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飲食店で勝手に充電<刑事事件編>(後編)

司法試験 /弁護士編④

「この章の罪」、もちろん窃盗罪(235条)も36章にあるのでこれにあてはまるのですが、これ「については、電気は、財物とみなす」と書いてあります。

というわけで、飲食店店主という「他人の」電気という「財物」にはあてはまりました。
そして、「窃取した」は難しい言葉ですが、先ほどちょっと言ったように「取」ったという意味で捉えておけばだいたい大丈夫です…そうすると、飲食店でスマホを充電した行為は、飲食店店主の電気を「取」ったということで、あてはまりますね。
よって、Yの行為には、窃盗罪が成立しそうです。

次に、Yの方の反論を考えていきましょう。Yになりきって、何か言いたいことはありませんか?…最初に今回の事例を見たとき、直感的に、「スマホを充電しただけで犯罪になるの!?」と思った方、いませんか?正直に手を挙げてください(笑)。それを反論とすればいいのです。

では、この言い分を実現する「③法的構成」を考えていきましょう。

今度は、刑法の「第1編 総則」を見ます。「こんなの犯罪じゃない!」という言い分を実現できる条文(“犯罪成立阻却事由”と呼びます)が、その中の「第7章 犯罪の不成立及び刑の減免」(35~42条)にあるからです。
そのうち、最初の35~37条に現れているのが、“違法性阻却事由”(犯罪っぽい行為の違法性・悪さを否定する事由)と呼ばれるものです。
ただ、35条からではなく、明確に判断しやすい「正当防衛」(36条)→次に「緊急避難」(37条)→最後に最も守備範囲の広い「正当行為」(35条)という順に検討します。

では、この順に「④あてはめ」ていきましょう。飲食店でYが“勝手に”スマホを充電した行為は、スマホの充電切れから「防衛」(36条)「避難」(37条)する行為とはいえるかもしれませんが、「正当」(36条・35条)なものとはいえませんし、「緊急」(37条)事態だったという事情もありません。また、様々な事件に対処するため条文がないけれども認められる違法性阻却事由として、被害者の同意といったものがありますが、飲食店でYが“勝手に”スマホを充電した以上、今回の被害者である飲食店店主は、これに同意していません。
とすると、違法性阻却事由はありません。

また、Yが心神喪失状態で行為をした(39条1項)とか、Yが14歳未満(41条)といった、責任阻却事由(犯罪っぽい行為者を責任を問えない・非難できない事由)もありません。
そうするとやはり、スマホを充電しただけでも犯罪になります。
ここまでが、司法試験・予備試験等の法律系の試験で問われる処理です。

しかし、法曹実務・実社会ではもう1つ、重要な処理があります。
刑事訴訟法248条には、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」と書いてあります(③法的構成)。これに今回の事例の事情を「④あてはめ」てみると、「犯人」Yの「性格」や「境遇」はよく分かりませんが、「年齢」は17歳です。成立した「犯罪」は窃盗罪ですが、Yが「窃取した」電気はお金に換算したらいくらくらいでしょうかね…1円もしないかもしれませんから、「犯罪の軽重及び情状」は、かなり軽いと思いませんか。もちろん、Yの「犯罪後の情況」として、同様の無断充電をくり返しているなら、お灸をすえてやる必要があるでしょうが、そのような事情もありません。

あなたが検察官Pだったら、このようなYの行為を起訴して、「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」を課す裁判を求めますか?
…おそらく多くの人は、NOと考えるのではないでしょうか。というわけで、今回の事例くらいでは、検察官は普通、Yの行為を起訴しないのです。
というわけで、結論はこのようになります。

まあ、PがYを起訴すればPの勝ちですし、起訴しないというのはそもそも両者間でケンカにすらなっていないとも捉えられますが、PがYに対して負けを認めてあげたと捉えると、Yの勝ちです。

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