【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例⑯


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 新年早々ですが,受験生には盆も正月もないという意気込みでがんばっていきましょう。
 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
 なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-16ウ】(最判昭41.9.8)
 他人の権利を目的とする売買の売主が,その責に帰すべき事由によって,当該権利を取得してこれを買主に移転することができない場合には,買主は,売主に対し,民法561条後段の規定の適用上,担保責任としての損害賠償の請求ができないときでも,なお債務不履行一般の規定に従って損害賠償の請求をすることができるものと解するのが相当である。

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 本件の事案は,売主Aと買主Bとの間で第三者C所有の土地を目的として売買契約が締結されたが,本件売買契約の当時すでに買主Bは当該土地の所有権の売主Aに属しないことを知っていた場合において,売主Aが当該土地の所有権を取得してこれを買主Bに移転することができなくなったため,履行不能となったというものです。
 この場合,買主Bは,本件売買契約の当時すでに買主Bは当該土地の所有権の売主Aに属しないことを知っていたことから,民法561条前段の規定に基づいて本件売買契約を解除しても,同条後段の適用によって,売主の担保責任としての損害賠償請求をAにすることはできません。
 しかし,最高裁は,「そのような場合であっても,履行不能が売主の責に帰すべき事由によるものであれば,買主は,売主の担保責任に関する民法561条の規定にかかわらず,なお債務不履行一般の規定(民法543条,415条)に従って,契約を解除し,損害賠償の請求をすることができるものと解するのを相当とする」と判示しました。

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【民法・平29-16エ】(大判大2.5.12)
 民法543条にいわゆる履行不能は必ずしも物理的不能を意味せず,債務の履行が物理的にはなお可能性を失わない場合でも,取引上の観念において不能視すべきものであるときは,本法上不能といって差し支えない。
売主が売買の目的物を第三者に譲渡した場合には,買戻しその他の方法により第三者から目的物の所有権を回復してこれを買主に移転することが可能である場合でない限り,売主の所有権移転の義務は履行不能の状態にある。

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 本件の事案は次のとおりです。「Aは,Bから土地建物を買い,代金の一部を支払っていたが,Bは,さらに当該土地建物を訴外Xに売り渡してしまった。そこで,AはBに対し,所定日時までに残代金を受領すると同時に所有権移転登記手続をするよう催告し,その履行がないので契約を解除し,損害賠償を請求した。
 これに対し,Bは,当該土地建物を他に売却しても,これを買戻してさらにAに移転することができるから,訴外Xへの当該土地建物の売却は必ずしもBとの契約は履行不能とはならない。そのため,Aの解除の意思表示が効力を生じるためには,A自身残代金を提供しなければならないと主張した。」

 裁判所は,「売主が自己の土地建物を買主に売渡した後,当該土地建物を第三者に譲渡しその所有権を第三者に移転したときは,買戻しその他の方法により第三者から目的物の所有権を回復してこれを買主に移転することが可能である場合でない限り,買主に対してその所有権を移転すべき売主の債務は,履行不能の状態に陥る。そして,民法543条にいわゆる履行不能は必ずしも物理的不能を意味せず,債務の履行が物理的にはなお可能性を失わない場合でも,取引上の観念において不能視すべきものであるときは,本法上不能といって差し支えない。」とAの主張をしりぞけ,「本件の事情のもとでは,売主Aの義務はAの責に帰すべき事由によって履行不能となったものであるので,Bは代金を提供して履行の催告をすることなく,当然に契約を解除する権利を有するので,Bのした契約解除は有効であり,損害賠償の請求も正当である」と判示しました。
 つまり,不動産の二重譲渡の場合の場合において,第三者に対する所有権の移転の登記がされたときは,売主の買主に対する債務は一般取引通念上履行不能となり(本判例),買主はこれを理由として契約を解除でき(民法543条本文),また,この場合,売主に帰責事由(履行拒絶の意思が明白であること)が認められますので,買主は解除権行使の前提として売主に催告することを要しないこととなります。

 なお,「買戻しその他の方法により第三者から目的物の所有権を回復してこれを買主に移転することが可能である場合」とは,買主にために順位保全の仮登記がなされている場合(大判大11.12.2)や第三者と売主との間に買戻契約がある場合(本判例,大判昭3.12.17)などがあげられます。

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【不登法・平29-22ウ】(質疑登研487P167)
 他の登記所の管轄に属する要役地について,区画整理事業の施行あるいは国土調査の成果等により町名・地番に変更があった場合の承役地についてする地役権変更登記(要役地表示変更)は,要役地の登記事項証明書を提供して,地役権者と承役地の所有権等の登記名義人の共同申請によるのが相当である。

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 権利に関する登記の申請は,法令に別段の定めがある場合を除き,登記権利者及び登記義務者が共同してしなければなりません(共同申請の原則,不動産登記法60条)。 他の登記所の管轄に属する要役地について,区画整理事業の施行あるいは国土調査の成果等により町名・地番に変更があった場合の承役地についてする地役権変更登記(要役地表示変更)については,これを単独で申請することができる旨の法令に別段の定めはありません(不動産登記法62条~65条ほか参照)。
 したがって,地役権変更登記を地役権者単独で申請することはできず,地役権者と承役地の所有権等の登記名義人の共同申請によるべきであるとされています。

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【不登法・平29-22エ】(昭44.6.17-1214)
 農地の現況を変更することなく,その地下に工作物(水道管,地下送電線など)を設置することを目的とする地上権または地役権を設定するには,農地法3条1項又は同法5条1項の規定による許可を要する。

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 本先例は,農地の地下に水道管,地下送電線あるいは地下鉄などを通すための(区分)地上権または地役権を設定する場合であっても,農地の現況を何ら変更することがないときには,実質的には,農地法3条または同法5条の規定に抵触しないと考えられることから,当該農地法の許可を要しないのではないかという照会に対してなされた回答です。
 農地または採草放牧地について所有権を移転し,または地上権,永小作権,質権,使用貸借による権利,賃借権もしくはその他の使用および収益を目的とする権利を設定し,もしくは移転する場合には,政令で定めるところにより,当事者が農業委員会の許可を受けなければならないこととされています(農地法3条1項)。また,同条2項では,区分地上権も許可を要する権利の設定になるものとされています。
 そのため,たとえ(区分)地上権または地役権を設定は,農地の現況を何ら変更することがない場合であっても,形式的には,農地法3条の許可を要する権利の設定に該当することになります。また,登記官の形式審査においては,これらの権利を設定した結果,農地の現況がどうなるのかということは添付情報上明らかではありません。したがって,このような先例は発出されたものと思われます。

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【不登法・平29-22オ】(昭36.4.4-812)
 要役地と共に移転しない旨の特約(民法281条1項ただし書)の存する地役権の要役地について所有権が移転した場合の承役地の地役権の抹消の登記の申請は,承役地の所有者を登記権利者,要役地の所有者を登記義務者として共同して申請しなければならない。

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 要役地と共に移転しない旨の特約(民法281条1項ただし書)の存する地役権の要役地について所有権が移転した場合には,地役権は当然に消滅します。そこで,承役地になされた地役権の登記を抹消しなければなりません。
 権利に関する登記の申請は,法令に別段の定めがある場合を除き,登記権利者及び登記義務者が共同してしなければなりません(共同申請の原則,不動産登記法60条)。
 そして,要役地と共に移転しない旨の特約(民法281条1項ただし書)の存する地役権の抹消の登記を単独で申請することができる法令の別段の定めはありません。したがって,承役地の地役権の抹消の登記の申請は,承役地の所有者を登記権利者,要役地の所有者を登記義務者として共同して申請しなければなりません。
 なお,要役地が他の管轄区域内にあるときは,申請情報と併せて当該要役地の登記事項証明書を提供しなければなりません(本先例,不動産登記令別表37添付情報ロ)
 この場合の登記原因およびその日付は,「年月日要役地の所有権移転」です(登記記録例290)