【司法書士】試験科目の内容を知ろう!【民法編】


 収束の兆しもみえない熊本・大分地震の被災者の方々,特に司法書士試験の受験をお考えの方に対しましては,心よりお見舞い申し上げますとともに,1日も早い日常生活の回復を祈念いたします。
 新緑が目に鮮やかな季節となりました。天気の良い日は暖かで,学習にはもってこいの季節です。
 今回からは,司法書士試験の試験科目についてご紹介してまいります。今回は,午前の部で最も出題数が多い民法をご紹介します。

1 民法とは?
 民法とは,人間の社会活動において日常的に発生する他人に対して有する権利または他人に対して負う義務の内容および家族関係についての一定のルールを定めた法律です。日常生活の基本的なルールを定めた法律として,我々にとって最も身近な法律であるといえます。

2 民法の性質
 民法は,法律関係の内容を定める法律であり,実体法と呼ばれます。これに対して,法律関係の内容の実現についての手続を定める手続法(不動産登記法など)があります。

3 民法の構成
 民法は,大きくわけて,総則,物権・担保物権,債権,親族,相続から構成されています。このうち総則,物権・担保物権,債権は主として財産関係について規定しているため財産法と呼ばれ,親族,相続は家族間の関係について規定しているので家族法と呼ばれています。これらの内容は次のとおりです。
(1) 総則
 総則では,民法全体にかかわる一般的規定をまとめています。もっとも,主として財産法に関する規定が多いため財産法に分類されています。民法では,通則,人,法人,物,法律行為,期間の計算,時効などについて規定しています。
(2) 物権と担保物権
 物権とは所有権を代表とする物に対する直接的な排他的支配権のことをいい,物権ではこれらについて規定しています。民法では,占有権,所有権,地上権,永小作権,地役権,入会権,留置権,先取特権,質権,抵当権(根抵当権)についてその内容を定めています。地上権,永小作権,地役権,入会権は他人の物を使用・収益する物権ということから用益物権といい,留置権,先取特権,質権,抵当権(根抵当権)は債権(以下(3)参照)の担保を目的とする物権ということから担保物権といわれています。
(3) 債権
 特定の人に対して一定の行為を請求することができる権利を債権といい,これを有する者を債権者といい,反対に,一定の行為を請求される義務を債務といい,債務を負う者を債務者といいます。物権は誰に対しても主張できるのに対し,債権は当事者間でしか主張できないのが原則です。
 物権は法律に定められたものしか認められず,当事者同士の合意によって新たに創設したり内容を変更したりすることができないのに対し(物権法定主義),債権は原則として契約により自由にその内容を決めることができることとされています(契約自由の原則)。
 民法では,契約のうち特に典型的なものとして贈与,売買,交換,消費貸借,使用貸借,賃貸借,雇用,請負,委任,寄託,組合,終身定期金,和解の13種類を典型契約としてその内容について定めています。
(4) 親族
 親族とは6親等以内の血族,配偶者,3親等以内の姻族のことをいいます。民法では,総則のほか,婚姻,親子,親権,後見,補佐および補助,扶養についてその内容について定めています。
(5) 相続
 相続とは,人が死亡した時に,その人(被相続人)の権利義務関係が他の人(相続人)に包括的に引き継がれることをいいます。相続は権利だけでなく義務も引き継がれるため,債務(借金など)もその対象となります。民法では,総則のほか,相続人,相続の効力,相続の承認及び放棄,財産分離,相続人の不存在,遺言,遺留分についてその内容について定めています。

4 具体的事例
(1) 売買
 例えば,AがBから本を買う場合,AはBに対し,本の引渡しを受ける権利を有することとなる一方で本の代金を支払う義務を負うことになります。また,BはAに対し,代金を受け取る権利を有することとなる一方で本の引渡しをする義務を負うこととなります。
(2) 結婚(婚姻)
 男女が結婚(婚姻)した場合,その男女(夫婦)には,同居してお互いに協力し合わなければならないという同居・扶助義務,夫婦は保有する資産や収入等に応じて夫婦の生活費を負担するという婚姻費用分担義務,夫(妻)は妻(夫)以外と不貞行為をしてはいけないという貞操義務等の義務が生じる一方で,夫(妻)が死亡した場合には,生存している妻(夫)は,一定の割合で,死亡した夫(妻)の財産(遺産)を相続する権利(相続権)等の権利を有します。

5 司法書士試験のおける位置づけ
 先にも述べましたように,民法の出題数は,午前の部の出題問題数35問中20問(配点1問3点×20=60点)であり,多肢短答式の問題で,最も出題数が多い最重要科目です。この20問の内訳は,総則から3問,物権4問,担保物権5問,債権4問,親族・相続4問です。「民法を制するものは司法書士試験を制す」と言っても過言ではありません。司法書士試験の学習の中でもっとも時間をかけて丁寧に学習すべき科目であるといえます。
 また,最近では,債権法の改正,夫婦別姓の是非,女性の再婚禁止期間などについて議論されていますので,普段から新聞やニュース等を意識しておくことも大切です。