【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 天候がすぐれない日が続いておりますが,受験生の皆様におかれましては,いかがお過ごしでしょうか。筆記試験の合格発表も間近になり,落ち着かない日々をお過ごしかと存じますが,こういう時こそ,粛々と学習を進めた人が勝ちです。
 今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
 なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-5イ】(最判昭33.6.14)
 契約の要素に錯誤があって無効であるときは,民法570条の瑕疵担保の規定の適用は排除される。
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 本件は,①Yの金銭による売買代金の支払義務の有無につき争いがあったが,YがXに対して金銭の支払いに代え,Y所有のジャムを市価でXに代物弁済として引渡すことを約する和解が成立した。しかし,②その後,代物弁済の目的物であるジャムが粗悪品であって市価に値しなかったことが判明したので,Xは,要素の錯誤を理由に当該和解契約の無効を主張し,当初の売買代金の支払いを求めたところ,③Yは,和解の確定効(注)の規定(民法696条)が錯誤無効の規定(民法95条)に優先すること,有償契約については瑕疵担保の規定(民法570条)が錯誤無効の規定に優先することを主張して争ったという事案です。(注)次の判例の解説を参照願います。
 最高裁は,争いの目的とならない事項(代物弁済の目的物であるジャムが粗悪品であって市価に値しなかったこと)につき和解契約の錯誤無効の主張を認め,また,錯誤により契約が無効になれば,契約が有効であることを前提とする瑕疵担保が問題になる余地はないとの判例(大判大10.12.15)を根拠にこのような判断に及んだものと思われます。
 なお,錯誤無効(民法95条)と瑕疵担保責任(民法570条)の規定はいずれも民法改正の対象となっています。

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【民法・平29-5ウ】(大判大6.9.18)
 和解の効力(和解の確定効,民法696条)に関する規定は,争いの目的とならない事項であって,和解の要素をなすものにつき錯誤があった場合は適用がない。このような場合には,錯誤無効(民法95条)の規定を適用すべきである。
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 和解の利点は,争いをやめること自体にあります。そのため,当事者双方が互いに譲歩して,いったん和解によって権利関係を決定させた以上は,後にたとえそれが真実の権利関係と異なることが判明したとしても,争いを蒸し返すことは認められません。これを「和解の確定効」といいます(民法696条)。そして,この和解の確定効の適用の範囲は,当事者が直接争いの目的とし,互譲して決定した事項(以下,「争いの目的となった事項」という。)に限られると解されています。例えば,XがYに対して負担する貸金債務の金額に争いがあり,互譲によってその債務の額を決定した後,その額とは異なる額を定めた借用証書あるいは領収証等が発見された場合であっても,和解の確定効によって,当事者はもはや錯誤無効(民法95条)を主張することはできません。
 これに対し,争いの目的となった事項以外の事項,すなわち,争いの目的とならない事項については,和解の確定効は及びません。そのため、当該事項であって,和解の要素をなすものにつき錯誤があった場合には,錯誤無効(民法95条)を主張することが許されます。前述の例で,XとYとが和解によって債務額を決定した後に,XのYに対する貸金債務が存在しなかったことが判明した場合には,和解について錯誤無効を主張することが許されます。
 このように,和解の確定効に関する規定は,争いの目的とならない事項であって,和解の要素をなすものにつき錯誤があった場合は適用がないため,このような場合には,錯誤無効(民法95条)の規定を適用すべきであるとの判断がなされたものと思われます。
なお,錯誤無効(民法95条)の規定は民法改正の対象となっています。

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【不登法・平29-12イ】(先例昭31.3.14-506,質疑登研85P40)
 抵当権設定契約書の利息の定めの一部として,「利率年○%。但し将来の金融状勢に応じ適宜変更できるものとする」のうち,但し以下の部分を登記することはできない。

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 抵当権設定登記の申請情報と併せて提供する登記原因証明情報に利息に関する定めがある場合には,必ず申請情報にこれを提供することを要し,提供されていない場合には,当該登記の申請は却下されます(先例昭42.3.24-301)。そして,利息に関する定めを登記するのは,最後の2年分の利息の優先弁済権を後順位担保権者等の第三者に対抗するためです。したがって,公示上の要請として,利息の定めは明確に登記されなければなりません。
 そこで,「但し将来の金融状勢に応じ適宜変更できるものとする」旨の定めの登記の可否が問題になります。この定めは,将来の金融状勢に応じて利息を変更することができる旨の一種の条件付契約と評価する余地があります。そのため,仮にこの定めの登記を認めると,利息を変更した場合にすべきである抵当権変更登記をすることなしに,その定めに第三者対抗要件を与えてしまうことになりかねません。その結果,将来利息が変更された場合に,変更後の利息が登記簿上不明確になり,公示上極めて不都合です。そこで,利息の定めとして,「但し将来の金融状勢に応じ適宜変更できるものとする」旨の定めを登記することはできない旨の先例が発出されたものと思われます。なお,この定めは登記することはできませんが,契約当事者間では有効です。

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【不登法・平29-12ウ】(先例平2.3.28-1147)
権利能力なき社団に属する土地について,社団名義で登記ができないために,その登記簿の表題部に社団の構成員(いずれも故人)が共有者として記録されている場合に,権利能力なき社団から当該土地を買い受けた買主は,共有名義人の相続人らを被告とする所有権確認の判決に基づき,自己名義の所有権保存登記をすることができる。
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 権利能力なき社団は,その名義で不動産を取得した場合であっても,当該社団名義の所有権の登記をすることはできません(先例昭23.6.21-1897)。そこで,この不動産については,当該社団を構成する個人全員の名義,または,当該社団の規約(構成員からの委託)により当該社団の代表者名義で所有権の登記をすることになります(先例昭28.12.24-2523参照)。この不動産は,当該社団の構成員に総有的に帰属するものと解すべきだからです(最判昭39.10.15)
 そのため,当該社団の所有の不動産(区分建物を除く。)につき当該社団の構成員名義で所有権の登記がなされている場合に,当該構成員が死亡したときであっても,相続による所有権移転の登記の申請をすることはできません(質疑登研459P98参照)。また,登記簿の表題部に社団の構成員が共有者として記録されている場合であっても,その相続人が自己の名義で所有権保存登記を申請することも相当ではありません(不動産登記法74条1項1号参照)。この不動産は,当該社団の構成員に総有的に帰属するものであって,構成員個人の遺産ではないからです(前記判例参照)。
 そこで,登記簿の表題部に権利能力なき社団のいずれも故人である構成員が共有者として記録されている場合に,当該社団から土地を買い受けた買主がどのような登記を申請すべきかが問題になります。前述のように所有権保存登記の申請適格者を定めた不動産登記法74条1項1号を根拠に相続人が所有権保存登記を申請することはできませんし,同条1項3号(収用によって所有権を取得した者)にも該当しません。残る申請適格者は,所有権を有することが確定判決によって確認された者(不動産登記法74条1項2号)しかいません。幸い、ここでいう判決は,所有権保存の登記を申請する者が所有権を有することが確認できる判決であれば,登記手続をすべきことを命ずる給付判決はもちろん,確認判決,形成判決その他どのような判決でも差し支えないとされています(大判大15.6.23,先例昭55.11.25-6757,質疑登研140P44)。また,判決理由中において,申請人の所有権を確認できる場合でも同様に差し支えないとされています(質疑登研170P101)
 本事例の買主は,社団の構成員である共有名義人の相続人らを被告とする所有権確認の判決を得ていますので,所有権を有することが確定判決によって確認された者(不動産登記法74条1項2号)として,所有権保存登記を申請することができるという結論に至り,本先例が発出されたものと思われます。

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【商登法・平29-28オ】(先例昭40.5.24-1062)
 株式会社の設立登記の申請書に添付された定款には,本店が最小行政区画まで記載されており,創立総会の議事録には,定款の変更の決議事項がなく,会社の本店の所在場所を何市何町何番地とする旨の決議をした旨が記載されている場合であっても,当該登記の申請書にその創立総会議事録が添付されていれば当該登記の申請は受理される。
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 一般的に,定款に本店の最小行政区画(例えば,「東京都新宿区」)までしか記載されていない場合,本店の具体的所在場所は,業務執行の決定として,発起人の過半数の一致により決定します。しかし,創立総会の議事録に,会社の本店の所在場所を何市何町何番地とする旨の決議をした旨が記載されている場合には,設立登記の申請書には,当該議事録を添付すれば足り,更に発起人の過半数の一致があったことを証する書面を添付することを要しません(本先例)。これは,創立総会は,設立中の会社の意思決定機関であり,株式会社の設立の廃止,創立総会の終結その他株式会社の設立に関する事項を決議することができるからです(会社法66条)。このような理由からの本先例が発出されたものと思われます。