【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例⑩


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 先日、東京で木枯らし1号が吹きました。長雨と台風で,秋らしいさわやかな季節を感じることのないまま、冬になってしまうのはとても残念です。季節の変わり目は、体調を崩しがちですので、皆さんも気をつけてくださいね。

 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
 なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-9イ】(最判昭56.3.19)
 民法200条2項ただし書にいう「その承継人が侵奪の事実を知っていたとき」とは,承継人がなんらかの形で占有の侵奪があったことについて認識を有していた場合をいい,占有の侵奪を単なる可能性のある事実として認識していただけでは足りない。

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 占有回収の訴えは,占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができません(民法200条2項本文)。
ただし,その承継人が侵奪の事実を知っていたときは,当該特定承継人に対し,占有回収の訴えを提起することができます(同条ただし書)。
では,Bが,Aの占有する動産甲を盗み,盗品であることを秘して動産甲をCに売却し,その際,Cは,動産甲が盗品である可能性があることは認識していたものの,動産甲が盗品であることを知ることはできなかった場合において,動産の引渡しを受けたCは,侵奪の事実を知っている特定承継人にあたるでしょうか。

最高裁は,「侵奪を知って占有を承継したということができるためには,右の承継人が少なくともなんらかの形での侵奪があったことについての認識を有していたことが必要であり,単に前主の占有取得がなんらかの犯罪行為ないし不法行為によるものであって,これによっては前主が正当な権利取得者とはなりえないものであることを知っていただけでは足りないことはもちろん,占有侵奪の事実があったかもしれないと考えていた場合でも,それが単に一つの可能性についての認識にとどまる限りは,未だ侵奪の事実を知っていたものということはできないと解するのが相当である。」と判示し,侵奪の事実の認識は明確でなければならず,Cの認識の程度では侵奪の事実を知っていたものとは判断できないため,Cは占有を侵奪した者の特定承継人には該当せず,Cに対して占有回収の訴えを提起することはできないと結論づけました。

本条の趣旨は,侵奪の事実について善意である特定承継人に占有が移ることによって,占有侵奪の撹乱状態が平静に帰したもの,すなわち,占有侵奪の瑕疵が治癒され,新たに完全な支配状態が生じたものとして,これを保護することにあります。
そこで、善意の特定承継人の保護の観点から,侵奪の事実の認識について,厳格な判断がなされたものと思われます。なお,本条で要求される善意とは,侵奪の事実を知らないことだけで足り,正当に権利を得たと信じることまでは必要とされていません。

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【民法・平29-エ】(大判昭13.12.26)
盗品が一旦善意の特定承継人の占有に帰したときは,以後,その善意の特定承継人より当該盗品の占有を特定承継した者が占有の取得当時に占有侵奪の事実を知っているときであっても,その者に対し,占有回収の訴えを提起することはできない。

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占有回収の訴えは,占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができません(民法200条2項本文)。
ただし,その承継人が侵奪の事実を知っていたときは,当該特定承継人に対し,占有回収の訴えを提起することができます(同条ただし書)。

本条の趣旨は,侵奪の事実について善意である特定承継人に占有が移ることによって,占有侵奪の撹乱状態が平静に帰したもの,すなわち,占有侵奪の瑕疵が治癒され,新たに完全な支配状態が生じたものとして,これを保護することにあります。
これは,事実状態の保護を目的とする占有制度の本旨に沿うものです。
したがって,本条ただし書の適用を受けない善意の特定承継人がいったん出現すれば,その後その者から侵奪の事実を知りつつ占有を承継した者がいても,その者に対して,占有回収の訴えを提起することができないという結論に至ります(本判例)。

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【不登法・平29-19ア】(昭29.6.15-1188)
民法886条の規定は,胎児にも相続能力を認めたものと解されるから,胎児は「亡何某妻何某胎児」として,相続登記をすることができる。
この場合には,未成年者の法定代理の規定が胎児にも類推適用される。
しかし,胎児の出生前においては,相続関係が未確定の状態にあるので,胎児のために遺産分割その他の処分行為をすることはできない。

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民法886条1項の規定は,胎児にも相続能力を認めたものと解されますので,胎児のための「亡何某妻何某胎児」として,法定相続分による相続登記を申請することができます(本先例,明31.11.19-1406,登記記録例193)
そして,未成年者の法定代理の規定は胎児にも類推適用されますので,母は,胎児に代理して,相続登記を申請することができます(本先例)
しかし,胎児の出生前においては,未だ胎児の生死が明らかでないことから(民法886条2項参照),相続関係が未確定の状態にあるものとして,胎児のために母が遺産分割協議をすることはできない旨の判断が示されています。

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【不登法・平29-19イ】(平4.3.18-1404)
被相続人甲が死亡し乙,丙及び戊(丁の代襲相続人)が相続した甲名義の不動産につき,相続登記未了のうちに乙の死亡によりA,B,Cが,丙の死亡によりX(Dの代襲相続人)が相続し,さらにその後,戊,A及びXが各自の相続分をそれぞれBに2分の1,Cに2分の1ずつ譲渡した場合において,B及びC名義への移転登記をするには,次の登記を順次申請するのが相当である。
① 相続を原因とする乙,丙及び戊名義への所有権移転の登記
② 乙持分について相続を原因とするB及びC名義への持分全部移転の登記(Aの印鑑証明書付相続分譲渡証書添付)
③ 丙持分について相続を原因とするX名義への持分全部移転の登記(B及びCは,持分移転登記請求権を代位原因としてXへの持分移転登記を申請することができる。)
④ 戊及びX持分について相続分の売買又は相続分の贈与等を原因とするB及びC名義 への持分全部移転の登記(共同申請)

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相続分の譲渡は,当事者間の意思の合致によって成立する契約です。
相続分が譲渡されれば,その法的効果として,相続財産を構成する個々の財産上の共有持分も譲受人に移転するものと解されます。

このように解すると,相続分の譲渡は,登記すべき物権変動となります。
そのため,相続分の譲渡がされ,これを登記しようとする場合には,物権変動の過程を如実に登記簿に反映させるために(忠実再現の原則),しかるべき登記を申請しなければなりません。

本事例では,甲名義の不動産につき,まず,相続を原因とする乙,丙および戊名義への所有権移転の登記を申請します(本先例①の登記)。次に,乙持分について相続を原因とするBおよびC名義への持分全部移転の登記を申請します(本先例②の登記)。
続いて,丙持分について相続を原因とするX名義への持分全部移転の登記を申請します(本先例③の登記)。
そして,最後に戊およびX持分について相続分の売買または相続分の贈与等を原因とするBおよびC名義への持分全部移転の登記を申請します(本先例④の登記)。

なお,②と③の登記は,どちらが先でも構いません。


乙の相続については,Aの相続分譲渡証明書(印鑑証明書付)を提供して,相続分の譲受人Bおよび同C名義に直接「相続」を原因とする持分全部移転登記を申請することはできます(本先例②の登記)。
このように,被相続人から相続分の譲受人へ直接持分全部移転登記ができるのは,被相続人の同一順位の共同相続人間において相続分の譲渡がなされた場合に限られます。

これに対して,X,戊の相続分譲渡証明書(印鑑証明書付)を提供して,丙の相続および甲の相続(亡丁の代襲相続、代襲相続人戊)については,Xおよび戊の相続分譲渡証明書(印鑑証明書付)を提供しても,丙または甲から、譲受人Bおよび同C名義に直接「相続」を原因とする所有権移転登記または持分全部移転登記を申請することはできません。

この場合,被相続人の同一順位の共同相続人間において相続分の譲渡がなされた場合に該当しないからです。
そこで,いったん戊およびX名義に相続登記を申請した上で(本先例①および③の登記),戊およびX持分につき相続分の売買または相続分の贈与等を原因とするBおよびC名義への持分全部移転の登記を申請しなければなりません(本先例④の登記)。
相続分の売買または相続分の贈与等を原因とするBおよびC名義への持分全部移転の登記は,戊またはXを登記義務者,BおよびCを登記権利者とする共同申請になります。

また,戊およびX持分につき相続分の売買または相続分の贈与等の原因および日付が同一であれば,登記原因およびその日付が同一である場合として,一の申請情報によって,その登記を申請することができます(不動産登記令4条、不動産登記規則35条9号)。