【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例⑫


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 日に日に日が短くなり,寒さが増してきています。12月も目前ですね。
余談ですが,私は今,家庭裁判所の成年後見人候補者名簿に名前を掲載してもらうために,成年後見に関する研修をせっせと受けています。
今日,成年後見業務は,登記業務に続く司法書士の主要業務になっています(成年後見専業の司法書士もいます)。これからも高齢化の進展でますます司法書士等の職業後見人の需要が増えることが予想されています。

 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
 なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-13ア】(大判昭14.12.19)
 土地及びその上に存する建物の所有者が土地のみを抵当権を設定したときは,建物につき保存登記がなされていないときであっても,抵当権の実行による競売における土地の買受人は,建物のための法定地上権の成立を否定することはできない。

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 土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地または建物につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その建物について,地上権が設定されたものとみなされます(法定地上権,民法388条前段)。
土地とその上の建物が同一の所有者に属している場合には,所有者は,原則として,その土地につき自己のために建物所有を目的とする土地利用権の設定をすることはできません。
そのため,土地または建物のみに対して抵当権が設定され,後日抵当権の実行による競売が行われたときは,建物所有者は土地買受人に対して土地利用権を主張できず,また,建物買受人は土地所有者に対して土地利用権を主張できないことから,建物所有者あるいは建物買受人は,この土地から建物を収去して土地を明け渡さなければなりません。
このような事態は,建物の取毀しによる社会経済上の損失が大きく,また,土地または建物の一方に抵当権を設定した抵当権設定者と抵当権者の土地利用権の存続の意思と予期に反することになります。
そこで,これらの不都合を回避するため,土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属している場合において,土地または建物につき抵当権が設定され,競売により土地と建物の所有者が異なるに至った場合には,建物所有者(建物買受人を含む)のために法律上当然に地上権が成立するとみなすこととされています(法定地上権)。
 そして,法定地上権の成立には,抵当権設定時に土地の上に建物が存在することがその要件の1つとされています。
土地に抵当権を設定したとき, 既に土地の上に抵当権設定者所有の建物が物理的に存在していれば足り,建物につき所有権保存登記がなされていなかった場合にも法定地上権の成立は認められる
とされています(本先例,大判昭7.10.21)。
 土地に抵当権の設定を受けようとする者は,事前に土地の現地調査をして,土地の上の建物があることを認識し,この建物が誰の所有で,どのような土地利用権に基づいて建築されているかを調査するのが当然であり,仮に建物につき所有権保存登記がなされていなくても,法定地上権の成立を予定して土地の担保価値を評価することができるからです。
また,民事執行法の手続上も,執行官の現況調査(民事執行法188条,57条)および評価人の評価(民事執行法188条,58条)をもとに執行裁判所により物件明細書が作成され(民事執行法188条,62条),成立する法定地上権の概要がそれに記載されることになっており(民事執行法188条,62条3号),土地を買い受けようとする者に法定地上権に関する情報が提供されます。以上の理由から建物の所有権保存登記がなされていなくても,関係当事者に不測の損害を及ぼすおそれはないことから,このような判断が示されたものと思われます。
 なお,土地に抵当権を設定した当時,土地が更地であった場合には,その後,土地抵当権設定者が建物を建築し,次いで土地抵当権が実行されたときであっても,建物所有者のために法定地上権の成立は認められない扱いです(最判昭51.2.27ほか)

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【民法・平29-13イ】(大判大3.4.14)
 民法388条の抵当権の実行には,抵当権の実行による競売だけではなく,抵当権者でない一般債権者の申立による強制競売があった場合をも含む。
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 土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地または建物につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その建物について,地上権が設定されたものとみなされます(法定地上権,民法388条前段)。
この抵当権の実行による競売には,抵当権者でない一般債権者の申立による強制競売をも含みます(本判例)。
したがって,①抵当権設定当時土地の上に建物が存在すること,②抵当権設定当時土地と建物とが同一の所有者に帰属していたこと③土地と建物の一方または双方の上に抵当権が存在すること,④競売が行われて土地と建物の所有者が異なるに至ることという法定地上権が成立するためのすべての要件を満たしている場合には,一般債権者の申立による強制競売により土地と建物の所有者を異にするに至ったときには法定地上権は成立します。
法定地上権を成立させる必要性は,抵当権の実行による競売の場合と異ならないからです。

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【不登法・平29-19オ】(昭34.9.15-2067,質疑登研258P74)
 被相続人が売渡した不動産について,その登記申請義務は,相続人全員(相続を放棄した者を除く。)が登記申請義務を負うべきであるから,遺産分割によって登記申請義務を一部の相続人に負わせることはできない。
また,民法938条によって相続人が相続の放棄をした場合には,被相続人が売渡した不動産について,その登記の申請義務は負わない。
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 売買による所有権移転登記が未了のまま売主が死亡した後,買主が売主の共同相続人と共に所有権移転登記を申請するには,売主の共同相続人全員が登記義務者となります(昭27.8.23-74)。売主の登記申請の義務が不可分的に共同相続人全員に帰属するからです。
そして,この売主の登記申請の義務は,遺産分割によっても一部の相続人に負わせることはできません(本先例)
しかし,相続人が相続の放棄をした場合には,売主の登記申請の義務を承継しません(本先例,質疑登研258P74)。
相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなされるから
です(民法939条)。
 したがって,Aに子B,C及びDがおり,Aの相続開始後Cが相続を放棄したが,Aが生前に甲不動産をEに売却していた場合において,売買を登記原因としてAからEへの所有権の移転の登記を申請するときは,B,D及びEが共同してしなければなりませんが,相続を放棄したCは申請人となりません。
 なお,本件の事例において,特別受益者(民法903条)がいる場合には,当該特別受益者は売主の登記申請の義務を承継します(質疑登研265P70)。特別受益者には相続分はありませんが,相続人ではあることに変わりはないからです。

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【不登法・平29-20ア】(質疑登研672P177)
特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がされた場合において,当該不動産について,相続人の1人又は第三者により不実の登記が経由されるなど,遺言の実現が妨害される事態が生じた場合においては,遺言執行者は,当該登記の抹消登記手続又はこれに代わる移転登記手続を求める訴えを提起することができ,さらに,これを認容する判決書の正本を申請情報と併せて提供して単独で所有権の抹消登記又は真正な名義回復を原因とする所有権移転登記を申請することができる。
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 特定の不動産を「相続人Aに相続させる」旨の遺言に基づくAのための相続を原因とする所有権移転登記の申請は,相続人Aがすべきであって,遺言執行者からはすることができません(質疑登研523P140)
このような遺言がされた場合には,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,遺言者の死亡により直ちに当該物件がAに相続により承継されたものと解すべきであり(遺産分割の方法の指定,最判平3.4.19),また,登記実務上も,相続させる遺言については不動産登記法62条によりAが単独で登記申請をすることができますので,当該不動産が被相続人名義である限りは,遺言執行者の職務は顕在化せず,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しません(最判平7.1.24)
ただし,特定の不動産を特定の相続人Aに相続させる旨の遺言がなされている場合において,Aへの所有権移転登記がされる前に,他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため,遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には,遺言執行者は,遺言執行の一環として,右の妨害を排除するため,右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ,さらには,甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当であるとされています(最判平11.12.16)
この場合,遺言執行者は,当該登記の抹消登記手続またはこれに代わる移転登記手続を認容する判決書の正本を申請情報と併せて提供して,単独で所有権の抹消登記または所有権移転登記を申請することができます(本先例)