【司法書士】
今年の本試験~気になる問題①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


毎日暑い日が続いております。受験生の皆様におかれましては,お元気にお過ごしでしょうか。受験勉強には厳しい季節であり,また,本試験を終えた直後という時期ですが,毎日,実力の急激な劣化を避けるため,少しずつでも学習の時間を確保していただきたいものです(合格を確信された方,または,そうでない方も)。
先日,オートマ実行委員会Presents「平成29年度司法書士本試験分析会」が渋谷校で行われました。私も,オートマ実行委員会の末席をけがす者として(笑),その事前打合せ会に出席し,優秀な先生方の貴重なご意見を拝聴して参りました。当日,出席したかったけれど出席できなかった方のため,出席した方の忘備録として,今後,数回にわたり,分析会で取り上げられた今年の本試験の問題について,オートマ実行委員会の諸先生方のご意見を基に,私なりにアレンジしつつ,紹介して参ります。

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<民法>

第15問 非典型担保に関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア 甲の乙に対する金銭債務を担保するために,甲が丙に対して有する既発生債権及び将来債権を一括して乙に譲渡し,乙が丙に対し担保権の実行として取立ての通知をするまでは丙に対する債権の取立権限を甲に付与する内容の債権譲渡契約について,乙がその債権譲渡を第三者に対抗するためには,指名債権譲渡の対抗要件の方法によることができる。
イ 甲が,乙に対する手形金債権を担保するために,乙の丙に対する請負代金債権の弁済を乙に代わり受領することの委任を乙から受け,丙がその代理受領を承認した場合において,丙が乙に請負代金を支払ったために甲がその手形金債権の満足を受けられなかったときは,丙がその承認の際担保の事実を知っていたとしても,丙は,甲に対し不法行為に基づく損害賠償責任を負わない。
ウ 甲が,その所有する動産を乙に対する譲渡担保の目的とした場合において,甲が乙の許諾を得てその動産を丙に売却したときは,乙は,その売却代金に対して物上代位権を行使することができない。
エ 土地の賃借人がその土地上に自ら所有する建物を譲渡担保の目的とした場合には,その譲渡担保の効力は,土地の賃借権に及ばない。
オ 構成部分の変動する集合動産について,その種類,所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には,一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができる。
1 アイ 2 アオ 3 イウ 4 ウエ 5 エオ

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<かんたん解説と解答法><正解4>

エ × 譲渡担保の効力は,土地の賃借権に及びます(最判昭51.9.21)。この肢は,平成24年15問イ肢(過去問)で出題されています。過去問の復習が完璧であれば容易に解答できる肢です。
→ この肢の誤りに気が付けば,消去法正解は1~3になりますね!
ウ × 譲渡担保権者は,物上代位権を行使することができます(最判平11.5.17)。この肢も平成21年15肢ウ肢(過去問)で出題されています。
→ この時点で正解は,1か2になります。
オ ○ そのとおり(最判昭54.2.15)。この肢も平成19年12問ウ肢(過去問)で出題されています。
→ ここで,正解は4であることが確定します。過去問の知識のみで正解にたどり着くことができました。
ア ○ そのとおり(最判平13.11.22)。本肢はできなくても構いません。正解率は低いものと推定されます。
イ × 不法行為責任を負わないとした部分が誤りです(最判昭44.3.4)。

<解法のポイント>

まず,自分が自信をもって正誤を判断できる肢から解答していくことです。わからない肢は飛ばして解いても構いません。「10のあやふやな知識より,1の確実な知識!」です。また,過去問学習の重要性が浮き彫りとなった問題といえます。

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<不動産登記法>

第13問 登記原因証明情報に関する次のアからオまでの記述のうち,第2欄の情報が第1欄の登記の申請情報と併せて提供すべき登記原因証明情報にならないものの組合せは, 後記1から5までのうち,どれか。
第1欄              第2欄
ア 収用による所有権の移転の登記  権利取得裁決に係る補償金の受領書
イ 遺贈者の死亡により包括受遺者である  AがBに対して送付した包括遺贈の放棄
AとBとを登記名義人とする所有権の移  をする旨の意思表示が記載された内容
転の登記がされた後,所有権の登記名義  証明郵便
人をBのみとする所有権の更正の登記
ウ 根抵当権者が単独で申請する根抵当権  根抵当権の債務者について破産手続を開
の元本の確定の登記          始する旨の記載のある官報公告
エ 不動産登記法第70条第3項前段の規定  抵当権の被担保債権に係る借用証書
に基づく抵当権の登記の抹消
オ 不動産登記法第70条第3項後段の規定  不動産質権者である株式会社の清算結了
に基づく質権の登記の抹消      を証する閉鎖事項証明書
(参考)
不動産登記法
第70条 登記権利者は,登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは,非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第99条に規定する公示催告の申立てをすることができる。
2(略)
3 第1項に規定する場合において,登記権利者が先取特権,質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは,第60条の規定にかかわらず,当該登記権利者は,単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。同項に規定する場合において,被担保債権の弁済期から20年を経過し,かつ,その期間を経過した後に当該被担保債権,その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも,同様とする。
1 アイ 2 アウ 3 イオ 4 ウエ 5 エオ

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<かんたん解説と解答法><正解3>

イ × 登記原因証明情報になりません。包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有します(民法990条)。そのため,包括遺贈の放棄をするには,自己のために包括遺贈があったことを知ったとき(自分が包括受遺者であることを知ったとき)から3か月以内に,家庭裁判所で包括遺贈の放棄の申述をしなければならず(民法915条1項),包括遺贈の放棄の意思表示を内容証明郵便によってすることはできません。したがって,当該内容証明郵便は,登記原因証明情報としての適格性を有しません。本肢は,不動産登記法の問題ですが,民法の条文知識からも十分正解を導くことができる肢です。
→ この肢の誤りに気が付けば,消去法で正解は1または3になりますね!
オ × 登記原因証明情報になりません。「不動産質権者である株式会社の清算結了を証する閉鎖事項証明書」ときたら,「これは法人が行方不明である場合の休眠担保権の抹消登記についての問題だな」と連想できるようにしておきましょう。そして,法人の「行方不明」とは,当該法人について登記簿に記載がなく,かつ,閉鎖登記簿が廃棄済みであるため,その存在を確認することができない場合等をいい,休眠担保権の抹消の登記の申請情報には,申請人が当該法人の所在地を管轄する登記所等において調査した結果を記載した情報(申請人の印鑑証明書を添付したもの)を提供しなければなりませんでしたね(先例昭63.7.1-3456)。この情報としては,少なくとも,申請人またはその代理人が,当該法人の登記簿上の所在地を管轄する登記所において,当該法人の登記簿もしくは閉鎖登記簿の謄本(閉鎖事項証明書)もしくは抄本の交付または登記簿の閲覧を申請したが,該当の登記簿または閉鎖登記簿(登記記録)が存在しないため,その目的を達することができなかった旨が記載されたものでなければなりません(先例昭63.7.1-3499)。したがって,「不動産質権者である株式会社の清算結了を証する閉鎖事項証明書」がある以上,法人の行方不明の場合にはあたらず,当該書面は,休眠担保権の抹消の登記の申請情報と併せて提供する登記原因証明情報にはなりません。
→ ここで,正解は3であることが確定します。実体法の条文と,応用力プラス既存の知識の合わせ技で正解にたどり着くことができました。
ア ○ 登記原因証明情報になります(不動産登記法118条,不動産登記令別表43項添付情報欄)。本問の解答にあたってはわからなくてもよい条文でした。正解率の低い肢であると思われます。
ウ ○ 登記原因証明情報になります(民法398条の20第1項4号,不動産登記令別表54項添付情報欄)。本肢も,実体法である民法の知識が重要になりますね。
エ ○ 債権の弁済期を証する書面として,登記原因証明情報になります(不動産登記令別表36項添付情報欄ハ(1),先例昭63.7.1-3456)。オと同様,休眠担保権の抹消登記の問題です。

<解法のポイント>

不動産登記法の問題であっても,その実体法である民法の条文知識だけで正解に達し得る肢があります。手続法における実体法の重要性をあらためて認識させられますね。また,正面から問題を見ても解答できないときは,角度を変えて問題を見ることにより,応用力プラス既存の知識の合わせ技で正解にたどり着くことができる肢もあります。
午後の部は,記述式問題が2問もあるため,択一35問をなるべく早く解かなければなりません(理想は,1時間程度で解答完了)。択一35問の全肢を読んでいる時間がない場合には,自分の知識で確実に判断できる2~3肢だけで正誤を判断して解答しなければならないときもあろうかと思います。そういう時こそ,「10のあやふやな知識より,1の確実な知識!」が必要不可欠になることをお忘れなきよう。