【司法書士】
今年の本試験~気になる問題⑤


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


暑さが厳しい毎日が続いておりますが,皆様はいかがお過ごしでしょうか。
炎天下の外出や運動は極力避け,エアコンを適切に使用し,熱中症にならないように気をつけてくださいね。暑い夏を上手に乗り切りましょう。
今回も前回と同様,オートマ実行委員会Presents「平成29年度司法書士本試験分析会」で取り上げられた今年の本試験の問題について,引き続き紹介して参ります。

***************************************

<商法(会社法)>(正解率 80.1 %)
第34問 組織変更に関する次の1から5までの記述のうち,正しいものは,どれか。
1 組織変更をする株式会社の新株予約権の新株予約権者は,当該株式会社に対し,自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
2 組織変更をする合同会社は,債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨等の公告を,官報のほか,定款の定めに従い,時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法又は電子公告の方法によりするときであっても,知れている債権者には,各別にこれを催告しなければならない。
3 合資会社が組織変更をする場合には,組織変更後の株式会社は,組織変更後の株式会社の商号について,組織変更計画の定めに従い,株主総会の決議によって定款の変更をしなければならない。
4 組織変更をする合名会社は,組織変更計画備置開始日から組織変更がその効力を生ずる日までの間,組織変更計画の内容等を記載し,又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
5 組織変更後の持分会社は,組織変更がその効力を生じた日から6か月間,組織変更に関する事項を記載し,又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。

***************************************

<かんたん解説と解答法><正解1>
1 ○ そのとおり(会社法777条1項)。条文がほぼそのまま出題されています。正確な条文知識が活きる肢でした。
→ この時点で正解がわかりました。5肢のうち,もっとも短い肢から検討していくのも有効な解答方法(受験の鉄則)です。
2 × 官報のほか,定款の定めに従い,時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法または電子公告の方法によりする場合に,知れている債権者への各別の催告を省略することができるのは,持分会社のうち合同会社に限られます(会社法781条2項後段,779条3項)。これも条文知識です。
3 × 合資会社が株式会社に組織変更をする場合には,組織変更後の株式会社の商号は組織変更計画で定めることになります(会社法746条1項1号)。組織変更計画は組織変更前の合資会社の総社員の同意をもって承認します(会社法781条1項)。組織変更後の株式会社の株主総会の決議によって定めるわけではありません。これも条文知識!
4 × 持分会社が組織変更に当たって,組織変更に関する書面等の事前の備え置きをしなければならないという規定はありません。持分会社は小規模閉鎖的な会社形態であり,債権者など多くの利害関係人が存在する株式会社に比べ,これらの者を保護する必要性が少ないと考えられるからです。持分会社は,組織再編のための書面等の事前の備え置きは不要です(定理)
5 × 株式会社が組織変更をする場合の組織変更に関する書面等の事前備え置きの期間は,組織変更計画備置開始日から組織変更が効力を生じる日までの間です(会社法775条1項)。その効力を生じた日から6か月間ではありません。問題では,書面の事前備置きの終期を「組織変更が効力を生じる日まで」とするために,「組織変更後の持分会社は…」と表現していますが,本肢は株式会社の組織変更に関する書面等の事前備え置きについての問題です。これも条文知識です。

<解法のポイント>
本問では,基本的に条文問題でした(やや細かい条文まできかれていますが…)。条文を丹念に読んでいる受験生の方にとっては,解答は容易だったものと推測されます(正解率も80.1%と極めて高い)。このような問題に対処するには,いまさらですが,条文を丁寧に読んでおくことが必要です。また,模試など答練の問題で条文問題が出題されたときは,その復習作業では,解説をざっと読んで終わりにしてしまわないで,必ず,六法で開いて,出題された条文を確認し,目を通しておきましょう。この作業をするかしないかで,実力に大きな差がついていきます。

***************************************

<商業登記法>(正解率 71%)
第30問 取締役会設置会社における,株主に株式の割当てを受ける権利を与えないでする募集株式の発行による変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。
ア 定款に「当会社の株式を譲渡により取得するには,株主総会の承認を要する。」旨の定めがある会社が,募集株式を引き受けようとする者と総数引受契約を締結した場合には,募集株式の発行による変更の登記の申請書には,定款に別段の定めがあるときを除き,総数引受契約を承認した株主総会の議事録を添付しなければならない。
イ 出資の目的が金銭であり,募集株式の一部が自己株式である場合には,払込みがされた額の全額を増加する資本金の額とする募集株式の発行による変更の登記の申請をすることはできない。
ウ 出資の目的が金銭であり,募集株式の全部が新たに発行する株式である場合において,払込みがされた額の全額を資本金の額に計上するときは,募集株式の発行による変更の登記の申請書には,資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面の添付を要しない。
エ 会社法上の公開会社が発行する募集株式が譲渡制限株式である場合には,募集株式の発行による変更の登記の申請書には,定款に別段の定めがあるときを除き,募集株式の割当てについて決定した取締役会の議事録を添付しなければならない。
オ 会社法上の公開会社でない会社が株主総会による委任の決議に基づき取締役会で募集事項を決定した場合において,その決定の日が当該委任の決議の日から1年以内であるときは,払込期日又は払込期間の末日が当該委任の決議の日から1年を経過しているときであっても,募集株式の発行による変更の登記の申請をすることができる。
1 アイ   2 アウ   3 イエ  4 ウオ  5 エオ

***************************************

<かんたん解説と解答法><正解1>
イ ○ そのとおり(会社法445条1項,会社計算規則14条1項1号・2号・4号)。自己株式については,すでに払込みがなされ,その額が資本金の額に反映されています。そのため,自己株式について払い込まれた額を重ねて資本金の額に計上することはできません。本肢は,形式的には,条文問題ですが,受験常識(募集株式の発行の際の資本金等増加限度額から自己株式の処分金額を控除しなければならない)といってよいかと思われます。本肢も,商業登記法の択一式試験として出題されていますが,実体法(会社法)の知識で答えることが可能でしたね。
→ 短い肢から解く(受験の鉄則)を実践して,本肢の正誤がわかれば,正解1または3に絞れます。
エ ○ そのとおり(会社法204条2項)。公開会社には必ず取締役会を設置しなければなりませんので(会社法327条1項1号),募集株式が譲渡制限株式である場合,その割当てを決議する機関は,取締役会ということになります(会社法204条2項)。本肢も会社法の条文知識で正誤の判断が可能でした。
→ この2肢の判断だけで正解にたどりつきました。
ア × 本問は,取締役会設置会社についての問題ですので(問題文),総数引受契約を承認するための決議機関は,取締役会となります(会社法205条2項)。株式の譲渡承認機関が株主総会であるので,○と解答したくなるところですが,そこは,機械的に条文の規定に基づき判断しましょう。本肢も会社法の条文知識で正誤の判断が可能でした。
ウ × 募集株式の全部が新たに発行する株式である場合,出資の目的が金銭であって,払込みがされた額の全額を資本金の額に計上するときであっても,募集株式の発行による変更の登記の申請書には,資本金の額が会社法および会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面の添付を要します(商業登記規則61条9項)。募集株式の発行では,自己株式の処分をする可能性があり,登記官は,交付された株式のうちの自己株式の割合を資本金の額の計上を証する書面を用いて確認する必要があるからです(登記情報546・132参照)。なお,出資に係る財産が金銭だけの場合,通常の株式会社の設立の登記の申請書には,資本金の額の計上に関する書面の添付を要しない扱い(先例平19.1.17-91)と区別して押さえておきましょう。
オ × 募集事項の決定を取締役会に委任する旨の株主総会の決議(以下「委任決議」といいます。)に基づき取締役会で募集事項を決定した場合において,その決定の日が当該委任決議の日から1年以内であっても,払込期日または払込期間の末日が当該委任の決議の日から1年を経過しているときは,委任決議は失効します。したがって,当該決定に基づく募集株式の発行をすることはできません(会社法200条3項)。本肢も会社法の条文知識で正誤の判断が可能でした。

<解法のポイント>
この問題も,商業登記法の問題でありながら,会社法の条文知識で解ける問題です。実体法である会社法の条文知識が完璧なら,正しく解答できる問題が商業登記法の択一式の問題にはたくさんあります。商業登記法に苦手意識を持つ方は,会社法(特に条文)の学習を徹底的に行ってください。そうすれば,商業登記法の問題の正解率が格段にアップすることは間違いのないことです。