【司法書士】
今年の本試験~気になる問題④


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


いよいよ,8月ですね。猛暑が続いております。熱中症対策として,おすすめしたいのが「日傘」です。日傘といえば,女性専用のものという感覚ですが,一度さしてみると,その遮光性に驚きます。帽子などの比ではありません。特に生地が厚手のものがよいですね。最近は,男女兼用のものも売っていますので,一度試してみてください。まだまだ,男性でさしている人は少なく,正直なところ,恥ずかしさもありますが,いつか男性社会で市民権を得る日が来ると思います。
話は変わりますが,お勤めの方は,お盆休みは,1年の内で,まとまって学習時間がとれる数少ない機会ですので,計画を立て,効率よく学習してください。
今回も前回と同様,オートマ実行委員会Presents「平成29年度司法書士本試験分析会」で取り上げられた今年の本試験の問題について,引き続き紹介して参ります。

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<民法>(正解率 83.8 %)
第22問 Aがその子BにA所有の甲土地を遺贈する旨の遺言をした場合(以下では,この遺言を「遺言①」という。)と,Cがその子Dに遺産分割方法の指定としてC所有の乙土地を取得させる旨の遺言をした場合(以下では,この遺言を「遺言②」という。)との異同に関する次のアからオまでの記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア Bは,遺言①による遺贈を放棄することができるが,Dは,相続の放棄をすることなく,遺言②による財産の取得のみを放棄することはできない。
イ 遺言①による遺贈がAの配偶者Eの遺留分を侵害する場合には,Eはその遺留分を保全するのに必要な限度で減殺請求をすることができるが,遺言②による遺産分割方法の指定がCの配偶者Fの遺留分を侵害する場合には,その遺産分割方法の指定は遺留分を侵害する限度で当然に無効となる。
ウ Bは,登記をしなければ,甲土地の所有権の取得を第三者に対抗することができないが,Dは,登記をしなくても,乙土地の所有権の取得を第三者に対抗することができる。
エ BがAよりも先に死亡した場合には,遺言①による遺贈はその効力を生じないが,DがCよりも先に死亡した場合において,Dに子がいるときは,その子が乙土地の所有権を取得する。
オ Aは,Bの同意を得なければ,遺言①を撤回することができないが,Cは,Dの同意を得なくても,遺言②を撤回することができる。
1 アウ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 エオ

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<かんたん解説と解答法><正解1>
オ × 遺言①についての記述が誤りです。遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部または一部を撤回することができます(民法1022条)。したがって,遺言①・遺言②とも遺言者は自由に遺言を撤回できます。条文知識で正誤の判断ができる肢ですね。遺言の撤回については,昭和63年23問3肢,平成13年22問ウ肢(過去問)出題されています。
→ この肢が正しいことに気が付けば,消去法正解は1,3または4になりますね!
ア ○ そのとおり。本肢のような特定遺贈の場合,受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも,遺贈の放棄をすることができます(遺言①,民法986条1項)。これに対し,遺産分割方法の指定(遺言②)の場合,これのみを放棄する制度はありません。また,相続人Dは,遺言により被相続人の相続開始時に何らの行為を要しないで相続により当該財産を確定的に取得することとなるため,Dの意思表示だけで遺言の利益を放棄することはできず,相続放棄の申述をすることによってのみ,遺言の利益を放棄することができるものと解されています(放棄否定説,東京高裁決定平21.12.18)。これもほぼ条文知識で判断できる肢ですね。特定遺贈の放棄については,平成7年19問3肢,平成11年19問イ肢(過去問)出題されています。
→ この肢の正誤の判断ができれば,正解は1に確定します。
イ × 遺言②についての記述が誤りです。相続人に遺留分減殺請求権を認めた民法の趣意からして,遺留分を侵害する遺言がなされても,当該遺言は当然に無効となるものではありません(最判昭25.4.28)。これは,受験生の常識ですね。遺留分の請求の可否については,平成7年19問4肢(過去問)で,遺留分の規定に違反する遺言の効力については,平成8年20問ウ肢(過去問)でそれぞれ出題されています。
ウ ○ そのとおり。遺贈(相続①)により相続人Bが甲土地の所有権を取得した場合は,その登記をしなければ第三者に対抗することができません(民法177条,最判昭39.3.6)。これに対し,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言(遺言②)があった場合には,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,当該遺産は,被相続人の死亡の時に直ちに相続によりDに承継されます(最判平3.4.19)。このように,「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は,法定相続分または指定相続分の相続の場合と同様であり,当該不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができることとされています(最判平14.6.10)。
 不動産の遺贈を受けた者と相続人から当該不動産を売買により取得した者との対抗関係については,平成6年18問イ肢(過去問)で出題されています。
エ × 遺言②についての記述が誤りです。遺贈(遺言①)は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,その効力を生じません(民法994条1項)。また,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言(遺言②)は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,遺言者がその推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生じません(同時存在の原則,最判平23.2.22)。遺言①の場合については,平成22年22問エ肢,平成8年20問エ肢,平成2年23問4肢(過去問)でそれぞれ出題されています。余談ですが,実務で,父Aが子BにC不動産を相続させる旨の遺言をしたところ,子Bが危篤状態となり,慌てて既存の遺言の内容を「子Bが父Aより先に死亡した場合には,子Bが相続すべきC不動産を孫D(Aと養子縁組済)に相続させる。」と変更したことがありました(子Bは死亡してしまいましたが,子Bの死亡前に遺言の変更を終えることができました)。

<解法のポイント>
「遺贈」(遺言①)の各場合については,条文でキチンと規定されていますので,条文知識さえあれば,正誤の判断は比較的容易だったものと思われます。「遺産分割方法の指定」(遺言②)の各場合については,直接これを規定した条文はなく,ある程度判例知識が必要だったかもしれません。もっとも,平成3年4月19日の最高裁判所判例はあまりにも有名で,受験生なら誰でも知っているはずです。大ざっぱな括りですが,遺産分割方法の指定=法定相続分または指定相続分の相続,と置き換えて考えることができれば解きやすかったのではないでしょうか(応用力)。正確な条文知識,受験常識応用力が求められた問題でした。もちろん,過去問の知識も必要です。
また,本問は,遺贈と相続との比較問題になっており,本試験の最近の傾向に沿うものです。このように,過去問で出題された比較問題(例えば,遺贈と死因贈与)については,ご自分なりに表などを作成するなどして,整理しておくとよいと思います。
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<商業登記法>(正解率 43.8 %)
第28問 株式会社の設立の登記に関する次のアからオまでの記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア 当該設立が募集設立である場合において,定款に設立時役員の定めがないときは,設立の登記の申請書には,議決権を行使することができる設立時株主の議決権の過半数を有する設立時株主が出席し,出席した当該設立時株主の議決権の3分の2以上の賛成により設立時役員が選任された旨の記載がある創立総会の議事録を添付しなければならない。
イ 定款に,出資される財産としてコンピュータ及びその価額として600万円と記載された場合において,その価額が相当であることについて公認会計士の証明を受けたときは,当該公認会計士が設立しようとする会社の設立時会計監査人であったとしても,設立の登記の申請書に,当該公認会計士が作成した証明書を添付して,設立の登記の申請をすることができる。
ウ 当該設立が発起設立であり,設立しようとする会社が監査役設置会社である場合において,出資として金銭の払込みがされたときは,設立の登記の申請書に,設立時監査役の作成に係る金銭の払込みがあったことを証する書面を添付して,設立の登記の申請をすることができる。
エ 設立の登記の申請書に,設立しようとする会社の本店の所在地を管轄する法務局又は地方法務局に所属しない公証人が認証した定款を添付して,設立の登記の申請をすることができない。
オ 当該設立が募集設立である場合において,定款に本店の所在場所の定めがないときは,創立総会の議事録に本店の所在場所を決議した旨の記載があっても,設立の登記の申請書には,本店の所在場所について発起人の過半数の一致があったことを証する書面を添付しなければならない。
1 アエ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 ウオ

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<かんたん解説と解答法><正解4>
エ ○ そのとおり(会社法30条1項,公証人法62条の2)。これは簡単です。受験生として常識的な知識ですね。実務経験のある方に有利な問題です。これは,知っていなければなりません。商業登記法というより会社法の知識です。
→ この肢が正しいことに気が付けば,消去法正解は1または4になりますね!
ア × 創立総会の決議要件(会社法73条1項)。これも,会社法の条文知識で解けます。創立総会の決議は,「議決権を行使することができる設立時株主の議決権の過半数であって,かつ,出席した当該設立時株主の議決権の3分の2以上の賛成」が必要です。正解できなかった人は,猛省願うと共に「創立総会の決議要件」を暗記しちゃってください。創立総会の決議要件については,昭和59年37問2肢(過去問)出題されています。
→ この2肢の判断により,正解は4になることがわかります。
イ ○ そのとおり。これに対し,設立時取締役または設立時監査役等の場合には,できません(会社法33条11項3号ほか)。やや,これも会社法の条文知識を問うものですが,細かい知識が必要ですね。
ウ × 設立時代表取締役の作成に係る書面でなければなりません(先例平18.3.31-782)。たとえ,監査役設置会社であっても設立時監査役の作成によることはできません。ちなみに,払込みがあったことを証する書面には,代表取締役が登記所に提出した印鑑を押印します(登記情報534P76)。
オ × 株式会社の設立登記の申請書に,本店の所在地番まで決議をした創立総会の議事録が添付されているときは,本店の所在場所について発起人の過半数の一致があったことを証する書面を添付することを要しません(先例昭40.5.24-1062参照)。創立総会は,株式会社の設立に関する事項をすべて決議することができる設立中の会社の最高の意思決定機関だからです(会社法66条)。

<解法のポイント>
 この問題は,商業登記の問題でありながら,会社法の条文知識で解ける問題です。それにもかかわらず,正解率は,予想外に低いのが気になります。手続法(商業登記法)を理解するには,その前提として,実体法(会社法)の知識が必要不可欠であることをあらためて認識させられる問題でした。
手続法の問題で間違えたときは,手続法の理解が足りなかったのか,実体法の理解が足りなかったのか,分析した上で復習すると効率的です。(司法書士 齋藤隆行)