【司法書士】
今年の本試験~気になる問題⑦


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 暦の上では,立秋を迎えましたが,天気予報によりますと,再び平年並みあるいはそれ以上の暑い日がかえってくるとのことです。海の家,プール,ビアガーデン,アイス工場からエアコンなど暑ければ暑いほど売上が伸びる業界にとっては一安心といったところでしょうか。夏の暑さや冬の寒さが厳しければ厳しいほど,日本経済にはプラスになるようです。残暑は厳しそうですが,皆様も,工夫され,きたるべき学習の秋に備えて体調を整えてくださいね。
今回も前回と同様,オートマ実行委員会Presents「平成29年度司法書士本試験分析会」で取り上げられた今年の本試験の問題(商業登記記述式)について,引き続き紹介して参ります。スペースの関係で,問題文や解答例を掲載できませんので,お手数ですが,今年の本試験の問題(商業登記記述式)をお手元にご用意いただきながら,お読みいただけると大変ありがたく存じます。

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第1欄
【登記の事由】
特に難しい記載はありません。しいていえば,本店移転と支配人を置いた営業所の移転はセットとして同時申請することを忘れてはならないことです(商業登記規則58条)。多くの受験生の方はできるところですので,ここを間違えると厳しいでしょう。

【登記すべき事項】

 ここでは,「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容及び数の変更」がなされ,新たに譲渡制限付株式でない種類株式(乙種株式)を発行する旨の定款の定めが設けられたことにより,公開会社(会社法2条5号)になるというのが,最大の論点です。実際に,譲渡制限付株式でない乙種株式を発行していなくても公開会社になります。公開会社になるには,これまでの答練等では,株式の譲渡制限に関する定款の規定を廃止するとか,種類株式発行会社においていくつかある種類株式のうちの1つの種類株式の譲渡制限に関する定款の規定を廃止するといったケースがあったかと思いますが,このように,新たに譲渡制限付株式でない種類株式を発行する旨の定款の定めを設けるというケースは問われたことはなかったと思います(気が付きにくかったかもしれませんね)。
 そして,公開会社になることに伴い,取締役A・B・C(代表取締役A)および監査役Dが退任します(会社法332条7項3号,336条4項4号)。もっとも,その時点では法定の取締役の員数を欠くため,平成29年5月15日開催の定時株主総会で後任者が選任され,就任するまで,Aらは取締役としての権利義務を有することになります。
 そのため,公開会社になることに気が付かないと取締役A・B・C(代表取締役A)および監査役Dの退任時期を間違えてしまいます(具体的には,取締役A・B・C(代表取締役A)平成29年5月15日重任と記載してしまうことになるでしょう)。
 もっとも,ここに気が付かなかった受験生の方は多いと思われます。また,影響を受けるのが役員変更の日付と原因のところだけなので,現時点では,意外に点数の差がつかないのではないかという予想です(致命傷にはならないだろうということです)。
 なお,発行可能種類株式総数と発行可能株式総数とは,互いに何らの制約もないので,本問のように,発行可能種類株式総数(9000株)>発行可能株式総数(8000株)となっても差し支えありません(もっとも,発行可能株式総数を超えて発行済株式の総数を増加させることはできませんが)。また,「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」は,全体で一つの登記事項であるため,ある種類の株式の内容のみを変更した場合であっても,変更が生じていない種類の株式の内容も含め,変更後の「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」の全てを登記すべき事項として記載しなければなりません。
 登記の事由でも,申し上げましたが,本店移転のみ記載して,支配人を置いた営業所の移転を忘れる方がダメージは大きいと思います。なお,答練の答案の採点をしておりますと,「支配人を置いた営業所の移転」のところで,営業所の所在場所を書いていない答案が散見されますが,営業所の特定という意味で,営業所の所在場所の記載は重要です。
なお,本問では,支店と同じ場所に本店が移転していますが,このような本店移転もなんら問題はありません。

【登録免許税額】
 本店移転分として金3万円(登税別表第1.24(1)ヲ),役員変更分として申請件数1件につき金3万円(登税別表第1.24(1)カ),「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容及び数の変更」は登記事項変更分として申請件数1件につき金3万円となることは問題ないと思います。支配人を置いた営業所の移転分も登記事項変更分(登税別表第1.24(1)ツ)として申請件数1件につき金3万円となることに注意が必要ですね。つまり,合計は,金3万円(ヲ),金3万円(カ)および金3万円(ツ)の合計額である金9万円となります(金12万円は×です)。

【添付書面の名称及び通数】
平成29年3月11日開催の臨時株主総会及び普通株主を構成員とする種類株主総会には,W(議決権1200個)のみが出席し(別紙8の3,8の4),当該株主総会で議決権を行使することができる株主の3分の1以上の出席(議決権2400個のうち1200個)はあるものの過半数の出席はありませんが,定足数を軽減する旨の定款の規定(定款13条2項,14条2項,22条)がありますので,これらの規定によってこれらの株主総会は有効に成立しています。そのため,これらの規定が定款にあることを証明するため,定款の添付を要します(商業登記規則61条1項)。また,平成29年5月15日開催の定時株主総会の議事録には,取締役の退任に関する事実等の記載がないことから(別紙6参照),取締役の退任を証する書面の一部として,定款を添付することを要します(先例昭49.8.14-4637,昭53.9.18-5003参照参照)。
 また,第一電器株式会社は,種類株式発行会社であり(別紙1),株式(乙種株式)の種類の追加をする旨の定款の定めを設ける定款の変更をする場合において(別紙3),他の種類の株式(普通株式)の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは,原則として,当該種類の株式(普通株式)の種類株主を構成員とする種類株主総会の特別決議を経なければなりません(会社法322条1項1号イ,324条2項4号)。乙種株式の発行によって,普通株式の種類株主に損害を及ぼすか否かは,問題文・別紙等で明らかにされていませんが,乙種株式の内容として,「普通株式に先立ち年6%の剰余金の配当を受ける」旨が定められていますので,常識的に考えて,普通株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるものとして,普通株式の種類株主を構成員とする種類株主総会議事録の添付を要すると考えるべきでしょう。本試験で「損害を及ぼすおそれがあるか否か」(会社法322条1項柱書)を判断させる出題は初めてであり,難易度が高かったと思います。もっとも,別紙4で当該議事録が示されていますので,添付書面として記載することは難しくはなかったと思います。
 また,久しぶりに,取締役と代表取締役の就任を承諾したことを証する書面として,議事録の記載を援用させる出題がなされました(答案作成に当たっての注意事項2)。監査役については,席上その就任を承諾した旨の記載がないため(再任でないので援用するには,株主総会議事録にその住所の記載も必要),別途就任承諾書(別紙5)の添付が必要です(就任承諾書として議事録の記載を援用することはできません)。なお,監査役に選任されることを条件にあらかじめその就任を承諾することは差し支えありません(登記情報554P102,『実務相談株式会社法』3P35参照)。
 株主リスト(商業登記規則61条3項)については,平成29年3月11日開催の臨時株主総会で登記すべき事項となる議案が2つ,同日開催の普通株式の種類株主を構成員とする種類株主総会で登記すべき事項となる議案が1つ,平成29年5月15日開催の定時株主総会で登記すべき事項となる議案が2つあるので,原則どおり,5通添付するべきかと思われますが(先例),3通でも正解になるものと思われます(別紙8の3)。
 さらに,監査役Fは,再任ではなく,かつ,印鑑証明書を添付する場合にも該当しないので(別紙8の7),監査役Fの本人確認証明書(商業登記規則61条7項)を1通添付しなければなりません。なお,取締役は全員再任(取締役が権利義務を有する状態で再選され,就任した場合を含む。)なので本人確認証明書の添付は不要です。
 代表取締役Aも再任であり,平成29年5月15日付けの取締役会議事録には登記所に提出している印鑑が押印されているので(別紙8の7),印鑑証明書の添付を要しません(商業登記規則61条5項・4項後段カッコ書,6項ただし書)。
委任状の添付も忘れてはいけません(商業登記法18条)。

第2欄

【登記の事由】
 ここは,存続期間が満了して解散していることに気が付くかどうかがポイントですね。これに気が付かないと,解散と清算人及び代表清算人の就任の登記を書くことができないため,かなり不利になってしまうでしょう。もっとも,解散と清算人及び代表清算人の就任の登記を書かないと答案用紙があまりにスカスカなので,「何かおかしいな?」と疑い,再度問題文と別紙を精査して,解散と清算人及び代表清算人の就任の登記を申請すべきことを発見したという方もいらっしゃると思います(それでいいのです。筆者もこのタイプ)。実務上は,近年設立する会社で,わざわざ存続期間を定款に定めるところは99.9%ありませんので,実務経験のある受験生の方にとっては意外感があったかもしれません。
 存続期間の満了による解散の場合には,法定清算人(会社法478条1項1号)が就任しますので,解散前に取締役に変更が生じている場合には,法定清算人の就任の登記の前提登記として,取締役Bの死亡による取締役の変更登記も申請しなければなりませんでしたね(質疑登研457P121参照,437P66参照,先例昭49.11.15-5938参照)。
 また,清算株式会社が,支店を廃止することは差し支えありません(会社法482条3項1号)。受験生の方の中には,支店の所在場所に本店を移転したので(第1欄),支店廃止の登記を申請しなくてもよいと思われた方がいらっしゃったようですが,支店の所在場所に本店を移転しても当然にその支店は廃止になりません。支店の登記記録は閉鎖されますが(商業登記規則65条4項),それとは別に,支店廃止の登記申請が必要です。実務上も,本店の所在場所と支店の所在場所が同じ会社は少なくありません(都市銀行や信託銀行など)。
 清算人及び代表清算人の就任の登記の日付の記載を抜かしてしまった方は,猛省してください。

【登記すべき事項】

 ここでは,清算人と代表清算人の登記事項の違いに気をつけましょう(会社法928条1項1号・2号)。すなわち,登記すべき事項は,清算人は氏名のみ,代表清算人は,氏名および住所となります。
また,存続期間の満了による解散の日(当該存続期間の満了日(会社の成立日から満25年,すなわち,平成29年6月26日)の翌日(同年6月27日午前0時),先例平18.4.26-1110))になることもポイントです。単に,「平成29年6月27日解散」では,不十分で,「平成29年6月27日存続期間の満了により解散」と書きましょう。
また,支店を廃止するときは,たとえ支店が1個しかなくても,当該支店を特定するため,支店の所在場所の記載(支店番号でもよいです)が必要です。

【登録免許税額】

 役員変更分として申請件数1件につき金3万円(登税別表第1.24(1)カ),清算人に関する登記として申請件数1件につき金9000円(登税別表第1.24(4)イ),解散分として金3万円(登税別表第1.24(1)レ)です。また,支店廃止分は,登記事項変更分(登税別表第1.24(1)ツ)として申請件数1件につき金3万円となります。つまり,合計は,金3万円(カ),金9000円((4)イ),金3万円(レ)および金3万円(ツ)の合計額である金9万9000円となります。

【添付書面の名称及び通数】

 清算人の登記の申請書には,必ず定款を添付しなければなりません(商業登記法73条1項)。また,取締役Bの死亡を証する書面(死亡届,戸籍記載事項証明書,死亡診断書,法定相続情報一覧図の写し(不登規247,先例平29.5.18-84)など)の添付も必要です。支店の廃止は,支配人の過半数の一致をもって決定しますので,これを証する書面(商業登記法46条1項)の添付も必要です。委任状も忘れてはいけません(商業登記法18条)。なお,法定清算人の就任の場合,就任承諾書の添付を要しません。

第2欄 登記することができない事項及びその理由
支配人Eの辞任が登記することができない事項となります。
支配人Eの辞任日は,平成29年6月29日ですが(別紙9の2),本問の会社は,平成29年6月27日存続期間の満了により解散しています(別紙1)。清算株式会社に,支配人を置くことは差し支えありませんが(会社法482条3項1号),解散時の支配人(本問では支配人E)の登記は登記官の職権で抹消する記号が記録されます(商業登記法59条)。したがって,平成29年6月29日付けで支配人Eの辞任の登記を申請することはできないことになります。