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酔った勢いでの悪ふざけは
犯罪になるの?(後編)

司法試験 /弁護士編②

刑法における4段階アルゴリズム(4A)の具体化

刑法における4段階アルゴリズム(4A)の具体化の表

今度は、刑法の「第1編 総則」を見ます。「こんなの犯罪じゃない!」という言い分を実現できる条文(“犯罪成立阻却事由”と呼びます)が、その中の「第7章 犯罪の不成立及び刑の減免」(35~42条)にあるからです。
そのうち、最初の35~37条に現れているのが、“違法性阻却事由”(犯罪っぽい行為の違法性・悪さを否定する事由)と呼ばれるものです。
ただ、35条からではなく、明確に判断しやすい36条→次の37条→最後に最も守備範囲の広い35条という順に検討します。
まず、36条のタイトルは「正当防衛」ですが、まずは簡単にこれに「④あてはめ」てみると、XがVを殴った行為は、「正当」な「防衛」行為でしょうか?…特に何かを守る感じでもないですから、ちょっとこれは使えなさそうです。 次に、37条のタイトル「緊急避難」にもあてはめてみると、XがVを殴った行為は「緊急」時に「避難」する行為という感じもしませんよね。

最後に、35条のタイトルは「正当行為」=正しい行為…これはあまりにも漠然としていてあてはめようがないので、タイトル以降の文言を見ると、「法令又は正当な業務による行為」と書いてあります。これに、XがVを殴った行為があてはまるでしょうか?…まず、殴ることを認める「法令」がないことは想像つきますよね。また、XとVがボクシング等の試合をしているといった事情もありませんから、「正当な業務による行為」ともいえません。
とするとこれも使えないので、やっぱりXがVを殴った行為は、違法性が阻却されず“悪い行為”なのか。
…この世では、様々な事件が起こります。刑法を作ったとき(ベースは明治40年!にできました)には想定していなかったけど、違法性を阻却してあげないとかわいそうな事件も起こるわけです。そのような事件にも対処するため、35~37条以外でも、社会的に相当な行為≒“社会常識”的に「まあそのくらいはいいんじゃないの」といえる行為については、違法性が阻却されると考えるのが一般的です。
さて、今回の事例は、皆さんの中の“社会常識”的に「まあそのくらいはいいんじゃないの」といえる感じがするでしょうか?

害罪の被害者Vが、自分が悪かったから、その代償としてXが自分を殴ることをOK・同意していたわけです。この状況でXがVを殴るのは、“社会常識”的に「まあそのくらいはいいんじゃないの」といえないでしょうか。
確かに、Vが失神した後、ずっと意識が戻らない…となったらそうはいえないかもしれませんが、そういった事情もありませんし。
それに、こういう熱血シチュエーションって、青春系のドラマ・映画・小説・漫画等どこかで見たことがありません?
となると、多くの方の直感として、「こんなのが犯罪になるの?そのくらいはいいんじゃないの?」と思うんじゃないでしょうか。
そうだとすると、XがVを殴った行為は、“社会常識”的に「まあそのくらいはいいんじゃないの」といえるので、その違法性が阻却されます。

以上から、XがVを殴った行為は、204条(傷害罪)の文言にあてはまったのですが、同罪の成立が阻却されたので、204条の後半の「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」という範囲内での刑罰も科されないことになりました。

というわけで、今回はXの勝ち…つまり、Xは無罪です。

まあ実務的には、この程度の事件なら、Xが警察に事情聴取されるくらいはあるかもしれませんが、逮捕されるとか、検察官Pに起訴されるといったところまではいかない(その前に無罪だということが判明する)はずですけどね。
このように、刑事事件でも、自分のやってしまったことは犯罪になるのかどうか等を自分で判断できれば、警察に逮捕されるんじゃないか、検察官に起訴されるんじゃないか等と不安を抱えたまま過ごすこともなくなるわけです。
そのためにも4Aを使って、自力で、自分自身や家族等の親しい人たちの身を守る力をつけていただきたいと思っています。

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