【司法書士】試験科目の内容を知ろう!
【民事訴訟法・民事執行法・民事保全法編】


 まもなく梅雨入りですね。蒸し暑い日もあれば,梅雨寒の日もあります。寒暖差が激しい季節ですので,体調管理には十分気をつけてくださいね。
 今回も,司法書士試験の試験科目についてご紹介して参ります。今回は,午後の部の民事訴訟法,民事執行法および民事保全法をご紹介します。

1 民事訴訟法とは?
 民事訴訟法とは,私人間の権利・義務をめぐって紛争が生じた場合,権利を主張する者(原告)が義務を負う者(被告)に対し,裁判所に訴えを起こし,法廷におけるその権利の主張・立証を通じて被告と争い,裁判所にその権利の有無につき公的な判断を求めるための訴訟の手続を定めた手続法です(実体法は,民法など)。例えば,AがBに期限を定めて1000万円の金銭を貸し付けたにもかかわらず,期限になって,催促してもBが1000万円の金銭の返済をしない場合に,Aは原告となり,裁判所に対し,Bを被告として1000万円の金銭の返済を求める訴えを起こすことができます。この訴えを「貸金請求訴訟」といい,訴えを起こすことを「訴えの提起」といいます。このような私人間の訴訟の手続を定めている手続法が民事訴訟法です。

2 民事執行法とは?
 民事執行法とは,裁判等で確定した権利(債務名義)につき,相手方が任意に義務の履行をしない場合に,裁判所(執行裁判所)の力を借りて,強制的にその権利の実現をはかるための強制執行等の手続を定めた手続法です。例えば,1の例で,Aが貸金請求訴訟で勝訴し,「被告Bは,原告Aに対し,平成○年○月○日までに金1000万円を支払え。」との判決(勝訴判決)を得たにもかかわらず,Bが任意に1000万円を支払わない場合に,Aは裁判所に強制執行の手続を申立て,裁判所の強制力をもって,Bから1000万円を取り立てることができます。このような強制執行等の手続を定めている手続法が民事執行法です。なお,法治国家である我が国においては,AはBに対し1000万円を貸しているからといって,A自らの力でBから直接1000万円を取り立てることはできません。これを「自力救済の禁止」といいます。

3 民事保全法とは?
 民事保全法は,将来なされるべき強制執行における権利の実現をあらかじめ保全するために,さしあたり現状を維持し,これを確保することを目的とする予防的かつ暫定的な処置である相手方の財産に対する仮の差押え(これを「仮差押え」といいます。),訴訟における争いの目的物(これを「係争物」といいます。)に関する仮の処分(これを「仮処分」といいます。)および仮の地位を定める仮処分の手続について定めた手続法です。例えば,1のように,私人間の権利・義務をめぐって紛争が生じた場合,Aは,最終的には,民事訴訟の手続によって権利の確定と実現を図らなければなりません(自力救済の禁止)。しかし,訴訟には多くの時間がかかる場合があります。その間にBが財産を隠匿し,あるいは,処分してしまうと,Aは,せっかく民事訴訟の手続を利用して,勝訴判決を得ても,強制執行の対象となるべき財産がBに残っておらず,権利の実現を得ることができない結果となり,訴訟手続きが無意味になってしまうおそれがあります。このような場合に,Aは,訴訟の提起前に,裁判所に対し仮差押えの申立てをし,裁判所の力をもってあらかじめBの所有する不動産を仮差押することができます。不動産に仮差押えがなされると,その不動産の登記簿に仮差押えの登記がなされます。そして,仮差押えの登記がなされたBの不動産は,その後所有権をCに移転させ,C名義に所有権移転登記をしても,CはAに対し対抗できませんので(これを「手続相対効」といいます。),Aは安心して訴訟を提起することができるわけです。このように仮差押えは,訴訟の提起前にBの処分権を相対的に剥奪し,Aの権利を保全する効果があります。この仮差押え等の民事保全の手続を定めている手続法が民事保全法です。

4 司法書士試験のおける位置づけと学習方法
 民事訴訟法の出題数は,午後の部の出題問題数35問中5問(配点1問3点×5=15点)であり,民事執行法の出題数は,午後の部の出題問題数35問中1問(配点1問3点×1=3点)であり,民事保全法の出題数は,午後の部の出題問題数35問中1問(配点1問3点×1=3点)であり,出題数の合計は7問となっています(平成27年度出題実績)。
 この7問の内訳は,訴訟の管轄,補助参加,訴えの提起,証拠調べ,訴えの取下げ・裁判上の和解・請求の放棄・請求の認諾(以上,民事訴訟法),保全異議・保全取消し(民事保全法),債務名義(民事執行法)です(平成27年度出題実績)。
 民事訴訟法,民事執行法および民事保全法は,学習範囲が広く,かつ,手続が難解であるにもかかわらず,合計7問しか出題されないため,どの程度学習すべきか非常に悩ましい科目であるといえます(午前の部の刑法と同じようなものです。)。
 難しい法律ですので,ある程度時間をかけて学習することは必要ですが,出題数を考慮すると,必要以上に多くの時間をかけることはできません。
 しかし,これらの科目は,実体法である民法,会社法,手続法である不動産登記法,商業登記法,次回ご紹介する供託法などの他の司法書士試験の受験科目とも密接に関連する部分がありますので,これらの科目との関係で学習をおろそかにすることはできません。また,特に民事訴訟法は,司法書士の資格を習得した後に,簡裁代理関係業務の資格を取るための特別研修や考査でもその知識や理解力が問われる科目であることも念頭に置いておく必要があります。
 学習方法としては,まずは,各法律で定められた手続の全体像を大まかにとらえた上で,自分は今,手続のどの部分を学習しているか意識することが大切です。また,耳慣れない法律用語がたくさん出てきますので,その都度,法律用語の定義を確認するようにしましょう。それでも,学習方法に悩んだときは,テキストや基本書を繰り返し読むことによって,なるべく手続全体の流れをつかむように心がけてください。
 その上で,過去に出題された問題(過去問)に出題された条文や判例の学習を繰り返し行って,少なくとも,過去問で出題されたところは,100%解答できるくらいまで,知識を研ぎ澄ましておくという学習方法をおすすめします。