【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例⑪


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


 暦の上では,立冬を迎えました。とはいうもの,ここ数日は,ぽかぽか陽気で,上着を着ていると汗ばむくらいでした。
でも,油断して薄着で外出すると,夕方冷え込む日もあります。
寒暖差があって,体調維持が難しい時期ですが,体調を維持することも受験テクニックの1つです。
風邪など引かないように気をつけてくださいね。

 さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
 なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-9オ】(大判昭5.5.3)
 占有を侵奪された者は,侵奪者においてたとえ目的物を他人に貸渡したとしても,侵奪者に対し,占有回収の訴えを提起することができる

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 占有回収の訴えは,占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができません(民法200条2項本文)。
ただし,その承継人が侵奪の事実を知っていたときは,当該特定承継人に対し,占有回収の訴えを提起することができます(同条ただし書)。
この規定の趣旨は,被侵奪者が善意の特定承継人を害しない範囲で占有回収を容易にしようとするものです。そのため,民法200条2項ただし書にいう承継人には,侵奪者(間接占有者)のために代理占有をする者(直接占有者)も含まれます。
例えば,侵奪者が目的物を賃貸・寄託などしたときは賃借人や受寄者も「占有を侵奪した者の特定承継人」として扱われ,これらの者も侵奪の事実を知っている場合には,占有回収の訴え被告となり得ます(大判昭19.2.18)。
しかし,これらの者が侵奪の事実につき善意である場合には,これらの者に対し,占有回収の訴えを提起することはできません。
もっとも,後者の場合,侵奪者は間接占有者として引き続き占有回収の訴えの被告となり得ます(本判例)。
賃借人らは自己のために占有するのと同時に貸主のために代理占有するものであるので,侵奪者は現に目的物の占有をしているといえるからです。
 例えば,Bが,Aの占有する動産甲を盗み,盗品であることを秘して動産甲をその事実を知らないCに貸し渡した場合において,AはCに対して占有回収の訴えを提起することはできませんが,Bに対しては占有回収の訴えを提起することができます。

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【民法・平29-ウ】(大判大8.4.8)
 占有物につき所有権その他の本権を有する者といえども,その権利に基づき占有者に対し占有物の引渡しを訴求し,自己に占有を移すのは差し支えないが,占有者の意思に反し,占有物の占有を自己に移すのは不法であって,占有を侵奪した者に該当する。
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 占有物につき所有権を有する者であっても,現に占有物を占有する者の意思に反し,実力行使によって占有物の占有を自己に移すことはできません。
このように占有物の占有を実力行使によって自己に移した者は,たとえその占有物の所有権を有する者であっても,「占有を侵奪した者」として,占有回収の訴えの被告となり得ます。
これは,占有制度が事実状態の保護を目的とするものだからです。
そして,占有回収の訴えにおいては,もっぱら被告は原告の占有を侵奪したかどうか,原告の訴えが1年内であるかどうか等,占有訴権の要件の有無だけを審理するべきであり,被告は所有者として原告から目的物を返還させるだけ権利を持っていたかどうか,原告はその義務を不当に履行しなかったかどうか,というような根拠(本権)について裁判することはできないこととされています(大判昭7.2.16参照,民法202条2項)。
これは,占有回収の訴えと所有権に基づく目的物の返還請求の訴えが,それぞれ別個の目的を有するからです(民法202条1項)。
したがって,例えば,Aはその所有する動産甲をBに賃貸したが,Bが貸借期間が終了しても動産甲をAに返還しなかったことから,Aは実力でBから動産甲を奪った場合において,Bは,Aに対し,占有回収の訴えにより動産甲の返還を求めることができます。

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【不登法・平29-19ウ】(昭55.12.20-7145)
 共同相続人中の特定の者が特定の不動産を寄与分として取得する旨を内容とする情報(共同相続人の協議で定められたときは,その協議を証する情報(書面で作成された場合は印鑑証明書付き))は,寄与分を定める協議のほか,遺産分割協議が成立したことを証するものと解されるので,申請情報と併せて当該情報を相続を証する情報の一部として提供し,相続による所有権移転の登記申請があった場合には,これを受理して差し支えない。
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 共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,民法900条から902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とすることができます(寄与分の協議,民法904条の2)。
 そして,共同相続人の協議で相続人の1人が寄与分として特定の不動産を取得することを定めた場合には,寄与分を定める協議のほか,遺産分割協議が成立したことを証するものと解されることから,「○年○月○日相続」を原因とする所有権移転登記の申請情報と併せて,当該協議を証する情報(書面で作成された場合は印鑑証明書付き)を提供して,被相続人名義の不動産を寄与分として取得する相続人の単独名義とする所有権移転の登記申請ができます(本先例)。なお,この,遺産分割協議書等には,必ずしも寄与分に関する事項の記載を要しません。

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【不登法・平29-19エ】(平27.9.2-363)
配偶者及び妹としての相続人の資格を併有する者から相続による所有権の移転の登記が申請され,相続を証する情報として,戸(除)籍の謄本及び相続放棄申述受理証明書のほか,配偶者として相続の放棄をしたことを確認することができる相続放棄申述書の謄本及び妹としては相続の放棄をしていない旨が記載された印鑑証明書付きの上申書が提供された場合には,当該登記の申請を受理して差し支えない。
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 これまでの登記実務(先例)では,第1順位の相続人が次順位の相続人としての身分を併有する場合に,相続人がした相続の放棄は,併有するいずれの地位の相続も放棄するものと取り扱われてきました。
例えば,次順位の兄弟としての身分を有する養子が相続の放棄をしたときは,当然第1順位たる直系卑属としての相続権及び次順位たる兄弟としての相続権を放棄したものと解すべきであるとし(昭32.1.10-61),また,甲の二男丁が長女乙の養子になっている場合において,甲の死亡により丁が甲の二男としてその相続権を放棄したときには,長女乙の代襲相続権をも放棄したことにはなるものと解されるべきである(昭41.2.21-172)と取り扱われてきました。
相続による所有権移転の登記の申請情報と併せて提供される相続放棄申述受理証明書には,「被相続人との続柄」の記載がないため,登記官においては,相続人の資格を併有する者が,どの相続人の資格で相続の放棄をしたのかが書面上明らかとならないこと,通常,相続の放棄は,被相続人の債務から解放される目的でされることが多いと考えられることから,このように取り扱われてきたようです。
 しかしながら,相続の放棄は,通常,特定の相続人として自己のために開始した相続の効力を確定的に消滅させることを目的とする意思表示です。そして,その意思表示は,家庭裁判所への申述によってなされ(民法938条),その受理審判によって効力を生じる相手方のない単独行為です。
そのため,実体法上,相続の放棄の効果がどの相続人の資格に及ぶのかについては,相続の放棄をする者がどの相続人の資格において,相続の放棄をする意思があったのかという,当該相続人の意思解釈の問題に帰結します。したがって,第1順位の相続人が次順位の相続人としての身分を併有する場合には,相続人としての地位を2つ有し,かつ,相続を放棄し得る地位も2つ有すると考えることが合理的であり,相続の放棄の効果が当然に他の相続人の資格にも及ぶと解することは相当ではありません。
また,裁判例においても,それぞれの相続人の資格において相続の放棄をしたかどうかを判断すべきであるとしています(大判昭15.9.18ほか)。
そこで,併有する先順位の相続人の地位についての相続を放棄したことを確認することができる相続放棄申述受理証明書と次順位の相続人の地位についての相続は放棄しない旨の意思表示がなされた書面(印鑑証明書付きの上申書)が,相続による所有権の移転の登記の申請情報と併せて提供された場合には,登記官は,この添付情報から,当該相続人は配偶者として相続の放棄をしたが妹としては相続の放棄をしていない,と判断することが可能であるため,先順位の相続人としての相続の放棄の効果は,次順位の相続人としての相続人の資格には及ばないとものとして取り扱うことができるとしたのが本先例です(登研820P102参照)
なお,本先例によって,上記2つの先例(昭32.1.10-61,昭41.2.21-172)が変更されたわけではありません。提供された添付情報から,相続人の資格を併有する者が,どの相続人の資格で相続の放棄をしたのかが明らかにならない場合には,従前どおり,併有するいずれの資格においても相続の放棄をしたものとして取り扱われます。