【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例④


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 本試験の筆記試験の合格発表がありました。勝敗は時の運です。実力がありながら,惜しくも合格を逃した方も,捲土重来を期し,気持ちを入れ替えて,来年の合格を目指して再度チャレンジしましょう。この試験は,あきらめずにコツコツと努力を続ける人が必ず合格の栄冠を勝ち取ることができる試験です。あきらめが最大の敵です。
今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-6オ】(大判大8.12.26)
 債務の一部弁済は,債務の承認となり,時効の中断事由となる。

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 時効の中断事由である債務の承認(民法147条3号)は,要式行為ではありません。そのため,債務者の一定の行為が,債務の承認に該当するか否か判断することになります。判例は,時効完成前に債務者が債権者に対し,債務の一部を弁済した場合には,債務の承認の意思を表明したものとして,債権の全部について時効中断の効力が生じるとしています。債務者が債権の存在を認めて,当該債権が明らかになり,また,一部弁済等の行為をしたことにより,債権者が,訴訟その他取立て等の権利行使を控えたにもかかわらず,消滅時効の進行・完成を認めるのは不当だからです。なお,承認等により,時効が中断した場合であっても,中断した時から新たに進行し,さらに必要な期間を経過することによって,時効は完成します(最判昭36.8.31)
 民法147条は,改正により民法152条(承認による時効の更新)として整理されています。「時効の更新」とは,現行民法の「時効の中断」のことです。

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【民法・平29-7ア】(最判平17.3.10)
 抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても,抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり,その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる。

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 抵当不動産の不法占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使の可否については,「抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき」は,所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を抵当権者が所有者に代位して行使する請求(代位請求)することを認める旨の判例があります(最判平11.11.24)
 本件の事案では,占有者が所有者の使用収益権に基づく転借権を有するとみられる者(一応は適法)である点が異なります。抵当権は,本来,抵当不動産の交換価値(処分権)を目的とする権利であり,使用収益権までは及びませんので,当然には当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求権を行使することはできないものとも考えられます。しかしながら,抵当権設定後に,競売手続を妨害する目的で占有するに至った者であって,その占有により,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられる場合には,たとえ,それが適法な占有権限に基づくものであっても,これに対し,抵当権に基づく妨害排除請求権を行使することはできることを明らかにしたのが本判例です。
 また,本判例では,抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,当該占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができることをも認めました。しかし,抵当権者には,抵当不動産を使用収益する権利はないものとして,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではないとし,抵当権者による賃料額相当の損害については,これを認めませんでした。

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【不登法・平29-14ウ】(先例昭32.12.27-2440,質疑登研564P143)
 相続または会社合併による抵当権移転の登記未了のうちに,相続または会社合併後に弁済がなされた場合において,申請情報と併せて相続または会社合併を証する情報を提供したときであっても,抵当権移転登記の申請をしないで直ちに抵当権抹消の登記を申請することはできない。

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 登記義務者が権利に関する登記の申請人となることができる場合において,当該登記義務者について相続その他の一般承継があったときは,相続人その他の一般承継人は,相続その他の一般承継があったことを証する市町村長,登記官その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては,これに代わるべき情報)をその申請情報と併せて登記所に提供することにより,当該権利に関する登記を申請することができます(相続人による申請,不動産登記法62条,不動産登記令7条1項5号)。
 そこで,相続または会社合併後,相続または会社合併による抵当権移転の登記未了のうちに弁済がなされた場合において,申請情報と併せて相続または会社合併を証する情報(相続または合併を証する情報,不動産登記令7条1項5号)を提供したときに抵当権移転登記の申請をしないで,直ちに抵当権抹消の登記を申請することの可否が問題になります。相続人による申請をすることができる場合とは,被相続人または被合併会社が登記義務を有したまま,相続その他の一般承継が生じ,相続人または合併会社が,その登記義務を承継した場合をいいます。抵当権についていえば,抵当権者の生前または合併前に,すでに弁済等により抵当権が消滅しており,抵当権の移転登記ができないため,相続または合併を証する情報を提供して,相続人または合併会社が登記義務者として登記を申請しなければならない場合をいいます(質疑登研394P255)。したがって,相続または会社合併による抵当権移転の登記未了のうちに,相続または会社合併後に弁済がなされた場合において,申請情報と併せて相続または会社合併を証する情報を提供したときであっても,抵当権移転登記の申請をしないで直ちに抵当権抹消の登記を申請することはできません(本先例)。この場合には,相続人または合併会社が抵当権を取得した後,弁済により抵当権が消滅したため,いったん,相続人または合併会社を抵当権者とする抵当権移転登記後,相続人または合併会社を登記義務者として,抵当権の抹消登記を申請しなければなりません。このような申請方法が,実体上の権利変動を忠実に公示するという不動産登記制度の原則にかなうものとして,本先例が発出されたものと思われます。

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【商登法・平29-33エ】(先例平18.3.31-782)
 合同会社の資本金の額の減少の登記の申請書には,資本金の額が会社法及び計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面を添付することを要する。

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 合同会社においては,①損失のてん補(会社法620条),②社員の出資の価額を減少した場合の出資の払戻し(会社法626条),③社員が退社する場合の持分の払戻し(会社法611条)の場合に限り,資本金の額を減少することができます(会社法626条1項,会社計算規則30条2項)。そして,いずれの手続によって資本金の額の減少した場合であっても,資本金の額の減少の登記の申請書には,資本金の額が会社法および計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面を添付することを要します(商業登記規則92条,61条9項)。資本金の額が会社法および計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面の具体的な内容は次のようになります。
 ①の場合にあっては,零から資本金の額を減少する日における資本剰余金の額および利益剰余金の額の合計額を減じて得た額(零未満であるときは,零)(会社計算規則162条1号),資本金の額を減少する日における資本金の額(会社計算規則162条2号)を示す等の方法により, 減少する資本金の額が,資本金の額の範囲内で損失のてん補に充てるものとして定めた額(会社計算規則30条2項5号)を超えないこと(会社法620条2項)を確認することができる代表社員の作成に係る証明書がこれに該当します。
 また,②の場合にあっては,合同会社が社員に対して当該出資の払戻しにより払戻しをする出資の価額の範囲内で,資本金の額から減ずるべき額と定めた額(当該社員の出資につき資本金の額に計上されていた額以下の額に限る。会社計算規則30条2項2号)を示す代表社員の作成に係る証明書がこれに該当します。
 そして,③の場合にあっては,退社する社員の出資につき資本金の額に計上されていた額を示す等の方法により,当該社員の出資につき資本金の額に計上されていた額(会社計算規則30条2項1号)を確認することができる代表社員の作成に係る証明書がこれに該当します。
 いずれの場合においても,共通することは,合同会社の資本金の額の減少の登記の申請書に資本金の額が会社法および計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面の添付がなければ,登記官は減少する資本金の額が法令の規定により適法に計上されたか否か判断できないということです(必須の添付書面となります。)。
 なお,株式会社の資本金の額の減少による変更登記の申請書には,資本金の額が会社法および計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面の添付を要しません。株式会社の場合には,登記簿から減少する資本金の額が効力発生日における資本金の額を超えないこと(会社法447条2項),すなわち,減少後の資本金の額が法令の規定により適法に計上されたことを確認することができるからです。