【司法書士】
今年の本試験~気になる問題③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


蝉の声も賑やかな季節になりました。いよいよ本格的な真夏の到来ですね。
また,過去に例を見ない豪雨の被害が各地で報じられています。被災された方には本紙面をお借りして心よりお見舞い申し上げます。
今回も前回と同様,オートマ実行委員会Presents「平成29年度司法書士本試験分析会」で取り上げられた今年の本試験の問題について,引き続き紹介して参ります。

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<民法>(正解率 72.2 %)

第18問 敷金に関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア 居住用の家屋の賃貸借において,敷金の名目で交付された金銭のうち一定額を賃貸借契約の終了時に返還しない旨の特約は,返還しない部分がいわゆる礼金に当たることが明確に合意されていても,災害により家屋が滅失して賃貸借契約が終了した場合については適用することができない。
イ 賃貸借の期間が満了した後も賃借人がその使用を継続し,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないために賃貸借契約が更新された場合には,更新後に生ずる賃借人の債務は,従前の敷金によって担保される。
ウ 敷金が授受された建物の賃貸借契約に係る未払の賃料債権について,当該建物の抵当権者が物上代位権を行使して差し押さえた場合には,賃貸借契約が終了して当該建物が明け渡されたとしても,敷金は当該未払の賃料債権には充当されない。
エ 敷金が授受された賃貸借契約の終了の前において,賃貸人は,敷金を未払の賃料債権の弁済に充てることができない。
オ 敷金が授受された建物の賃貸借において,賃貸人は,賃借人に対して有する賃貸借関係から生じた債権のうち敷金額を控除した部分についてのみ不動産賃貸の先取特権を有する。
1 アウ 2 アエ 3 イエ 4 イオ 5 ウオ
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<かんたん解説と解答法><正解4>

イ ○ そのとおり。従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,敷金については,この限りでない(民法619条2項)。条文知識で正誤の判断ができます
→ この肢が正しいことに気が付けば,消去法で正解は3または4になりますね! 
エ × 敷金は,賃貸人が有する担保ですので,賃人による未払賃料への充当は,その時期にかかわらず自由にすることができます。これに対し,賃人が,敷金を未払賃料に充当するよう求めることはできません(大判昭5.3.10参照)。この肢は,完全なヒッカケです。「賃人」と「賃人」を取り違えないように注意しましょう。
→ この肢の正誤の判断ができれば,自動的に,正解は4となります。
ア × 敷金の名目で交付された金銭のうち一定額を賃貸借契約の終了時に返還しない旨の特約(礼金等の性質を持つ,いわゆる,「敷引特約」)は,災害により家屋が滅失して賃貸借契約が終了した場合についても適用があります(最判平10.9.3)。これは知らなくても構わない肢でしょう。
オ ◯ そのとおり。賃貸人は,敷金を受け取っている場合には,その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有します(民法316条)。敷金(当事者間の約定担保)による充当が先です。これも条文知識です。
ウ × 敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅します(最判平14.3.28)。敷金返還請求権は,相殺のような当事者の意思表示を必要とすることなく,賃貸借終了による明け渡し時における延滞賃料等の賃借人の債務と当然に差引計算がされて,残額について発生するものとされ,敷金の授受がある場合の賃料債権を差し押さえた場合には,これを譲渡した場合と同様に,差押債権者が取り立てないし転付命令に基づく弁済を受ける前に,賃貸借が終了し,目的物が明け渡されたときは,その賃料は当然に敷金が充当される結果,差押えに係る賃料債権は消滅すると解さざるを得ないとされています(同判例)。この肢は,平成24年13問オ肢(過去問)で出題されています。過去問の復習が完璧であれば容易に解答できる肢です。

<解法のポイント>

この問題も,過去問条文知識ほぼ正誤の判断ができる問題でした。エ肢は,判例知識ではありますが,極めて一般的・常識的な知識であり,知らないという方は少なかったのではないでしょうか(ヒッカケに引っかからなければ)。司法書士の実務は,1字1句正確でなければならない性質のものもあるので,この程度のヒッカケで嘆いていてはいけません。問題文を正確に読み,過去問と条文の確かな知識があれば正解できるはずです。
賃貸借(敷金)については,今般の民法改正で,重要判例を明文化するなどの大きな改正があることは皆様ご存知のとおりです。本問のように,改正法の施行前には,改正になる論点が司法書士本試験で出題されることが多いです。本試験委員も改正法を勉強しており,また,改正法が施行されると出題できなくなるからです。したがって,来年の試験においても,本年と同様に,改正になる論点が出題される可能性が高いものと思われます。そのような理由により,1冊で構いませんので,改正民法の本を入手し,改正になる論点の重点的な学習をおすすめします。
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<民事訴訟法>(正解率 67.1 %)

第3問 民事訴訟における当事者の出頭に関する次のアからオまでの記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア 訴えの取下げを口頭弁論の期日において口頭でする場合には,相手方がその期日に出頭していることを要する。
イ 裁判所は,当事者の共同の申立てがあるときは,事件の解決のために適当な和解条項を定めることができるが,その和解条項の定めは,口頭弁論,弁論準備手続又は和解の期日に出頭した当事者双方に対する告知によってしなければならない。
ウ 請求の放棄又は認諾は,当事者の一方が弁論準備手続の期日に出頭し,他の一方がその期日に出頭しないで裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって手続に関与する場合においても,その期日においてすることができる。
エ 訴え提起前の和解の期日に申立人又は相手方が出頭しないときは,裁判所は,和解が調わないものとみなすことができる。
オ 和解に代わる決定は,口頭弁論の期日に出頭した当事者双方に対する告知によってしなければならない。
1 アイ 2 アオ 3 イエ 4 ウエ 5 ウオ
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<かんたん解説と解答法><正解4>

エ ○ そのとおり。申立人または相手方が和解の期日に出頭しないときは,裁判所は,和解が調わないものとみなすことができます(民事訴訟法275条3項)。条文知識正誤の判断ができます
→ この肢が正しいことに気が付けば,消去法で正解は3または4になりますね!
ウ ○ そのとおり。まず,請求の放棄または認諾は弁論準備手続ですることができるという点については,平成22年5問ウ肢(過去問)で出題されています(民事訴訟法266条1項,261条3項)。また,裁判所は,当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,当事者の一方がその期日に出頭した場合に限り,裁判所および当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,弁論準備手続の期日における手続を行うことができるとされています(民事訴訟法170条3項,民事訴訟規則88条2項)。したがって,この肢は,過去問と条文知識の合わせ技正誤の判断ができますね。
→ この2肢の判断により,正解は4になることがわかります。
ア × 相手方の出頭を要しません。訴えの取下げが書面でされたときはその書面を,訴えの取下げが口頭弁論等の期日において口頭でされたとき(相手方がその期日に出頭したときを除く。)はその期日の調書の謄本を相手方に送達しなければならず(民事訴訟法261条4項),訴えの取下げの書面の送達を受けた日から2週間以内に相手方が異議を述べないときは,訴えの取下げに同意したものとみなされます(同条5項前段)。本肢より,後続論点である民事訴訟法261条5項前段を知っているという方が多かったのではないでしょうか。今回は,同条4項が出題されました。
イ × 当事者双方の出頭を要しません。裁判所による和解条項の定めは,口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知によってすることができます(民事訴訟法265条3項・1項)。そして,この告知が当事者双方にされたときは,当事者間に和解が調ったものとみなされます(同条5項)。
オ × 「出頭した」とする部分が誤りです(民事訴訟法275条の2第3項)。決定一般にいわれることですが,当事者双方に対する告知があればその効力を生じます(民事訴訟法119条)。「和解に代わる決定」から始まる肢だったので,動揺された方も多いかもしれませんが,決定一般の効力発生についての条文知識があれば,正誤の判断は可能であったものと思われます。

<解法のポイント>

 正解率をみるとこの問題の難易度は相対的に高いものと思われます。しかし,過去問条文知識ほぼ正誤の判断ができる問題でした。この問題は,「出頭」の有無が横断的に出題されています。タテの知識だけでなく,ヨコの知識も重要です。時間がある夏のうちに,テーマを決めて横断的な知識も整理しておくとよいでしょう。