【司法書士】
今年の本試験~気になる問題⑥


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 猛暑が続いていたと思えば,東京では長雨となり,気温が低い日が続きました。東日本では,全般的に日照不足で,野菜類の価格の高騰が懸念されているとの報道です。
 体調管理が極めて難しい天候ですが,皆様それぞれご自分に合った方法で,この季節を乗り切ってください。
 今回も前回と同様,オートマ実行委員会Presents「平成29年度司法書士本試験分析会」で取り上げられた今年の本試験の問題(不動産登記記述式)について,引き続き紹介して参ります。スペースの関係で,問題文や解答例を掲載できませんので,お手数ですが,今年の本試験の問題(不動産登記記述式)をお手元にご用意いただきながら,お読みいただけると大変ありがたく存じます。

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第1欄(1)甲建物について1番目に申請した登記(所有権登記名義人住所変更)
 この登記自体は,それほど難しいものではありません。変更後の事項として記載すべき甲野一郎の住所のところを,単に「住所」ではなく,「共有者甲野一郎の住所」と書ければ十分です。また,答案作成に当たっての注意事項1(2)で,「申請人の住所は記載することを要しない」とありますが,登記事項の住所を記載することを要しないとの指示がないので,共有者甲野一郎の住所は省略できません(念のため)。

第1欄(2)甲建物について2番目に申請した登記(2番所有権更正)
 我々にとって,共同相続の登記後に遺産分割がなされた場合には,「年月日遺産分割」を原因とする持分全部移転登記を申請すべきこと(先例昭28.8.10-1392)は,学習の初期段階から耳にたこができるほど,講義その他で教わってきています(ほとんど「条件反射」ですよね)。
 ですから,まずは,相続放棄をした甲野三郎を除く他の相続人全員で遺産分割協議を行い(別紙3),「平成28年10月2日遺産分割」を原因とする「甲野一郎を除く共有者全員持分全部移転」の登記を申請するのだな,と考えるのが普通でしょう(筆者もそう考えたと思います)。
 ところが,問題文(答案作成に当たっての注意事項10)で「権利の移転の登記の方法によらずに」との指示があるので,移転登記を申請することはできません。また,ヒントと頼むべき登記原因証明情報(別紙4)も,肝心なところは,空欄になっており,この空欄に「事実又は法律行為ごとに箇条書きで記載するように」と指示されています(問1問題文)。つまり,どのような事実又は法律行為に基づいて申請すべき登記が生じたのか,与えられた問題文や別紙などを精査した上で,知識を駆使し,どのような登記を申請すべきかを1から自分の頭で考えて答えを出さなければならない鬼のような問題なのです。
 もっとも,別紙1を注意深く観察すれば,問題を解く鍵があることに気が付くはずです。それは,「甲区2番の所有権移転登記中の甲野三郎の持分の登記」です。甲区2番の所有権移転登記の受付年月日・受付番号は「平成29年5月23日第26555号」です(別紙1)。他方で,甲野三郎は,亡甲野太郎に係る相続の放棄をする旨の申述をし,平成28年12月19日,その申述は受理されています(事実関係2)。甲野三郎は相続人ではないのに,あたかも相続人であるかのような間違った登記がなされているわけです。ですから,なんらかの形で,「甲区2番の所有権移転登記中の甲野三郎の持分の登記」を登記簿から外さないと具合がわるいのです(現に効力のない登記にするといってもいいでしょう)。そうなりますと,甲区2番の所有権移転登記を錯誤によって更正する旨の登記を申請するか,あるいは,真正な登記名義の回復を原因とした甲野三郎持分全部移転登記を申請するかの2択になります。そして,先程述べたように「移転登記を申請することはできない」(答案作成に当たっての注意事項10)ので,甲区2番の所有権移転登記を更正する登記を申請しなければならないという結論に行き着くはずなのです。
 受験生の方の中には,「権利の移転の登記の方法によらずに」を「真正な登記名義の回復による権利の移転の登記の方法によらずに」と読み替えて,遺産分割による持分全部移転登記を申請した方がいらっしゃったようです。しかし,甲野三郎は相続の放棄によって相続人でなくなっていますから(民法939条),平成29年5月5日付けの遺産分割協議に加わることはできません。そのため,平成29年5月5日遺産分割を原因として,甲野一郎を除く共有者全員持分全部移転登記を申請することはできません。甲野三郎の持分の登記は,そもそも,実体のない登記であって,遺産分割を原因に甲野一郎に移転することはあり得ないのです。ここまで,遺産分割を原因とする持分全部移転登記を申請できると信じていたものの,ここで,「これはおかしいぞ!」と,遺産分割を原因とする持分全部移転登記を申請することに疑問を抱き,考え直して,甲区2番の所有権移転登記を更正する登記を申請しなければならないのだ,という結論にたどり着ければ大金星といっていいでしょう。急がば回れではありませんが,回り道をしてでも正解に達すればよいのです(筆者もコチラのタイプです。)。ここで,注意すべき点は,問題文は,先入観や思い込みなどで勝手に解釈してはいけないということです(深読みしすぎてもいけません)。問題文は,文字どおり,額面そのままで受け取り,それを答案作成の判断の材料としなければなりません。
 また,甲区2番の相続による所有権移転登記は,代位によりなされているため(事実関係4,別紙1),登記識別情報が通知されておらず,添付情報として資格者代理人による本人確認情報の提供を要することと(問題文),申請情報の記載事項として,「登記識別情報を提供することができない理由 不通知」と記載するのを忘れないようにしなければなりませんね。ここでも,登記事項の住所を記載することを要しないとの指示がないので(答案作成に当たっての注意事項1(2)参照),登記事項である所有者甲野一郎の住所は省略できません。
 なお,甲野次郎の持分の差押登記は,すでに抹消されていますので(事実関係5),差押債権者である財務省は更正登記の利害関係人にはなりません(質疑登研788P123)。

第1欄(3)(X)の欄に記載すべき事実・法律行為
 ここは,(2)で2番所有権更正登記を申請できた方なら,解答は容易だったと思います。①甲野三郎の相続放棄申述が家庭裁判所に受理されたこと,②残りの相続人で甲野一郎が当該不動産を取得する旨の遺産分割協議がなされたこと,しかし,③甲野三郎を含む相続人全員を名義人とする所有権移転登記がなされていること,④③の登記は当初より誤りがあるので更正登記を申請するという一連の流れが大筋で書けれていれば,十分合格点に到達するものと思われます。

第2欄(1)甲建物について1番目に申請した登記(1番抵当権変更)
 登記原因及びその日付については,この書き方(「平成28年10月2日連帯債務者甲野太郎の相続」)を知っていた方は稀でしょうし(登記インターネット7P138以下),本試験委員もそのことは重々わかっているはずですから,例えば「平成28年10月2日相続」「平成28年10月2日債務者甲野太郎の相続」等の記載でも,途中点をもらえるのではないかと思われます。
 登記事項としては,特別受益者である「甲野次郎」を書き,かつ,相続放棄をした「甲野三郎」を書かなければ,よしとしましょう。なお,答案作成に当たっての注意事項1(2)で,「申請人の住所は記載することを要しない」とありますが,登記事項の住所を記載することを要しないとの指示がないので,連帯債務者の相続人である甲野花子,甲野一郎,甲野次郎の住所は省略できません。また,甲区2番の相続による所有権移転登記は,代位によりなされているため(事実関係4,別紙1),登記識別情報が通知されておらず,申請情報の記載事項として,「登記識別情報を提供することができない理由 不通知」と記載するのを忘れないようにしなければならないのは,第1欄(2)と同じです。権利者である株式会社すみれ銀行会社法人等番号を書くのも忘れてはなりません(実務経験のある方が得をしましたね)。
 添付情報としては,本人確認情報(チ)の提供を要することと(問題文),第1欄(2)により甲野一郎の所有権の内6分の5については,登記識別情報(ス)が作成されることとなるので,これらを添付情報一覧から選択して記載します(チとスはセット。以下同じ)。また,この登記は抵当権の債務者変更についてのものですが,一部本人確認情報(チ)を提供しますので,甲野一郎の印鑑証明書(テ)の添付必要です(不動産登記令16条2項,18条2項,不動産登記規則48条1項5号,47条3号ロ,49条2項4号,質疑登研104P41参照)。さらに,この登記は共同申請ですので,亡甲野太郎につき相続が発生した事実,その相続人が甲野花子,甲野一郎,甲野次郎である事実が記載された私文書である登記原因証明情報を添付すれば,亡甲野太郎の戸籍の全部事項証明書等の提供は不要ですが,答案作成に当たっての注意事項3(5)の指示があるので,亡甲野太郎の戸籍の全部事項証明書等(添付情報一覧オ・カ)を提供しなければなりません。

第2欄(2)甲建物について2番目に申請した登記(1番抵当権変更)
 この登記は,1番目に申請しても受理されますが,試験問題の解答ですので,問題の指示(〔事実関係に関する補足〕4)に従い,2番目に申請しなければなりません。
 登記原因及びその日付についても,正しく書けた方は稀だと思われます。ここも,例えば「平成○年○月○日住所移転」「平成○年○月○日債務者の住所変更」程度書ければ,途中点をもらえるのではないでしょうか。
 登記事項は,権利者である株式会社すみれ銀行の会社法人等番号,申請情報の記載事項として,「登記識別情報を提供することができない理由 不通知」と記載することも忘れてはならないのは,第1欄(2)・第2欄(1)と同じです。
添付情報としては,ここでも,チとスはセットであることと甲野一郎の印鑑証明書(テ)の添付必要です(第2欄(1)と同じです。)。また,答案作成に当たっての注意事項3(5)の指示があるので,甲野一郎の住民票の写し(添付情報一覧コ)を添付しなければなりません。

第2欄(3)甲建物について3番目に申請した登記(1番抵当権変更)
 登記原因及びその日付については,「平成29年6月15日甲野花子,甲野次郎の債務引受」となります(先例平28.6.8-386,登記記録例411)。「平成29年6月15日連帯債務者甲野花子,甲野次郎の免責的債務引受」でも構いません(登記インターネット7P145)。これは,覚えていなくても,ある程度書けるところでしょう。
 登記事項は,免責的債務引受により債務者が甲野一郎1人になっても,「債務者」と書いてはならず,「連帯債務者」と書くことを要します(登記インターネット7P143,145)。理由は大変難しいので,本当は省略したいところなのですが,一応書いておきますと,判例は「連帯債務は,数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり,各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが,なお,可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで,債務者が死亡し,相続人が数人ある場合に,被相続人の金銭債務その他の可分債務は,法律上当然分割され,各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから(大決昭5.12.4,最判昭29.4.8参照),連帯債務者の一人が死亡した場合においても,その相続人らは,被相続人の債務の分割されたものを承継し,各自その承継した範囲において,本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。」と述べています(最判昭34.6.19)。そして,登記インターネットの解説では,「遺産分割されあるいは引受けられる債務というのは,連帯債務者の1人の相続債務です。連帯債務者の1人に相続が発生して,他の連帯債務者でもある相続人の1人が引受人となって他の相続債務を引き受けた場合であっても,他方の連帯債務にはなんらの影響が及ぶわけではありません。単に同一人が連帯債務者として併記されるに過ぎません。このように連帯債務は関連し結合していますが,当然に連帯債務者の数だけ独立していると解されていますので,更改契約が行われない限り,連帯債務が単独債務になることはありません。」とのことです(登記インターネット7P143)。つまり,連帯債務者2人のうち1人に相続が生じても,連帯債務は2本立てであり,相続や債務引受の結果,たまたま,2本立ての連帯債務者が同1人に帰しても,当然に単独債務になることはないということのようです(かなり難しいですよね!)。
 その他,連帯債務者の住所,権利者である株式会社すみれ銀行の会社法人等番号,「登記識別情報を提供することができない理由 不通知」と記載すること,添付情報のチとスはセットであることと甲野一郎の印鑑証明書(テ)の添付を忘れてはいけないことは同じです。これらの点は,最初に気が付くことが肝心です。最初から見落としたまま解答してしまうと,以後の各登記の申請でも何度も続けて減点をくらうことになるからです。

第3欄(1)甲建物について1番目に申請した登記(賃借権設定)
 この申請情報では,登記原因日付(設定日付)が一番悩ましいところでしょう。別紙6の賃貸借契約が締結された日付(平成29年6月26日)になるか(別紙6),賃貸借契約の存続期間の始期(平成29年6月30日)になるかということです。事例はやや異なりますが,似た例として,筆者は,実務で事業用定期借地権(借地借家法23条1項)の設定登記を申請したことがあります。本問のように,賃貸借契約が締結された日の後に存続期間の始期が来るケースだったので,法務局に登記原因日付と申請日について事前に相談に行きました。結論としては,登記原因日付(設定日付)は,契約締結の日となるが,存続期間の始期が到来しないと登記(仮登記を除く。)の申請はできないとのことでした。ですから,本問の賃貸借契約も「始期付賃借権設定契約」と解し,賃借権設定の登記原因日付(設定日付)は,契約締結の日(平成29年6月26日)とするのが素直な解答かと思われます(「民事法務134号」(法務省民事局第3課)に根拠があるようです。八方手を尽くしたが原典を発見できませんでした。申し訳ありません。冷汗。)。なお,申請日は,うまいことに平成29年6月30日になっていますね(問題文)。
 ここでも,添付情報としてチとスはセットであること甲野一郎の印鑑証明書(テ)の添付を忘れないようにしましょう(第2欄(1)(2)と同じです。)。また,登録免許税は,不動産の価額の1000分の10です(登税別表第1(3)イ)。

第3欄(1)甲建物について2番目に申請した登記(3番賃借権の1番抵当権,2番根抵当権に優先する同意)
 この登記の目的を正確に覚えている方は少なかったものと思われます。しかし,覚えていなくても,ある程度書けたのではないでしょうか。ここも,ある程度書ければ途中点をもらえると思います。
 登記原因の日付は,2番根抵当権の転根抵当者のもみじファイナンス株式会社の承諾が登記原因についての第三者の承諾となりますので(不動産登記令7条1項5号ハ),その承諾を得た日である平成29年6月30日となります。
 あとは,添付情報キの書き方とか,ニの提供を忘れないこと登記義務者の登記識別情報(セ・ソ)が必要になることと登録免許税は3000円(1000円×3,登録免許税法別表第1.1(9))になることがポイントでしょうか。
 最後に,あの本試験の異様な雰囲気の中,短時間のうちにこれだけのボリュームを有する不動産登記記述式を解答された受験生の皆様に敬意を表し,1人でも多くの方から秋の朗報をいただけることを切に願うしだいです。本当におつかれさまでした。