解答例>
【登記の事由】
平成29年6月30日発起設立の手続終了
【登記すべき事項】
商号 東京工具株式会社
本店 東京都中央区銀座一丁目2番3号
公告をする方法 官報に掲載してする
目的 1.建設機械工具の製造及び販売
2.建築用仮設資材のレンタル及びリース
3.前各号に附帯する一切の事業
発行可能株式総数 800株
発行済株式の総数 200株
資本金の額 金1000万円
株式の譲渡制限に関する規定
 当会社の株式を譲渡により取得するには,取締役会の承認を要する。
取締役A 取締役B 取締役C
東京都千代田区神田錦町一丁目1番地
代表取締役A
監査役D
取締役会設置会社
監査役設置会社
登記記録に関する事項 設立
【課税標準金額】
金1000万円
【登録免許税額】
金15万円
【添付書面の名称及び通数】
定款 1通
発起人全員の同意書 1通
設立時取締役及び設立時監査役の選任並びに本店所在場所決定書 1通
払込みがあったことを証する書面 1通
設立時代表取締役を選定したことを証する書面 1通
設立時取締役の就任承諾書 3通
設立時代表取締役の就任承諾書 1通
設立時監査役の就任承諾書 1通
印鑑証明書 1通
本人確認証明書 3通
委任状 1通
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<解説>
1 発起設立の手続
⑴ 発起人による定款の作成
 株式会社を設立するには,発起人は,定款を作成しなければなりません(会§26Ⅰ)。そして,作成した定款は,設立しようとする会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局所属の公証人の認証を受けなければ,定款としての効力を生じません(会§30Ⅰ,公証§62ノ2)。
⑵ 発起人による株式の引受け
各発起人は,株式会社の設立に際し,設立時発行株式を1株以上引き受けなければならず(会§25Ⅱ),発起設立の場合においては,発起人は,設立時発行株式の全部を引き受けなければなりません(会§25Ⅰ①)。
⑶ 発起人による設立時発行株式に関する事項の決定
 設立時発行株式に関する事項のうち,①発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数,②発起人が割当てを受ける設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額,または③成立後の株式会社の資本金および資本準備金の額に関する事項(定款に定めがある事項を除く)を定めようとするときは,発起人全員の同意を得なければなりません(会§32Ⅰ)。
⑷ 出資の履行
 発起人は,設立時発行株式の引受け後遅滞なく,その引き受けた設立時発行株式につき,その出資に係る金銭の全額を払い込まなければなりません(会§34Ⅰ)。また,出資に係る金銭の払込みは,発起人が定めた銀行等(銀行,信託会社その他これに準ずるものとして法務省令(会施規§7)で定めるものをいう)の払込みの取扱いの場所においてしなければなりません(会§34Ⅱ)。
⑸ 設立時取締役および設立時監査役の選任
発起人は,出資の履行が完了した後遅滞なく,設立時取締役を選任しなければならず(会§38Ⅰ),設立しようとする株式会社が監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には,設立時監査役も選任しなければなりません(同Ⅲ②)。設立時取締役または設立時監査役の選任は,発起人の議決権の過半数をもって決定します(会§40Ⅰ)。なお,設立しようとする株式会社が取締役会設置会社である場合には,設立時取締役は,3人以上でなければならない(会§39Ⅰ)。
⑹ 設立時取締役等による調査
 設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査役設置会社である場合にあっては,設立時取締役および設立時監査役)は,その選任後遅滞なく,株式会社の設立の手続が法令または定款に違反していないことなど会社法所定の事項を調査しなければなりません(会§46Ⅰ)。
⑺ 取締役会設置会社における設立時代表取締役の選定
 設立時取締役は,設立しようとする株式会社が取締役会設置会社である場合には,設立時取締役の中から株式会社の設立に際して代表取締役(株式会社を代表する取締役をいう)となる者(設立時代表取締役)を,設立時取締役の過半数をもって選定しなければなりません(会§47ⅠⅢ)。
⑻ 設立の登記
発起設立の場合には,株式会社の設立の登記は,①設立時取締役等による調査の規定による調査(会§46Ⅰ)が終了した日または②発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内にしなければなりません(会§911Ⅰ)。そして,この登記により,株式会社は法人格を取得します(会§49)。
⑼ 本問における展開
 平成29年6月5日,東京工具株式会社の発起人全員は,定款を作成し,東京法務局所属の公証人の認証を受けています(別紙2の1)。また,平成29年6月10日,発起人全員の同意により,発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数,これと引換えに払い込む金銭の額及び成立後の株式会社の資本金の額に関する事項に関する事項を定めています(別紙2の2)。そして,平成29年6月21日,払込みの取扱い場所に,各発起人から,それぞれ割当てを受ける設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額の全額が払い込まれています(別紙2の3)。さらに,同日,発起人全員の同意により,設立時取締役,設立時監査役
及び本店の所在場所に関する事項を定めており(別紙2の4),平成29年6月22日,設立時取締役として選任されたA,B及びC,設立時監査役として選任されたDは,それぞれその就任を承諾しています(別紙2の5)。同日,設立時取締役は,その全員の一致によりAを設立時代表取締役に選定し(別紙2の6),Aは,その就任を承諾しています(別紙2の7)。続いて,平成29年6月30日,設立時取締役および設立時監査役の全員は,設立に関して会社法所定の事項の調査を終了しています(別紙2の8)。以上により,設立時取締役等による調査が終了した日である平成29年6月30日から2週間以内に発起設立の手続終了による設立登記の申請をしなければなりません。

2 登記申請書の作成
⑴ 登記の事由
「平成29年6月30日発起設立の手続終了」と記載します。この日付は,設立時取締役および設立時監査役による設立手続の調査が終了した日であり,登記期間算定のために記載します。
⑵ 登記すべき事項
設立の登記事項(会§911Ⅲ)をそれぞれ記載します。また,「登記記録に関する事項」として,「設立」と記載します。また,設立は登記が効力発生要件ですので,登記すべき事項として設立の日を記載することはできません。なお,定款で公告方法を定めない場合には,公告方法として官報に掲載する方法となりますので(会§939Ⅳ),その旨を登記すべき事項として記載します。
⑶ 課税標準金額
 資本金の額である金1000万円と記載します。
⑷ 登録免許税額
 資本金の額を課税標準として,これに1000分の7を乗じた金額です(登税別表第1.24⑴イ)。なお,この金額が金15万円に満たない場合には,申請件数1件につき金15万円となります(同括弧書)。本問の場合,資本金の額(金1000万円)に1000分の7を乗じた金額は金7万円となり,金15万円に満たないので,金15万円となります。
⑸ 添付書面
① 定款(商登§47Ⅱ①)
東京工具株式会社の本店所在地を管轄する東京法務局(答案作成上のその他の注意事項4)の所属公証人の認証を受けた定款(別紙1,2の1)を添付します。
② 発起人全員の同意書(商登§47Ⅲ)
発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数,これと引換えに払い込む金銭の額および成立後の株式会社の資本金の額等に関する事項を発起人の全員の同意をもって定めたことを証するため添付します(別紙2の2)。
③ 設立時取締役及び設立時監査役の選任並びに本店所在場所決定書(商登§47Ⅲ)
設立時取締役および設立時監査役を発起人の議決権の過半数で定めたことおよび本店所在場所を発起人の過半数の同意をもって定めたことを証するため添付します(別紙2の2)。
④ 払込みがあったことを証する書面(商登§47Ⅱ⑤)
 発起人が引き受けた設立時発行株式につき,その出資に係る金銭の全額の払込みがあったこと(別紙2の3)を証する書面を添付します。
⑤ 設立時代表取締役を選定したことを証する書面 (商登§47Ⅱ⑦)
 平成29年6月22日,設立時取締役全員の全員の一致によりAを設立時代表取締役に選定したこと(別紙2の6)を証するため添付します。
⑥ 設立時取締役の就任承諾書 (商登§47Ⅱ⑩)
⑦ 設立時代表取締役の就任承諾書 (商登§47Ⅱ⑩)
⑧ 設立時監査役の就任承諾書 (商登§47Ⅱ⑩)
設立時取締役および設立時監査役の被選任者はそれぞれの就任を承諾し,就任承諾書を提出していますので(別紙2の5),これらを添付します。また,設立時代表取締役の被選定者はその就任を承諾しており,同日付の就任承諾書を提出していますので(別紙2の7),これを添付します。
⑨ 印鑑証明書(商登規§61Ⅳ前段Ⅴ)
取締役会設置会社の設立 (合併および組織変更による設立を除く) の登記の申請書には,設立時代表取締役の就任承諾書(別紙2の7)の印鑑につき市町村長(特別区の区長を含むものとし,政令指定都市(地方自治法§252の19Ⅰ)にあっては,市長または区長若しくは総合区長とする。以下同じ)の作成した証明書を添付しなければなりません(答案作成上のその他の注意事項1)。
⑩ 本人確認証明書(商登規§61Ⅶ)
設立の登記の申請書には,設立時取締役,設立時監査役が就任を承諾したことを証する書面に記載した氏名および住所と同一の氏名および住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。本人確認証明書)を添付しなければなりません。ただし,登記の申請書に商業登記規則61条4項(5項において読み替えて適用される場合を含む。)または同条6項の規定により該当設立時取締役,設立時監査役の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付する場合は(商登規§61Ⅳ前段Ⅴ),本人確認証明書を添付することを要しません。本問では,その就任承諾書の印鑑につき証明書を添付する設立時代表取締役Aを除く者,すなわち,設立時取締役B,同Cおよび設立時監査役Dにつき,本人確認証明書を添付しなければなりません。
⑪ 委任状(商登§18) 
設立時代表取締役からの司法書士への委任状を添付します。
※ 設立時取締役および設立時監査役の調査報告書およびその附属書類(商登§47Ⅱ③イ)
の添付の要否
定款に変態設立事項の定めがない場合には,設立時取締役および設立時監査役の調査報告書およびその附属書類は添付書面とはなりません。
※ 資本金の額が会社法および会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面(商登規§61Ⅸ)の添付の要否
株式会社の設立の登記の出資に係る財産が金銭のみである場合には,当該登記の申請書には,資本金の額が会社法会および会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面の添付を要しません(先例平19.1.17-91)。