【司法書士】
今年の本試験~気になる問題②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 関東もようやく梅雨明けしましたが,すでに真夏の気候になっております。受験勉強には大変厳しい時期ですが,体調に十分留意され,この時期を乗り越えてください。また,熱中症も増えているようです。炎天下の長時間の外出を避け,やむなく外出する場合でも帽子や日傘を利用し,エアコンを適切に使用し,こまめな水分補給をする等,熱中症に気をつけてください。筆者も数年前,帽子も被らず,真夏の炎天下を30分程度自転車に乗っただけで,熱中症にかかり,ダウンしてしまいました。幸い,涼しい部屋で休み,ポカリスエットを飲んで事なきを得ましたが,油断大敵でした。
今回も前回と同様,オートマ実行委員会Presents「平成29年度司法書士本試験分析会」で取り上げられた今年の本試験の問題について,紹介して参ります。

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<民法>(正解率 76.1 %)

 第16問 債務不履行に関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア 特別の事情によって生じた損害については,債務者は,その債務の成立時に当該特別の事情を予見し,又は予見することができた場合に限り,債務不履行に基づく賠償責任を負う。
イ 雇用契約上の安全配慮義務に違反したことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償債務は,その原因となった事故の発生した日から直ちに遅滞に陥る。
ウ 他人の権利を目的とする売買の売主は,その責めに帰すべき事由によって当該権利を取得して買主に移転することができない場合には,契約の時にその権利が売主に属しないことを買主が知っていたとしても,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
エ 不動産の買主は,売主が当該不動産を第三者に売却し,かつ,当該第三者に対する所有権の移転の登記がされた場合には,履行不能を理由として直ちに契約を解除することができる。
オ 建物について賃貸人の承諾を得て転貸借が行われた場合において,転借人の失火により当該建物が滅失したときは,転貸人は原賃貸人に対して債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
1 アイ 2 アオ 3 イウ 4 ウエ 5 エオ

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<かんたん解説と解答法><正解1>

ウ ○ そのとおり(最判昭41.9.8)。他人物売買の悪意の買主は,担保責任としての損害賠償請求をすることはできませんが(民法561条後段),債務不履行の一般原則(民法415条)による損害賠償請求をすることはできます(最判昭41.9.8)。この肢は,平成23年17問イ肢(過去問)で出題されています。過去問の復習が完璧であれば容易に解答できる肢です。
→ この肢が正しいことに気が付けば,消去法正解は1,2および5になりますね!
オ ○ そのとおり(大判昭4.6.19)。転借人の過失による賃貸目的物の滅失に関しては,判例は,転貸について賃貸人が承諾を与えていた場合であっても,転借人を賃借人の債務の履行補助者であるとして,履行補助者の故意・過失について債務者に債務不履行責任を問うための「債務者の責めに帰すべき事由」としています(大判昭4.3.30,大判昭4.6.19)。
→ この時点で正解は1であることが確定します。
エ ○ そのとおり(最判昭35.4.21)。第三者に対する所有権の移転の登記がされたときは,売主の買主に対する債務は一般取引通念上履行不能となり(大判大2.5.12),買主はこれを理由として契約を解除できます(民法543条本文)。売主に帰責事由が認められますので,買主は解除権行使の前提として売主に催告することを要しません。この肢は,平成7年8問ア肢(過去問)で出題されています。
ア × 「債務の成立時」の部分が誤りです。正しくは,「債務不履行の時」を標準として判断します(最判昭40.4.16)。たとえ判例の知識がなくても,「債務の成立時」というキーワードに疑いを持つレベルにまで,択一感覚を研ぎ澄ませておいて欲しいというのが,オートマ実行委員会の受験生に対する願いでした。
イ × 本肢は,不法行為による損害賠償責任ではなく,あくまでも債務不履行による損害賠償責任であることがポイントです。したがって,「事故の発生した日」ではなく,「債権者から履行の請求を受けた時」に履行遅滞になります(最判昭55.12.18)。
「雇用契約上の安全配慮義務に違反」は,何となく不法行為っぽいですが,ここに惑わされず,冷静に「債務不履行に基づく損害賠償責任」であることを読み取るべきである,というのがオートマ実行委員会の統一見解でした。なお,この肢は,平成19年17問イ肢(過去問)で出題されています。

<解法のポイント>

 まず,問題文の冒頭「債務不履行に関する…」という点を押さえましょう。そうすれば,過去問と判例の知識で2肢のみの判断で正解を出すことができます。問題文を正確に読むことの大切さをあらためて感じさせられる問題でした。

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<不動産登記法>(正解率 64.8 %)

 第21問 買戻しの特約の登記に関する次のアからオまでの記述のうち,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア 甲土地の所有権の移転の登記と同時に買戻しの特約の登記がされている場合において,売買を登記原因として当該特約に係る買戻権の移転の登記を申請するときは,登記権利者の住所を証する情報を提供することを要しない。
イ 乙建物の所有権を目的として,売買代金を分割して支払う旨の定めがある売買契約が締結され,当該契約に買戻しの特約が付された場合において,当該買戻しの特約の登記を申請するときは,買主が現実に支払った金額及び売買の総代金を,当該登記の申請情報の内容としなければならない。
ウ 甲土地を目的とする地上権の移転の登記と同時に買戻しの特約の登記がされている場合において,売買を登記原因として当該特約に係る買戻権の移転の登記を申請するときの登記の目的は「何番地上権付記1号買戻権移転」である。
エ 乙建物の所有権の移転の登記と同時に買戻しの特約の登記がされ,当該特約に係る買戻権を目的として差押えの登記がされている場合において,当該買戻権の買戻期間が満了したときは,当該差押えの登記に係る差押債権者の承諾を証する情報を提供して当該買戻しの特約の登記の抹消を申請することができる。
オ 甲土地の所有権の登記名義人との間で締結した当該所有権を目的とする売買契約に買戻しの特約を付した場合において,当該所有権の移転の仮登記を申請するときは,当該買戻しの特約の仮登記と当該所有権の移転の仮登記とを同時に申請しなければならない。
1 アイ 2 アウ 3 イエ 4 ウオ 5 エオ

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<かんたん解説と解答法><正解4>

オ × 買戻しの特約の本登記は,所有権移転の本登記と同時に申請することを要しますが,買戻しの特約の仮登記は,必ずしも所有権移転またはその請求権の仮登記と同時に申請することを要しません(先例昭36.5.30-1257)。この肢は,平成17年15問ア肢(過去問)で出題されています。
→ この肢が誤りであることに気が付けば,消去法正解は4または5になりますね!
ウ × 本肢の登記の目的は,正しくは,「何番地上権付記1号の付記1号買戻権移転」となります。地上権の移転登記は,付記登記でなされ(不動産登記規則3条5号),同時に買戻しの特約の登記がなされている場合,その買戻しの特約の登記は,付記登記でなされた地上権移転登記の付記登記でなされるからです(不動産登記規則3条9号)。条文知識で十分対応可能です。ちなみに,この登記は,「付記1号の付記1号の付記1号」で実行されます(登記記録例512)。
→ この肢が誤りであることに気が付けば,正解は4であることが確定します。
ア ○ そのとおり。買戻権が所有権を目的とするものである場合には,登記義務者である買戻権の登記名義人は,所有権の名義人として,買戻権の移転の登記の申請情報には作成後3か月以内の印鑑証明書の提供を要しますが(先例昭34.6.20-1131,不動産登記令16条2項・3項,18条2項・3項),登記権利者の住所証明情報を提供しなければならないという規定はありません(不動産登記令7条1項6号,不動産登記令別表参照)。登記権利者は,買戻権という債権を取得しますが,この時点では所有権の登記名義人ではないからです(買戻権を行使したときに所有権の登記名義人になりますので,その登記の申請情報に住所証明情報の提供を要します。)。
イ ○ そのとおり(不動産登記法96条)。この肢は,昭和59年14問(1),昭和62年28問(2)(過去問)で出題されています。
エ ○ そのとおり(不動産登記法68条,不動産登記令7条1項6号,不動産登記令別表26項添付情報欄ヘ)。この肢は,昭和58年23問(2)(過去問)で出題されています。

<解法のポイント>

解答する肢に順番はありません。自分が自信をもって正誤を判断できる肢から解答していくことが大切です。午後の部は,記述式問題が2問もあるため,とにかく時間との戦いです。わからない肢は飛ばして解いて構いません。
それでもなお,正解にたどりつけない場合,自分が見知らぬ肢の正誤を判断しなければなりませんが,その場合でも,落ち着いて既存の確実な知識を駆使し,正解にたどり着けるようにしたいものです。もし,ア肢の正誤を判断しなければならないとき,ア肢は条文でも先例でも過去問でもないため,正誤の判断に悩むかもしれません。しかし,「所有権を目的とする買戻権の買主は,登記権利者の住所証明情報を提供しなければならない場合,すなわち,①表題登記(不動産登記令7条1項6号,不動産登記令別表4・12項添付情報欄ニ),②所有権保存登記(不動産登記令7条1項6号,不動産登記令別表28項添付情報欄ニ・29項添付情報欄ハ),③所有権移転登記(不動産登記令7条1項6号,不動産登記令別表30項添付情報欄ロ)のいずれにも該当しないはずだ!」という既存の知識(条文知識)があれば,正誤を判断できることを肝に銘じておきましょう。なお,買戻権の移転の登記の申請情報には,登記義務者である買戻権の登記名義人は所有権に関する名義人として作成後3か月以内の印鑑証明書の提供を要するから,所有権を目的とする買戻権の買主も同じように住所証明情報がいるかもしれない,などと何の根拠もなく,ただ何となくそうではないかというノリで正誤を判断してはいけません。それこそ,本試験委員の思うツボだからです。