知っ得!身近な法律Q&A

酔った勢いでの悪ふざけは
犯罪になるの?(前編)

司法試験 /弁護士編②

Q.問題

Vが「X!俺が悪かった!俺を殴れ!」と言ってきたので、
XがVを殴ったところ、Vが失神してしまった。
この場合、犯罪になるの?

今回の回答者

中村 充(なかむら みつる)

開成中高卒→東大法学部卒→現在弁護士。徹底した試験至上主義から辿り着いた絶対的過去問主義に基づき、中学・大学受験、司法試験を突破してきた。その中で培われた受験テクニック・過去問分析手法は他の追随を許さない。

司法試験においても、予備試験・法科大学院入試から新旧司法試験に至る全過去問が、頭の中にデータベース化されている。このデータベースに基づいて、あらゆる法的問題に通用する普遍的な方法論・4段階アルゴリズム(4A)を完成させた。

A.回答

今回も、4段階アルゴリズム(4A)を使って、順序立てて具体的に考えていきましょう。
4Aとは、

  1. ①当事者確定:「ケンカしているのは誰と誰なのか?」を定める
  2. ②言い分:①の当事者の立場に立って、「相手に対してケンカを売る」
  3. ③法的構成:②の言い分を「実現できる条文」を探す
  4. ④あてはめ:③の条文の一言一句に「問題文の具体的事情を“代入”」する

という、あらゆる法的問題に通用する処理手順です。
今回はなかなか熱血な事例ですね。問われているのは、犯罪になるのかということなので、刑事事件となります。この時点で、対立する「①当事者確定」ができるのですが、今回は、Vの代わりに当事者になる人がいます。ドラマ等の刑事事件の法廷の場面では必ず出てくる…

そう、検察官Pvs犯罪っぽい行為をした人(本問ではX)の対立という形で当事者が確定されます。検察官だけが、犯罪っぽい行為をした人を起訴して裁判にできるからです。
では、「②言い分」に行きましょう。まず、検察官が、犯罪っぽい行為をした人に対し、「お前のやった行為は犯罪だ(から、刑罰を科されるべきだ)!」という言い分をぶつけます。
さて、Xの犯罪っぽい行為は…もちろん、Vを殴った行為ですね。

そして、「③法的構成」では、XがVを殴った行為が犯罪だという言い分を実現できる条文を探すため、刑法という法律の「第2編 罪」の目次=犯罪リストを見ていきます。
まず、犯罪は大きく、国・社会・個人に対する犯罪と3種類に分けられるのですが、今回はどれに対する犯罪でしょうか?…XがVを殴った行為を検討しているので、Vという個人に対する犯罪と考えられますよね。

個人に対する犯罪は、刑法の「第2編 罪」の第26章あたりから条文があります。
そのタイトルを見ていくと、第26章が殺人の罪、第27章が傷害の罪、第28章が過失傷害の罪と続いていきます。さて、XがVを殴った行為は、この3択だとどれっぽいですか?
…Vは失神しただけなので、殺人の罪ではなさそうですね。そこで、次の「第27章 傷害の罪」から見ていきましょう。

個人に対する犯罪はだいたい第26章~

個人に対する犯罪はだいたい第26章の表

その一番最初の204条の前半には、「人の身体を傷害した」という犯罪が書いてあります…XがVを殴っ(て失神させ)た行為って、これっぽくないですか?そう思ったら、とりあえず204条で法的構成して、「④あてはめ」にいきましょう。
まず、「人」には、Xが殴ったVしかあてはまりようがありませんね。
そのVの「身体を傷害した」、これにあてはまるでしょうか?XはVを殴って失神させましたが、Vの「身体を」「傷」つけて「害した」といえるでしょうか?…パッと見、Vの身体が傷ついたという事情はありませんが、ミクロの世界では、毛細血管が傷ついたりはしているかもしれません。
このように、「④あてはめ」で迷うことがあったら、その条文の文言を“解釈”(言い換えて明確化)します。日常生活では最もお手軽なのが、ネット検索です(試験現場ではできませんが)。例えば、“刑法204条 身体を傷害”といった言葉で検索して出てきたサイトをいくつか見てみると、“生理的機能障害”とか“生活機能の毀損即ち健康状態の不良変更”(明治45年6月20日の判例)といった解釈結果がいくらでも見つかります。これに改めて、Vの失神をあてはめてみると…Vの意識という“生理的機能”に“障害”が生じていますし、これが続けばVは“生活”していけませんし、失神前より“健康状態が不良に変更”されたといえます。
とするとXは、「人の身体を傷害した者」にあてはまりました。とりあえず、検察官のターンはここまでです。

今度は、Xの立場から冒頭の事例を見直して、何か「②言い分」が考えられないでしょうか?

…Xとしては、「Vが『俺を殴れ』と言ってきたから殴っただけだ!こんなの犯罪じゃない!」という感じで反論したくなりません?熱血なVに言われたとおりにしないと、面倒なことになりそうですし。では、この言い分を実現する「③法的構成」を考えていきましょう。

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