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飲食店で勝手に充電(後編)

司法試験 /弁護士編③

この不法行為の土台となるのが、一番最初の709条です。特殊不法行為(714~719条)を使うケースでも、まずは709条から使っていくので、とりあえず法的構成が決まりました。
そこで、この709条の「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」という文言に、事例の具体的な事情を「④あてはめ」ていきましょう。

まず、「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者」(加害者)に、Yがあてはまるでしょうか? 被害者=「他人」にはCがあてはまりますね。ただ、Yがスマホを勝手に充電したことが、Cの「権利又は法律上保護される利益を侵害した」といえるでしょうか? ここではまず、Cが「侵害」されたものは「権利」といえるかを検討するのですが、電気(代)「権」といった言葉は聞いたことありませんよね…というときは、とりあえず電気代分の「利益」という感じであてはめればいいのです。これは、「法律上保護される」=何らかの条文で守られている「利益」でなければいけませんが、民事でよく使える条文として、憲法29条1項「財産権は、これを侵してはならない。」というのがあります。電気(代)は「財産」といえますから、それについての「権」利が守られていることが読み取れますね…あれ? そうすると、Yは、Cの電気(代)についての「財産権」という「権利~を侵害した者」となりますか。このような、「権利」に当たらなそう→「利益」を「保護」する「法律」を探す→実は「権利」に当たることに気づくというプロセスも、よくあります。
次に、YがCのこのような「権利を侵害した」のは、「故意」=わざと・あえて、又は「過失」=ミス「によって」でしょうか? …Yは17歳の高校生ですから、勝手に充電したら、Cの電気(代)を奪って「侵害」することは分かっていたはずですよね。とすると、「故意~によって」にあてはまります。
最後に「これによって生じた損害」にあてはまる事情は…電気代ですね。賠償請求する「損害」には“電気”ではなく、電気“代”というお金に換算できる事情をあてはめなくてはいけません。

以上から、Cの言い分は、民法709条で実現できそうです…が、まだ勝負は決まっていない。Yから何か反論がないでしょうか。Yの立場に立って、Yになりきって、感覚的に。

実際、この事例を見たとき、チラリとこんなふうに思いませんでしたか、皆さん。私も、17歳の高校生の頃なら、こういうふうに思ってしまったかもしれません。
この反論は通るのでしょうか。上記反論を踏まえて、まずC側の「④あてはめ」にツッコミを入れられないか、考えてみましょう。

まず、「故意又は過失によって」へのあてはめは、「スマホの充電くらい、いいじゃん」と開き直っていますから、Y自身、「故意」にやったというのを認めている感じですね。 次に、「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」へのあてはめに、ツッコミを入れられないでしょうか? …例えば、“スマホ充電によるCの財産「権~侵害」は大したものじゃない”といったツッコミが考えられます。これもありですが、先ほど見たように、財産権というのは民法といった法律の土台をなす憲法で守られている“人権”なので、重要な権利として扱われているといえます。その「侵害」が“大したものじゃない”というのは、ちょっと認められにくいかもしれません。
最後に、「これによって生じた損害」へのあてはめ(電気代)にツッコミを入れられないでしょうか? …実際、この電気代、いくらくらいになるでしょうね? まあスマホの機種とかにもよるとは思いますが、高校生Yが飲食店でスマホを充電したということは、その店で飲食している間だけ充電したことになりますか…もしYが友人たちとダベっていたら、結構長居したのでしょうが、そのような事情もありませんし、「①当事者確定」でCは“がんこ店主”と設定したので、そんなこと許さないでしょう。となると、「これによって生じた損害」=電気代は、微々たるものではないでしょうか…四捨五入したら0円かもしれません。ならば、「これによって生じた損害」なしといってもいいんじゃないでしょうか。

というわけで今回は、その金額次第で勝敗が変わってくると思います。

あえていうなら、CとYはDraw(引き分け)といったところでしょう…
電気代が微々たるものなら、Cも大して痛くありませんし。
次号では、刑事事件としてこの事例を扱ったときにどういうふうになるのか、ご覧いただければと思います。

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