【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


暑さ寒さも彼岸までといいます。心なしか,日の光や吹く風から秋の気配を感じるようになりました。学習の秋ともいいます。学習にとても適している季節ですので,効率よく学習してくださいね。
今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-5オ】(最判昭40.5.27)
相続放棄は家庭裁判所がその申述を受理することにより効力を生ずるものであるが,その性質は私法上の財産上の法律行為であるから,民法95条(錯誤無効)の規定の適用がある。

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 本件は,訴訟当事者が相続放棄は身分法上の行為であるから錯誤に関する民法95条の規定には適用がないという主張に対して,最高裁が,相続放棄は家庭裁判所がその申述を受理することにより効力を生ずるものであるが,その性質は私法上の財産上の法律行為であるから,民法95条(錯誤無効)の規定の適用があるとの判示をしたものです。民法95条の規定が適用されるには,原則として,法律行為の要素に錯誤がなければならず,法律行為の要素に錯誤があるとは,通常人を基準として,表意者において錯誤がなかったならばそのような意思表示をしなかったであろうと考えられ,それが一般取引上の通念に照らして至当と認められるときに限られると解されています。そのため,実際に,相続放棄において要素に錯誤があり,これを無効であると認められる例は少ないようです。家庭裁判所が十分調査した上で,受理した相続放棄が,錯誤無効の主張により頻繁に覆るようでは法的あるいは手続上の安定性が保てないということでしょう。例えば,Aの相続放棄の結果,Bの相続税がAの予期に反して多額にのぼったというようなことは相続放棄の申述の内容となるものでなく,単に動機にすぎないから,Aの相続放棄につき民法95条(錯誤無効)の規定の適用はないとされています(最判昭30.9.30)
なお,錯誤無効(民法95条)の規定は民法改正の対象となっています。

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【民法・平29-6ウ】(大判昭6.6.4,昭5.1.29)
主債務者が完成した時効の利益を放棄しても連帯保証人に対して何らの効力を及ぼすものではない。

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時効の利益は,あらかじめ放棄することができませんが(民法146条),時効完成後に時効の利益を放棄することは許されています(民法146条の反対解釈)。また,保証債務の性質上(付従性),主たる債務者について生じた事由,原則として,すべて保証人に効力が及ぶものと解されています。ただし,時効利益の放棄の効力は,相対的であり時効の利益を受ける者が複数いる場合,その1人が放棄しても,その効果は他の者に及びません(相対効)。例えば,主たる債務者が時効の利益を放棄しても,時効の援用の相対効から,保証人は消滅時効を援用することができます(大判大5.12.25)。これは,連帯保証の場合においても,同様です(本判例,大判昭5.1.29)。前記判例(大判大5.12.25)は,その理由として,「主たる債務者が時効利益を放棄した場合,その放棄が保証人に対してその効力を生ずる旨の規定がないだけでなく,時効の利益の放棄は,結局のところ抗弁権を放棄することに他ならないので,放棄者とその承継人以外の者に対してその効力を生ずるものとすることができない」と述べています(民法440条,458条参照)。以上のことから,主債務者が完成した時効の利益を放棄しても,時効利益の放棄の相対効から,連帯保証人に対して何らの効力を及ぼすものではないとの判断がなされたものと思われます。
なお,連帯保証人について生じた事由の効力についての民法458条の規定,相対的効力についての民法441条は民法改正の対象となっています。

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【不登法・平29-14ア】(先例昭46.12.11-532)
所有権移転仮登記がなされた後に,その仮登記名義人が,同物件について根抵当権を取得・登記している場合において,仮登記名義人の表示と根抵当権登記名義人の表示が登記上一致しているときは,根抵当権登記名義人は,当該仮登記を本登記にする際の「登記上の利害関係を有する第三者(不動産登記法109条1項)」に該当しないので,根抵当権登記名義人の承諾書の添付は要しない。なお,本登記をする場合には,当該根抵当権を職権で抹消できる。

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所有権に関する仮登記に基づく本登記は,登記上の利害関係を有する第三者(本登記につき利害関係を有する抵当証券の所持人または裏書人を含む。以下同じ。)がある場合には,当該第三者の承諾があるときに限り,申請することができることとされています(不動産登記法109条1項)。そして,登記官は,申請に基づいて仮登記に基づく本登記をするときは,職権で,当該第三者の権利に関する登記を抹消しなければなりません(同条2項)。ここでいう「登記上の利害関係を有する第三者」とは,仮登記に基づく本登記がされた場合に権利を害されることが登記記録上明らかな第三者をいいます。具体的には,仮登記後に登記された所有権移転の登記名義人,所有権移転(または移転請求権)の仮登記名義人,抵当権等の所有権以外の権利の設定,保存の登記または仮登記名義人がこれにあたります。そこで,本事案のように,所有権移転仮登記後に,その仮登記名義人が,同物件について根抵当権を取得・登記している場合,当該仮登記名義人は,当該仮登記を本登記にする際の登記上の利害関係を有する第三者に該当するかが問題になります。しかし,仮登記名義人は形式上仮登記後に登記された根抵当権者ですが,仮登記の本登記の登記権利者(当事者)でもありますので,登記上の利害関係を有する第三者には該当しないと解されています。このような理由で,所有権仮登記に基づく本登記を申請する場合の申請情報に併せて,仮登記名義人である根抵当権登記名義人の承諾書の添付は要しないとの先例が発出されたものと思われます。

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【不登法・平29-14イ】(先例昭32.2.2-210)
破産手続開始の登記がされている不動産につき,抵当権者が別除権を行使して抵当権を実行した場合において,競落による所有権移転の登記を嘱託するには,裁判所は,破産手続開始の登記の抹消をも嘱託すべきである。

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担保権の実行による競売がなされ,買受人が代金を納付したときは,裁判所書記官は,①買受人の取得した権利の移転の登記,②売却により消滅した権利または売却により効力を失った権利の取得もしくは仮処分に係る登記の抹消および③差押えまたは仮差押えの登記の抹消を嘱託しなければなりません(民事執行法188条,82条1項)。これらの規定の趣旨から,競落による所有権移転の登記と併せて破産手続開始の登記の抹消登記も嘱託されるべきものであると考えられるという照会について,そのとおりである旨の回答がなされたものです。破産手続開始の登記の抹消登記については,登記官の職権で抹消する旨の規定がありません。そのため,競落による所有権移転の登記のみが嘱託され,これが実行されてしまうと,破産手続開始の登記だけが登記記録上抹消されないこととなり,公示上不都合であることから,このような回答がなされたものと思われます。

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【商登法・平29-31エ】(先例平27.2.6-13)
新株予約権の無償割当てをする場合において,株主に割り当てる新株予約権の行使期間の末日が,株主及びその登録株式質権者に対する当該新株予約権の内容及び数の通知の日から2週間を経過する日前に到来するときであっても,新株予約権の行使期間の延長による変更の登記を申請することを要しない。

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株式会社は,新株予約権無償割当てがその効力を生ずる日(会社法278条1項3号)後遅滞なく,株主およびその登録株式質権者に対し,当該株主が割当てを受けた新株予約権の内容および数を通知しなければなりません(会社法279条2項)。そして,株主に対し,新株予約権無償割当てに係る通知がされた場合において,当該新株予約権についての新株予約権の行使期間の末日が,当該通知の日から2週間を経過する日前に到来するときは,行使期間は,当該通知の日から2週間を経過する日まで延長されたものとみなされます(会社法279条3項,236条1項4号)。
しかし,新株予約権の行使期間が延長されたものとみなされる場合であっても,当該行使期間の変更の登記を申請することを要しません(本先例)。新株予約権の行使期間が延長されたものとみなされるのは,当該通知が新株予約権の行使期間の末日の2週間前より遅れてされた株主に割り当てられた新株予約権に限られ(相対効),登記されている新株予約権の行使期間が一律に変更されるものではないからです。2週間という期間は,各株主に新株予約権の行使の準備をするために設けられていることから,割当通知が新株予約権の行使期間の末日の2週間前より遅れてされた株主に限り,新株予約権の行使期間を延長するものとみなせば足りるからです。なお,新株予約権の行使期間が延長された場合の登記の申請書の登記すべき事項では,行使期間の満了日以降の日で,新株予約権の行使による変更事項を記載することとなりますが,やむを得ないものと思われます。
また,新株予約権の行使期間が延長されたものとみなされた新株予約権の行使による変更の登記の申請書には,新株予約権の行使があったことを証する書面の一部として,新株予約権の行使期間が延長され,当該延長された行使期間内に新株予約権の行使があったことを確認することができる書面(具体的には,代表者の作成に係る証明書等)を添付することを要します(本先例)