【司法書士】
今年の本試験~出題された判例・先例⑭


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行


師走に入り,街は早くもクリスマス,お正月の準備モードです。前回も申し上げましたが,受験生としては,ムードに流されず,誘いを断り,粛々と学習を進めてください。欠いた義理は,合格してからいくらでも埋め合わせできますから。
さて,今回も,今年の本試験で出題された判例・先例を紹介して参ります。
なお,本コーナーは司法書士試験用ですので,事案は判例・先例の趣旨を損なわない程度に適宜省略・簡略化して紹介しておりますので,その点をお含みおきください。

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【民法・平29-15ア】(最判平13.11.22)
甲が乙に対する金銭債務の担保として,甲の丙に対する既に生じ,又は将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡することとし,乙が丙に対して担保権実行として取立ての通知をするまでは甲に譲渡債権の取立てを許諾し,甲が取り立てた金銭について乙への引渡しを要しないとの内容のいわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約において,同契約に係る債権の譲渡を第三者に対抗するには,指名債権譲渡の対抗要件の方法によることができる。
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集合債権譲渡担保とは,債務者が第三債務者に対して有する既発生の債権および将来債権を一括して,債権者に対し,譲渡担保に供するものをいいます。集合債権譲渡契約では,通常,債権者は,債務者が第三債務者に対して有する債権の譲渡を受けるものの,債務者が債権者への弁済を継続する限り,債権者から委任を受けて第三債務者から債権の取立てを行い,その代金を直接受領することができ,債務者に債務不履行が生じた場合には,債権者は第三債務者に担保権実行として取立ての通知を行うことによって,以後,債権者が第三債務者から直接弁済を受けることができるものとされています。このように,集合債権譲渡担保も債権譲渡の一種ですので,これを第三者に対抗するには,対抗要件を具備しなければなりません。この対抗要件として指名債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法によることかできるか議論のあるところではありますが,最高裁は,債権譲渡について第三者に対する対抗要件を具備するためには,指名債権譲渡の対抗要件(確定日付ある証書による通知,民法467条2項)の方法によることかできると判示しています(本判例)。その理由として,集合債権譲渡担保契約においては,譲渡担保の対象となる債権は,債務者から債権者に確定的に譲渡されており,ただ,債務者と債権者間において,債権者に帰属した債権の一部について,債務者に取立権限を付与し,取り立てた金銭の債権者への引渡しを要しないとの合意が付加されているものと解すべきだからであるとされています。なお,この指名債権譲渡の通知の際,第三債務者に対し,債権者が債務者に付与された取立権限の行使への協力を依頼したとしても,第三者対抗要件の効果を妨げるものではないとされています。

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【民法・平29-15オ】(最判昭54.2.15,昭62.11.10)
構成部分の変動する集合動産であっても,その種類,所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によって目的物の範囲が特定される場合には,一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものと解すべきである。
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当事者間の合意によって動産を担保に取る方法として動産に質権を設定することができます(民法342条以下)。しかし,質権は,質権者が質権の目的となる動産の引渡しがその成立要件となっているため(民法344条),債務者は当該動産を手元に置いて事業を行うことができなくなってしまいます。そこで,債務者がそのまま事業に用いることができる状態で動産(例えば,工場内の機械設備)を担保に取る方法として,動産譲渡担保という方法が認められています。この動産譲渡担保には,工場内の機械設備に限られず,在庫商品のように一定期間流通する多数の動産の集合体をその目的とすることが認められています(集合動産譲渡担保)。しかし,在庫商品は,日常の取引活動により,その構成部分(数や種類)が日々刻々と変動するものです。したがって,このような集合動産を譲渡担保の目的とするには,その種類,所在場所および量的範囲を指定するなどの方法によって目的物の範囲を特定しなければなりません(本先例)。判例で認められた例としては,集合物譲渡担保権設定契約において,目的動産の種類および量的範囲として「普通棒鋼,異形棒鋼等一切の在庫商品と,その所在場所が譲渡担保権設定者の倉庫内及び同敷地・ヤード内」と指定されていた場合です(最判昭62.11.10)。なお,集合動産の譲渡担保の第三者に対する対抗要件は,占有改定であるとされています(同先例)

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【不登法・平29-20エ】(昭43.8.3-1837)
甲は,所有不動産を乙に遺贈し遺言執行者Aを指定したが,Aは甲の死亡後登記手続をしないまま死亡した。さらに,乙は右不動産を丙に遺贈し,遺言執行者Bを指定した。この場合,甲から乙への所有権移転の登記は,甲の相続人と乙の相続人又はBとの共同申請により,乙から丙への所有権移転の登記は,Bと丙との共同申請による。
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遺言はその内容によって,執行を必要とするものとしないものがあります。遺言の執行には,遺言執行者による場合と相続人による場合との二つの場合があり,遺言執行者による場合には,法律上必ず遺言執行者によらなければならない場合と,裁判所による選任または遺言者による指定があったために遺言執行者によらなければならない場合とがあります。そして,民法は相続人に遺言を執行させるのが特に不都合と考えられるような場合には,遺言執行者でなければ遺言の執行をできない旨を定めています(民法893条,894条)。また,民法は,遺言執行者の権限について規定し,遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する旨を定めるとともに(民法1012条),遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない旨を定めています(民法1013条)。したがって,必ず遺言執行者によって遺言の執行がなされなければならない場合には,相続人はその範囲内で遺言の執行をすることができず,また,遺言執行者による遺言の執行が法律上義務づけられていない場合であっても,遺言執行者がある場合には,相続人は遺言の執行を妨げるような行為をすることができません。このような規定のない場合の遣言の執行は,遺言執行者の選任または指定がない限り,相続人が直接行なってよいとされています。例えば,特定の不動産の遺贈がなされると,その所有権自体は,民法上遺贈の効力が生ずると同時に受遺者に移転しますが,遺言執行者は,なお受遺者に対抗要件を具備させるために遺言の執行として所有権移転の登記手続をしなければならなりません。
本先例の事案においては,遺贈による不動産の所有権移転が2回にわたってなされ,いずれの遺贈についても遺言執行者が指定されています。したがって,遺言執行者Aは,遺贈の目的である不動産について,乙に対抗要件を具備させるため,甲から乙への所有権移転の登記申請の登記義務者にならなければなりません。また,遺言執行者Bは,丙に対抗要件を具備させるため,甲から乙への所有権移転の登記申請の登記権利者となるとともに,乙から丙への所有権移転の登記申請の登記義務者にならなければなりません。ところが,本先例の事案では,遺言執行者Aが所定の登記手続をする前に死亡していますので,当初から遣言執行者がいない場合と同様に,甲の相続人が登記義務者となり得ます。また,遺言執行者Bが選任されているにもかかわらず,甲から乙への所有権移転の登記において,乙の相続人が登記権利者となって登記の申請をする権限が失わないのは,遺言執行者Bの本来の遺言執行は,遺贈による乙から丙への所有権移転登記の申請であり,甲から乙への所有権移転の登記の申請において遺言執行者Bが登記権利者となることは,乙の遺言執行者Bが遺言の執行(乙から丙への所有権移転登記)をするための必要な前提行為として認められているにすぎないためです。

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【不登法・平29-21イ】(昭35.8.2-1971)
売買代金を分割して支払う場合における買戻の特約の登記の申請情報の内容である「買主が支払った代金」とは,買主が現実に支払った金額及び総代金を提供すべきである。
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買戻特約の登記の申請情報には,その内容である「買主が支払った代金」とは,買主が現実に支払った売買代金に限って提供すべきであるとされています(昭35.8.1-1934)。そこで,売買代金を分割して支払う旨の約定がある場合における買戻の特約の登記の申請情報の内容である「買主が支払った代金」とは,買主がすでに現実に支払った分割代金を意味するものか,それとも売買総代金を意味するのかという疑問が生じます。本来的には,買主がすでに現実に支払った分割代金を申請情報の内容として提供すべきであり,売買総代金を申請情報の内容として提供し,これが公示されたとしても第三者への対抗要件にはなりません。しかし,分割代金の最終的な支払い額である売買の総代金を提供し,これを公示することは,登記簿を見てこれから取引をしようとする第三者に有益であると考えられることから,売買の総代金をも申請情報の内容として提供することが求められたものと思われます。