【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例⑬


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


いよいよ師走に入りました。12月は忘年会など何かと落ち着かないことと思いますが,粛々と学習を進めてください。多少義理は欠いても,合格するまでは忘年会の出席もなるべく見合わせるのが賢明です。また,年末年始は,答練前にまとまって学習時間が確保できる最後の機会ですので,今から,学習計画を立てておきましょう。
さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-13ウ】(大判明43.3.23)
民法388条後段の規定は,当事者がその協議で地代を定めたときはその定めにより,協議が調わないときは裁判所に請求してこれを定めるという趣旨である。
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民法388条は,「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地又は建物につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その建物について,地上権が設定されたものとみなす。この場合において,地代は,当事者の請求により,裁判所が定める(民法388条)。」との規定です。この規定の後段では,「この場合において,地代は,当事者の請求により,裁判所が定める」としていますが,これは,当事者の協議により法定地上権の地代を定めるのを禁止する趣旨ではなく,当事者の協議が調った場合にはそれに従い,当事者の協議が調わなかった場合に,当事者の請求により裁判所が地代を定める趣旨であると解されています(通説,本先例)。また,当事者間で協議をなさずに直接裁判所に請求して地代を定めてもらうことも可能です。なお,裁判所が地代を定めたときは,その地代は,法定地上権の成立の時に遡ってその効力を生じるとするのが判例です(大判大5.9.20)

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【民法・平29-13エ】(大判昭8.12.23)
法定地上権が設定されたものとみなされた場合でも,建物等の買受人がその地上権を第三者に対抗するためには法定地上権設定の登記又は建物の取得の登記をすることを要する。
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借地権(建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権)は,その登記がなくても,土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは,これをもって第三者に対抗することができます(借地借家法10条1項)。この規定は,建物の所有を目的とする借地権につき,地上権または賃借権の登記がなくとも,借地権者が借地上に登記した建物を所有することを要件として,第三者に対抗することができる効力を付与するものです。また,借地権者を保護すると共に,建物という形で土地に投下された資本を保護すべきである社会経済上の要請に配慮した規定でもあります。地上権の場合,地上権者が地上権設定者に対し,地上権に基づく地上権設定登記請求権を有しますが,この規定により,簡易に第三者に対する対抗力を取得することもできます(大判大10.5.30参照)。これは,地上権が法定地上権であっても同様です(本判例)。簡易な方法により第三者に対する対抗力を付与する必要性は,法定地上権であっても,通常の地上権と異ならないからです。

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【民法・平29-15エ】(最判昭51.9.21)
債務者である土地の賃借人がその借地上に所有する建物を譲渡担保とした場合には,その建物のみを担保の目的に供したことが明らかであるなど特別の事情がない限り,右譲渡担保権の効力は,原則として借地権に及び,債権者が担保権の実行としての換価処分により建物の所有権をみずから確定的に取得し又は第三者にこれを取得させたときは,これに随伴して借地権もまた債権者又は第三者に譲渡されると解すべきである。
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借地権は,その賃借地上の建物の従たる権利と考えられていることから,借地上の建物を処分した場合には,原則として,借地権もその処分に従うべきことになります(民法87条2項)。具体的には,借地上の建物の所有権が第三者に移転する場合には,その借地権は,建物の所有権とともに,当然に第三者に移転するものと解されています(最判昭47.3.9ほか)。ところで,譲渡担保が登記上所有権移転の形式を取ることから,借地上の建物に対する譲渡担保権の設定が,賃借権の無断譲渡・転貸の禁止(民法612条1項)に違反するか否かが問題になります。この点については,①賃借権の譲渡または転貸がなされたものではないとする考え方(譲渡転貸非該当説)と,②賃借権の譲渡または転貸があったといえるものの賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとする考え方(背信性否定説)等がありますが,いずれの立場をとるにしても,譲渡担保権が実行され,建物の所有権が確定的に担保権者または第三者に移転した場合は,借地権は譲渡されたものと解され(本先例),地主の事後承諾,または,それに代わる許可の裁判の問題となります(借地借家法19条)。

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【不登法・平29-20イ】(昭45.10.5-4160)
「遺言執行者は不動産を売却してその代金中より負債を支払い残額を受遺者に分配する」とある遺言書に基づき,遺言執行者が不動産を売却して買主名義に所有権移転の登記を申請する場合には,その前提として相続による所有権移転の登記を要する。
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遺言執行者は,相続登記をする権限を当然には有しません。例えば,特定の不動産を「相続人Aに相続させる」旨の遺言に基づくAのための相続を原因とする所有権移転登記の申請は,相続人Aがすべきであって,遺言執行者からはすることができません(質疑登研523P140)。このような遺言がされた場合には,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,遺言者の死亡により直ちに当該物件がAに相続により承継されたものと解すべきであり(遺産分割の方法の指定,最判平3.4.19),また,登記実務上も,相続させる遺言については不動産登記法62条によりAが単独で登記申請をすることができますので,当該不動産が被相続人名義である限りは,遺言執行者の職務は顕在化せず,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しないからです(最判平7.1.24)。以上は,前回学習したとおりです。
ただし,遺言書に「遺言執行者は不動産を売却してその代金中より負債を支払い残額を受遺者に分配する」とある場合には,遺言執行者はその前提としての相続登記を申請することができます(本先例)。この場合,遺言者が死亡した後に遺言者の財産を処分することとなるので,当該財産は,相続の開始と同時にいったん遺言者の相続人に帰属し(登研824P234),第三者への売買による所有権移転の登記の申請の前提として,相続人名義への相続による所有権移転の登記の申請をしなければならず,当該登記の申請行為は,遺言執行者が遺言内容を実現するため必要不可欠なものであり,「遺言の執行に必要な行為」に属するといえるからです。

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【不登法・平29-20ウ】(昭30.5.23-973)
被相続人甲名義に登記されている不動産について,乙が包括遺贈を受け,その登記前に丙より遺留分減殺請求があった場合は,直接丙のために相続による所有権移転登記をすべきである。
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遺留分とは,相続財産(遺産)のうち,一定の相続人に法律上,必ず残しておかなければならないとされている一定の割合額をいい,被相続人は贈与や遺贈によってこれを奪うことができないものをいいます(民法1028条~1044条)。被相続人の親等の近しいものに遺産を与えようとする相続制度の趣旨からすれば,被相続人が妻や子など近親者である相続人に全く財産が残らないような処分を許すことは望ましくないからです。そして,遺留分権利者は,相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年間以内,または,相続開始の時から10年を経過するまで(民法1042条),遺留分を保全するのに必要な限度で,遺贈および一定の贈与(民法1030条)の減殺を請求することができます。遺留分減殺請求がなされた場合には,贈与または遺贈は,遺留分を侵害する限度において失効し,受贈者または受遺者が取得した権利は,その限度で遺留分権利者に帰属することになります(最判昭51.8.30参照)。具体的には,被相続人甲名義に登記されている不動産が甲から乙に遺贈され,その登記前に相続人丙から遺留分減殺請求があった場合において,当該遺贈が相続人丙の遺留分を侵害するものであった時は,当該遺贈はその限度で失効し,当該不動産は,当然に相続人丙に帰属することとなります。したがって,被相続人甲名義に登記されている不動産が乙に遺贈され,その登記前に相続人丙から遺留分減殺請求があったときは,直接丙のために登記をすることができます。この場合,登記原因は「平成○年○月○日相続」です。
これに対して,被相続人名義の不動産が遺贈され,既に遺贈の登記がなされている場合には,その登記を抹消することなく,「平成○年○月○日遺留分減殺」を原因とする所有権または持分移転の登記をすべきこととされています(本先例)