【司法書士】改正民法の概要


民法の一部を改正する法律案が,去る5月26日の参議院本会議で賛成多数で可決され成立し,6月2日に公布されました。この民法改正は,なんと約120年ぶりの改正であり,主として民法の債権関係を見直すものです。準備期間を考慮し,公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることとなっています。
今回は,民法の初歩的なところから,司法書士試験対策に至るまで,民法改正の概要についてご説明して参ります。

1 「民法」とは?

民法とは,私法の一般法です。私法とは,私人間の権利義務関係を規定する法律,つまり,私たちが普段生活する上での社会における基本的な取り決めのことをいいます。民法は,私法の中で,基本的で一般的な法律であり,私たちの社会・経済生活において最も身近な法律です。
民法は,①国籍・階級・職業・性別などにかかわらず,全ての人は等しく権利義務の帰属主体となることができる資格(これを「権利能力」といいます)を有するという原則(権利能力平等の原則),②所有権は,他人に対して,自己の所有するモノについての権利を主張することができる排他的な完全な支配権であるとする原則(所有権絶対の原則),③私人間の法律関係すなわち権利義務の関係を成立させることは,個人の自主的判断にまかせ, 国家がこれに干渉してはならないとする原則(私的自治の原則)をその原理としています。
また,私法には,一般法である民法の規定のうち,さらに特定の分野についての権利義務を定めた法律があり,これを「特別法」といいます。例えば,不動産登記法,会社法や借地借家法などの法律がこれにあたります。特別法は,一般法に優先して適用されます。

2 民法の構成

民法は,総則,物権,債権,親族および相続の5編から構成され,その条文数は1000条を超えます。物権,債権,親族および相続の前提として全編に共通する規定として総則が最初に規定されています。
物権では,物を所有する権利(所有権)に加え,物を利用する権利(地上権,地役権などの用益権)や物の交換価値を把握する権利(抵当権や根抵当権などの担保物権)についても定められています。
債権では,主として,権利義務が発生させるための契約(契約の不履行によって生じる権利義務を含む。)のほか,人から権利を侵害された場合に生じる権利義務(不法行為)や,契約・不法行為によらずに一定の行為をしたことによって生じる権利義務 (事務管理),法律上の原因がないにもかかわらず生じる権利義務 (不当利得)等が定められています。
親族では,婚姻や親子関係などが定められています。
また,相続では,相続人,相続分や遺言などが定められています。

3 民法改正の背景

民法は,1898年(明治31年)に定められてから抜本的な改正がなされてきませんでした(親族・相続を除く)。しかしながら,この間に,社会・経済をとりまく環境は大きく変化し,民法で定められている既存の規定が,次第に現代社会にそぐわないものとなってきています。また,民法は,専ら法律の専門家等の利用を想定して急造されたという制定の経緯から,一般国民にとってわかりにくい内容になっています。そこで,民法のうち,日常生活の中でも契約など,最も影響のある債権関係について,社会・経済の変化に対応させ,かつ,一般国民にとってわかりやすい内容とするため,抜本的な改正がなされました。なお,同様に,相続についての改正に関する議論も始まっています。

4 民法改正の対象

民法のうち債権関係の規定について,契約に関する規定を中心に改正が行われています。具体的には,債権の規定のほか,総則のうち法律行為,期間の計算および時効の規定が改正の対象であり,このうち事務管理,不当利得および不法行為の規定は,契約関係の規定の見直しに伴って必要となる範囲に限定して改正することとされています。

5 民法改正の骨子

今般の民法改正では,①消滅時効の期間の統一化等の時効に関する規定の整備,②法定利率を変動させる規定の新設,③保証人の保護を図るための保証債務に関する規定の整備,④定型約款に関する規定の新設等を行うと共に,⑤意思能力を有しなかった当事者がした法律行為は無効とすること,将来債権の譲渡が可能であること,賃貸借契約の終了時に賃借人は賃借物の原状回復義務を負うものの通常の使用収益によって生じた損耗等についてはその義務の範囲から除かれることなど,確立した判例法理等を明文化することがその骨子とされています。

6 民法改正の主な改正点

⑴ 消滅時効の期間の統一化等の時効に関する規定の整備

「消滅時効」とは,債権者が,たとえ何かを請求できる権利(例えば貸金債権)があったとしても,その請求を怠っていた場合には,一定期間の経過により,債務者の主張(これを「時効の援用」といいます)によって貸金債権自体を消滅させてしまうという制度です(「権利の上に眠る者を保護しない」という考え方から導かれた制度です)。
現行民法では,消滅時効を原則10年とし,特則として債権の内容ごとにこれより短い期間の消滅時効(これを「短期消滅時効」といいます)を設けています。「短期消滅時効」には,飲食店のツケ等(1年),美容院・理容院のカット代等(2年),診療代等(3年)があります。
改正後の民法では,特に合理性のない短期消滅時効の特則を廃止するとともに,消滅時効の原則期間である10年という期間も長すぎるとして,原則として権利行使が可能であることを知った時から5年に統一することとされています(改正後民法166条1項1号。以下、改正後民法を単に「民法」といい、現行の民法を現行民法といいます)。

⑵ 法定利率を変動させる規定の新設

民法では,私人間でお金の貸し借りをした場合でも,無利息が原則です。もちろん,利息の支払いとその利率を定めることができ,これらを定めたときは,原則として,その定めに従い利息(利率)を支払わなければなりません。ところで,お金の貸し借りをするにあたって利息を付けることを定めたものの具体的な利率を定めなかった場合,どうなるでしょうか。この場合,現在の民法では,年5%の利率(固定)による利息を支払うことと定められています(現行民法404条)。これを,「法定利率」といいます。しかしながら,日本経済がデフレに陥り、日本銀行がゼロ金利政策をとる現在の経済状況にあっては,年5%の利率(固定)は,経済の実態と乖離したかなり高い利率であるといえます。また,将来,経済状況が好転あるいは悪化した場合に,法定利率が年5%に固定されていることが果たして合理的であるかは疑問があるところです。
そこで,改正後の民法では,法定利率について,現行の年5%から年3%に引き下げた上で,市中の金利動向に合わせて変動する制度を導入することとされました(民法404条1項~5項)。

⑶ 事業用融資の債務の保証契約における保証意思の確認

保証契約とは,債務者の信用を補完するために利用される制度で,債権者と保証人との間で契約が結ばれるものです。保証には,保証人による場合(人的保証)のほか,保証人(「物上保証人」といいます)の有する不動産に抵当権を設定する場合(物的保証)があります。いずれも,債務者が債務を弁済できない場合(例えば,借りたお金を返せないなど),保証人が債務者に代わって弁済することになります(物上保証人の場合,その所有不動産が競売されて債務の弁済にあてられます)。保証契約は,債務者の親族,知人あるいは友人などが,債務者から「迷惑はかけません。」と言われ,契約の内容をよく理解しないまま,契約を締結してしまうことが少なくありません(保証人になってもよいことは何もないので,ほとんどの保証人は断り切れずやむなく契約しているのが実情です)。
特に,事業用融資の債務はいきおい金額が高額となり,その保証となりますと,保証人の責任は極めて重大なものとなります。債務者の支払い不能によって,債権者から突然想定外の高額な債務の支払いを求められ,破産や夜逃げ,一家離散,自殺に追い込まれる保証人もいます。
そこで,改正後の民法では,事業用融資の債務について保証契約を締結するには,保証人になろうとする者が個人である場合には,主たる債務者が法人である場合のその理事,取締役等の役員である場合などを除き,公証人が保証人に対し,その保証意思を十分に確認し,保証契約につき公正証書を作成しなければ,効力を生じないものとされています(民法465条の6)。

⑷ 定型約款の合意,内容の表示および変更

インターネットで商品を購入しようとしたら,「購入前にお読みください」と,画面上に詳細な利用規約(以下,「約款」といいます)が表示され,同意ボタンを押さないと実際の取引ができない場合があります。本来は,これらの約款のすべてに目を通して,その内容を十分理解した上でなければ,同意ボタンを押すべきではありません。とはいうものの実際上は,細かい字でたくさんの条項が書かれており,読むのが大変で,よく読まずに「同意」ボタンを押して商品を購入することがほとんどではないでしょうか(正直に申し上げると筆者もほとんどそうしております)。また,そのような約款に基づいてなされた取引は,ほとんどが迅速かつ円滑に処理されているのも事実であり,今日のようなインターネット社会において,約款は必要不可欠なものといえるでしょう。
しかし,現行民法では約款についての規定が設けられておりません。そのため,実際の取引社会では,たとえ約款の内容を知らなくても,同意ボタンを押してしまうと,実際に約款を読んだかどうかに関係なく,約款に従うという意思があったものと推定されてしまいます。その結果,後日,商品の購入をめぐってトラブルが生じた場合には,約款で示されている条項が一方的に適用されてしまいます。「そんな条項は読んでいない。」とか,「そんな条項があることなんて知らなかった。」,といっても,後の祭りです。
このように,約款は,ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの(以下,「定型取引」といいます)にとっては必要不可欠なものあり,取引を迅速かつ円滑に行うためには非常に便利なものです。他方で,約款は,お互いの明確な合意とは別に契約の内容になり得るという点で,当事者の合意によってのみ成立するという契約の本来のあり方からすると,極めて特異な性質を有するものであるといえます。
そこで,改正後の民法では,約款を「定型取引において,契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」すなわち「定型約款」として定義し,一般消費者保護の観点から,定型約款の合意,内容の表示および変更について,諸規定を設けました(民法548条の2~民法548条の4)。

⑸ その他判例法理等を明文化

その他,改正後の民法では,次のような判例法理等が明文化されています。
① 意思能力を有しなかった当事者がした法律行為は無効とすること
法律行為の当事者が,自分が法律を行為するに当たり,その法律行為の結果を正しく理解・認識し,これに基づいてその法律行為をするかどうかを正しく判断することができる能力を「意思能力」といいます。現行民法では,「権利能力」や「行為能力」についての規定はありますが,「意思能力」についての規定がありませんでした。もっとも,意思能力を欠く者の法律行為が無効であることは判例法理として確立した考え方でありました(大判明38.5.11ほか)。そこで,改正後の民法では,法律行為の際に意思能力を欠く者がなした法律行為は,無効であるとの規定が設けられています(民法3条の2)。
なお,一口に法律行為といっても,普段の生活における買い物から,私人間のお金の貸し借り,不動産の売買などの取引,保証契約など極めて多岐亘るため,意思能力の判断においては,法律行為の内容・種類や法律行為の時点におけるその意思を表示した者の年齢・精神状態を考慮されることになるものと思われます。
② 将来債権の譲渡が可能であること
「将来債権」とは,現時点では発生していないものの,将来発生することが予想される債権のことをいいます。そして,この将来債権の譲渡は,将来債権の早期の現金化のため,あるいは,融資を受けるための担保の手段として今日の経済社会において積極的に活用されています。しかし,現行の民法では,すでに発生している債権(これを「既発生債権」といいます)については,原則として,これを譲渡することができる旨の規定はあるものの,将来債権の譲渡についてこれを有効とする旨の規定がありませんでした。もっとも,将来債権の譲渡が有効であることは判例法理として確立した考え方でありました(最判平11.1.29ほか)。そこで,改正後の民法では,将来債権の譲渡が可能である旨の規定が設けられました(民法466条の6)。
③ 賃貸借契約の終了時に賃借人は賃借物の原状回復義務を負うものの,通常の使用収益によって生じた損耗等についてはその原状回復義務の範囲から除かれること
 「賃貸借契約」とは,貸主が一定期間,その物の使用や収益を借主にさせることを約束
し,借主はその物の使用や収益の対価として賃料を支払い,契約が終了したときにその物を返還することを約することで成立する契約です。典型的な例としては,アパートなどの貸家の賃貸借契約があります。借家の賃貸借契約では,借主が契約に先立って貸主に対し敷金をおさめる取引慣行があります。敷金は,賃貸借の契約期間中,借主の賃料の不払いや建物の明渡しの際に借主が負担するべき費用などに充当する目的で,賃貸借契約の開始時に予め交付がされ,契約終了時において,貸主が必要な清算をした後,借主に返還するものです。また,借家の賃貸借契約では,借主は契約終了時に借りていたアパートを借りたときの状態に戻す義務(これを「原状回復義務」といいます)を有する旨の規定が設けられていることがほとんどです。しかし,現行の民法には敷金の清算・返還に関する規定や原状回復義務についての規定がありません。そのため,貸主と借主の間で敷金の清算や返還をめぐるトラブルや,借主が貸主から敷金を超える過大な原状回復費用(リフォーム代など)を請求されるなどのトラブルが多発しています。
そこで,改正後の民法では,「敷金」をいかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいうものと定義し(民法622条の2第1項),賃貸人は,賃貸借が終了し,かつ,賃借人から賃貸物の返還を受けたときは,賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならないとする規定を置きました(民法622条の2第1項1号)。また,原状回復義務については,賃借人は,原則として,賃借物の原状回復義務を負うものの,通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化についてはその責任を負わないとする旨の規定を置きました(民法621条)。

⑹ 施行日

平成29年6月2日,改正民法が官報に掲載され,公布されました。そして,公布の日(平成2017年6月2日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。この期間は,国民に改正民法を周知させるための準備期間です。

⑺ 司法書士試験における改正民法の学習の時期

司法書士試験は,7月第1または第2日曜日に実施され,試験実施の年の4月1日現在の法律に基づいて出題されます。そのため,原則的には施行後最初に到来する4月1日に係る司法書士試験から,改正民法が出題されるはずです。しかし,かつて会社法が改正されたときは,施行日が平成18年5月1日であったにもかかわらず,平成18年の司法書士試験で改正会社法が出題されたことがあります(もちろん,受験要綱でその旨が予め告示されました)。また,司法書士試験には,法改正があると法改正前に改正分野の論点が出題される傾向があります(法改正の分野は,本試験委員も問題意識を持って熱心に研究しているからだと推測されます)。そこで,いつ出題されても慌てないよう,参考書を用意し,今から少しずつ学習しておくことを是非おすすめします。