【司法書士】試験科目の内容を知ろう!
【供託法編】


 梅雨入りしたものの,晴れて暑い日もあります。外出時には,熱中症のおそれがあるので,帽子または日傘を忘れずに。今回も,司法書士試験の試験科目についてご紹介してまいります。今回は,午後の部の供託法をご紹介します。

1 供託法とは?
 供託とは,債務者(供託者)が一定の財産(供託物)を国の機関である供託所に提出し,その管理に委ねると共に,供託所を通じてその財産を債権者(被供託者)に受領させることにより,一定の法律上の効果(例えば,弁済)を得ようとするものです。
 供託の目的物である財産を「供託物」,供託所に供託物を提出する者を「供託者」,供託所を通じて供託物を受領する者を「被供託者」といいます。
 供託の手続は,供託者による供託物の提出,供託所による供託物の管理,供託所から被供託者への供託物の交付(還付手続,あるいは,供託者による供託物の取戻手続,還付手続と取戻手続を併せて「払渡手続」という。)という三つの手続からなっており,これらの手続につき規定したのが,供託法(供託規則)等です。なお,供託をするには,必ず供託根拠法令等が必要であって,債務者はすべての物を無条件に供託所に供託することができるわけではありません。

2 具体的な供託事例
 例えば,平成27年7月1日に,AはBから金100万円(弁済期:平成28年6月30日,利息年5%,損害金年10%)借りたとします。そして,平成28年6月30日,Aは約束どおり,Bの家に元金である金100万円と利息金5万円を持参して,返済しようとしました。しかし,どういうわけか,Bはそれらを受け取ろうとはしません。Aとしては,Bがこれらの金銭を受領してくれないと,自らの責任でないにもかかわらず,債務不履行となり,翌日から年10%の損害金を支払わなくてはなりません。そこで,供託法では,このように債権者Bが弁済(金105万円)の受領を拒んだ場合(これを「受領拒否」といいます。)には,債務者Aは,債権者Bのために供託所に金105万円を供託する手続をして,その債務を免れることができる仕組みになっています(受領拒否を原因とする弁済供託,民法494条前段)。そして,債権者Bは,後日Aからの供託を受諾するなどの一定の手続をし(これを「還付請求」といいます),供託所から,金105万円の交付を受けることができます。このように,供託制度のおかげで,債務者は供託により債務を免れることができ,他方還付請求をすることにより債権者も債権の満足を図ることができます。

3 供託の種類
 1でも述べましたが,供託は,法令の規定に基づく場合についてのみ認められていまする。供託の原因により大別すると,現在,以下のような類型の供託が認められています。司法書士試験で特に重要なのは,(1)と(3)です。
(1) 弁済供託
 債権者の受領拒否,債権者不確知等の理由により債務の履行ができないときに,債務の目的物を債務履行地の供託所に供託して,その債務を免れる供託。
(2) 担保(保証)供託
 特定の相手方等が被る損害を担保するために,あらかじめ根拠法令に基づきなされる供託。
① 営業保証供託
 宅地建物取引業や旅行業など,営業者の取引が広範かつ継続的であるため,取引の相手方に対する損害や債務を担保するための供託。
② 裁判上の担保供託
 訴訟行為または裁判上の処分に関連して民訴法,民執法及び保全法により,担保の提供が規定されている場合の供託。
③ 税法上の保証供託
 相続税,贈与税等の国税の延納を許可しまたはその納税を猶予する場合,及び不動産取得税等の地方税の徴収を猶予する場合等に,その納付または徴収を確保するために,納税者に一定の担保を提供させるための供託。
(3) 執行供託
 執行手続の過程において,執行機関(裁判所または執行官)または執行当事者が,供託所にその執行の目的物(金銭または金銭以外のものであるときは,その換価代金)の管理と執行当事者への交付(配当)を行わせるため,執行の目的物を供託所に供託すること。
(4) 保管供託
 目的物の散逸を防止するために,供託物そのものの保管・保全を目的としてなされる供託。
(5) 没取供託
 公職選挙の立候補者が立候補に際して行う供託。当該立候補者の得票数が一定数に達しない場合には立候補の権利濫用として,国または地方公共団体が没取することができます。

4 司法書士試験のおける位置づけ
 供託法の出題数は,午後の部の出題問題数35問中3問(配点1問3点×3=9点)であり,多肢短答式の問題では,出題数が少ない,いわゆるマイナー科目です。具体的には,供託の当事者,弁済供託の払渡手続,供託金等の払渡請求権の消滅時効(平成27年度出題実績),供託物等の払渡手続,債権者不確知を原因とする弁済供託,執行供託(平成26年度出題実績),弁済供託,営業保証供託,弁済供託の受諾(平成25年度出題実績)が出題されています。
 出題数からすると,正直なところ,あまり時間をかけたくない科目ではあります。しかし,前回申し上げましたように,供託法は,民法,不動産登記法,民事執行法および民事保全法とも密接に関連するため,これらの科目との関係でも,決しておろそかにすることができない科目といえます。もっとも,難易度的には,難問が出題される可能性は低く,条文(先例)・過去問レベルの出題が続いていますので,条文(先例)・過去問を繰り返し学習する方法で充分だと思います。